第106話 十中八九
「ト、トレントですと!?」
今度はガタッと椅子から立ち上がり、目を見開く村長。それに対し、遠慮がちにゆっくりと頷くキース。
「まだ予想の域を出ませんが…可能性は高いかと。この件に関して、ギルドへの調査依頼はまだ出していないんですよね?」
「え、ええ。まさかそのような事態だとは思いませんでしたので…」
ソワソワと狼狽える村長に、レシェンタが優しく声をかける。
「村長さん、お気を悪くしたならすみません。ですが、彼はあなたを責めているわけではないんですよ。ただ、既に依頼を受けた冒険者や調査員がいるのなら、私たちが勝手に出しゃばるわけにはいかないので…そのための確認です。」
「ああ!そうでしたか。」
レシェンタのフォローで、パッと顔色を良くした村長。
「では、周辺の調査には俺たちが同行します。状況によっては、その場で討伐できるかもしれませんし。」
「そうしていただけるとありがたいですが…そちらの彼も一緒に行かれるのですか?」
村長が“彼”と示したのは、アルトだった。
「ええ、勿論です。ここにいるアルトはこう見えて、俺と同じBランクの冒険者ですから。」
そう言ってチャリ、と冒険者タグを見せるキース。それに倣い、慌ててタグを出すアルト。それを見た村長はまたもや大きく目を見開いた。
「なんと、お二方はBランク!?これはお見それしました…では、村の衆には私から伝えておきます。何卒、よろしくお願いいたします。」
「まだ魔獣の仕業と決まったわけではないので、そんなにかしこまらないでくださいな。何もなければ、私たちはただの野次馬なんですから。個人的には、彼の杞憂であってくれることを祈っています。」
冗談めかして言うレシェンタの言葉に、少し表情が和らいだ様子の村長。
「おっしゃる通りですな。では、よろしくお願いしますよ。」
「ええ、任せてくださいな。」
◇
村長の家を出た後、時間までアルト達は話しながら村の中を見て回ることにした。
「ねえキース、トレントって本当なの?」
「ああ。十中八九、な。」
眉間に皺を寄せたレシェンタの質問に、はっきりと答えるキース。
「たった二日でこの有様って話が本当なら、自然現象ってのはありえない。魔獣の仕業だとすると、思い当たるのはトレント一択だ。」
「魔獣に関しては、私よりも冒険者のあなたの方が詳しいものね。怯えさせないように村長にはああ言ったけど、キースがそこまで言うのなら間違いないわね。久々に腕が鳴るわ。」
「久々?」
レシェンタの言葉に疑問符を浮かべるキース。つい先日も、盗賊や一角黒豹と戦ったばかりのはずだ。
「討伐ってことは、加減しなくていいんでしょ?」
「あー、そういうことか。」
ニヤリと笑うレシェンタに、納得したようにこちらもニヤリと笑みを返すキース。
「ねえキース、トレントって木の姿をした魔獣なんだよね?」
子猫の姿のテナをカバンから出しながら、アルトが問いかける。
「ああその通りだ。そのほかの特徴は頭に入ってるか?」
「もちろん!」
樹の魔獣――樹木に擬態するBランクの魔獣。
周囲の水や土中の養分を吸い尽くし、周辺の植物を軒並み枯らすことがある。
それに留まらず、小動物や弱い魔獣、果ては人間までをも捕食対象としており、近づけば枝や根で攻撃してくる。
根や枝を切断しても次々に生えてくるため、炎や雷の魔法攻撃、あるいは火薬や爆薬などを用いた攻撃が有効とされている。
「枝だけじゃなくて、根っこでの攻撃にも要注意なんだよね。あとは…」
しっかりと魔獣のことを勉強しているアルトの様子に、キースは顔を綻ばせる。
「岩蜥蜴の時といい、よく覚えてるな。」
「うん!僕もキースみたいになりたくて、いっぱい勉強したから!」
「そ…っか。」
キースみたいになりたくて――まさかそんなことを言われるとは思わず、こっそりと照れるキースだった。
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