第103話 テナとコハクとセレナ
ギルマスへの報告を済ませた後、アルトとテナ、エメラ、コハクはテイマー・従魔管理課へと向かった。
キースとレシェンタは、今回の件の対応や今後の方針についてギルマスと何やら相談をするらしい。
「あれ、アルト君だ。どうして此処へ…はっ!もしかしてもしかして、従魔ちゃんが増えたとか?」
バッと顔を上げてアルトに突撃してきたのは、テイマー・従魔管理課で唯一の職員――セレナである。
「えっと…そうではないんですが。」
「そっかぁ…それじゃ、テナちゃんに何かあったの?」
一瞬気を落とした様子を見せたセレナだったが、切り替えてキリリと表情を引き締める。
「大雑把に言うとそうです。あの、このことはギルマスさんの許可が出るまでは秘密にしておいてほしいんですが…」
「相変わらず秘密が多くて大変だね。大丈夫!こう見えて口は堅いから、信用して!」
そう言ってウインクするセレナ。彼女には契約精霊であるエメラのことも話しているので、秘密の話はこれが初めてというわけでもない。
そしてエメラのことが何も噂になっていないということは、セレナが秘密を守ってくれているということだ。なのでアルトは安心して切り出した。
「わかりました。実は…」
そしてアルトは今回の件について――マジックアイテムのことは伏せて――簡単に説明した。
◇
「えぇー--っ!?」
驚いて大声を出すセレナの口を、慌ててエメラが塞ぐ。
「しーっ!セレナ、声が大きいわよ。」
「え、ああ、ごめんなさい。」
ハッとしたセレナは、声を潜めて続きを話しはじめた。
「魔獣の親が子に魔力を…なんて、聞いたことがないなぁ。」
アルトの肩に乗ったテナの背中を撫でながら、首を傾げるセレナ。
「疑うみたいで悪いんだけど、テナちゃんが大きくなるところを実際に見せて貰ってもいい?」
「僕は構わないですよ。テナ、お願いできる?」
「にゃあ!」
元気よく返事をしたテナは、ぴょんとアルトの肩から床に飛び降りた。そしてぐっと背伸びをしたかと思うと、あっという間に大人の一角黒豹の姿になった。
その様子を目の当たりにしたセレナは、大きく目を見開いた。
「凄い!凄いよテナ、アルト!こんなことができる従魔ちゃんがいるなんて、聞いたこともないよ!本当に凄い!」
凄い凄いと連呼するセレナの反応に、驚きつつも嬉しそうにはにかむアルト。
自分たちの周囲で起きることに対して、キースやレシェンタ、ギルマスたちは“規格外”“常識外れ”“あり得ない”といった言葉をよく使う。
その言葉にアルトを責めたり貶したりする意図がないことはわかっているのだが、それでもどこか引っかかるものを感じていたアルト。
しかし、セレナはただ“凄い”と褒めてくれる。それも、アルトやその魔法だけでなく、魔獣であるテナや精霊であるエメラのことまで、純粋に“凄い”“素敵”“キレイ”と褒めてくれる。
彼女の真っ直ぐな褒め言葉が、アルトにはとても嬉しかったのだ。
「ねね、アルト君。」
「どうしました?」
コソッと話しかけてくるセレナに、小首を傾げて聞き返すアルト。
「テナちゃん…さん?を撫でてみたいんだけど、大丈夫か聞いてみてくれる?」
うずうずを隠し切れないセレナの様子にクスリと笑みを漏らしながら、快諾するアルト。
「わかりました。テナ、どう?セレナさんが触っても大丈夫?」
「がう!」
「いいみたいですよ。」
成長して姿が変わっていても、完全に意志疎通ができている幼いテイマーと従魔。その様子に、安堵の笑みを向けるセレナ。
「相変わらず、意思疎通は完璧なのね。ふふ、ありがとう。それじゃあ…」
そうっとテナの背中に触れたセレナは、あまりの触り心地の良さと、Aランク魔獣である一角黒豹に触れられた感動に震える。
「ふわあぁっ…ツヤッツヤで、とってもキレイ…君ももう立派な一角黒豹だね。」
「同感。大人の姿になったテナの毛並みは、とてもツヤツヤで気持ちいい。」
「え?」
急に聞こえた見知らぬ声に驚いて、キョロキョロと周囲を見回すセレナ。
「?」
はたとアルトの肩に視線を向けると、小首を傾げている琥珀色の精霊とセレナの視線が合う。
「え…っと、初めまして、かな?エメラさんとは別の精霊さんだよね。」
「あっ!コハクのこと、まだ紹介してませんでしたっけ。新しい契約精霊で、土の精霊のコハクです。」
アルトに紹介され、軽く会釈をするコハク。
新たな精霊の登場に、パァッと目を輝かせるセレナ。
「テイマー・従魔管理課職員のセレナです。えっと、よろしくお願いしますね、コハクさん。」
「よろしく。」
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