第107話 旅の冒険者です
「皆の衆!先ほど説明した通り、調査に旅の冒険者の皆さんが同行してくれることになった。」
「Bランク冒険者のキースです。」
先ほどと同様に冒険者タグを見せながら自己紹介をするキース。そして同様に自己紹介を始めるアルト。
「同じくBランクのアルトです。それから僕の従魔で、一角黒豹のテナです。ちゃんとテイムしてあって、皆さんを襲うようなことはないので安心してください。」
アルトの自己紹介とテナの存在に大きくどよめいた村人たちだったが、村長が声を上げて皆をなだめる。ざわめきがおさまったところで、レシェンタが軽く咳払いをして自己紹介をする。
「冒険者ではありませんが、魔法使いのレシェンタです。よろしくお願いします。」
今回テナを紹介することにしたのは、キースの提案だった。成獣となったテナにも実戦経験を積ませるべきだし、テイマーと従魔としてギルドにも正式に登録されているのだから、この旅では隠す必要はないだろうとのことだった。
レシェンタは、宮廷魔導士と名乗って妙に特別扱いされるのが嫌で、小さな町や村では“ただの魔法使い”ということにしたいらしい。
「えー、村長から説明があったと思いますが、我々の同行はあくまでも念のためです。危険が伴うかもしれないし、何もないかもしれない。何が起こるかは我々にもわからないため、皆さんも十分に注意してください。」
キースの言葉に、集まった村人たちの間にピリッと緊張感が走った。
村長もキースも、“魔獣”が関わっている可能性については明言していない。それは村人たちの恐怖心を煽らないためだったが、かといって楽観的に構えられても困る。そのため、キースが注意を促したのだ。
実際、Bランク冒険者からの“何が起こるかわからない”“注意してほしい”という言葉は、村人たちにほどよい緊張感を与えたようだ。
「わかりました。では皆さん、行きましょう。」
調査に向かう村人たちをまとめている青年――村長の息子らしい――が、元気よく号令をかけた。
◇
「キース。」
干上がってしまった川沿いの道を調査のために歩いていると、不意にアルトがくい、とキースの服を引っ張る。
「いたか。」
「うん。この先…だいたい50メートルくらいかな。魔力を感じる。」
「わかった、ありがとうな。」
アルトとキースが小声で話したあと、姿を消したエメラがレシェンタの元へと飛んでいく。
テイムしていると説明したとはいえ、一角黒豹のすぐ近くを歩くのは少し、いやかなり勇気がいるだろう。そこでキースとアルトとテナは、殿も兼ねて村人たちとは少し離れて歩くことにしたのだ。
一団の先頭では、エメラからの伝言を受けたレシェンタが村人たちに説明を始めた。
この先に魔獣がいる気配を感じる。恐らくBランク相当の魔獣なので、危ないから十分に注意してほしい。
魔獣を視認したら、すぐに一か所に集まってじっとしていてほしい。その方が皆さんを守りやすいから。
――と、このようなことを村人たちに伝えた。
自力で戦う意思を見せた若者も数名いたが、Bランク相当と聞いて意気消沈していた。
逆に、魔獣と聞いてカタカタと震える者も数名いた。が、レシェンタがうまくフォローしたようだ。
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