第101話 調査員たち
アルト達がもとの場所へと戻ると、調査隊の人たちがソワソワ、ビクビク?した様子で待っているのが見えた。
アルト達に気づいた彼らはパッと明るい表情になり、わっと駆け寄ってきた。
「戻っていらしてよかった。皆さんお怪我はありませんか?」
「岩場の方に雷が何度も落ちて、大きな音もして…心配していたんですよ。」
「それで、魔獣はどうなりましたか?」
調査員たちに囲まれて矢継ぎ早に話しかけられ、あまりの情報量に目を回すアルト。
「ちょ、待てって。そんな一度に答えられるかよ。」
キースに一喝され、はっと口をつぐむ調査員たち。
「こ、これは失礼しました!相手はAランクの魔獣と聞いていたものですから、心配になってしまい…」
「えっと…その、心配かけちゃってごめんなさい。」
申し訳なさそうに、図らずも上目遣いになりながら調査員たちに謝るアルト。その健気な姿に、調査隊の面々はきゅんっと胸をときめかせる。
急に静かになって目を丸くするキース達だったが、いいタイミングだと思ったレシェンタが、掻い摘んで状況を説明する。
自分たちは全員無事であること。
岩場には気が立った一角黒豹が棲みついていたこと。
交戦した結果、一角黒豹は命を落としたこと。
それ以上の詳しいことは自分たちからギルマスに報告するつもりであること。
「…なるほど。わかりました。それで、討伐した一角黒豹はどこに…?」
討伐――その言葉にアルトは少しだけ表情を曇らせたが、何も言わなかった。魔獣に対する一般的な認識としては、それが正しいのだ。
テナの母親の骸は、丁寧に布に包んで、アルト達がここまで運んできた。
その布をそっとめくって見せると、調査員たちは息を呑んだり後ずさったり、ヒッと小さく悲鳴を上げたりした。
「た、確かに一角黒豹ですね…本当にありがとうございました。これで調査を続けられそうです。」
「ああ。アルトの話じゃ、もうこの周辺には強い魔獣の気配はないそうだ。だよな?」
キースに問いかけられ、頷きを返すアルト。
「それほど強くない魔獣たちはちらほらいますけど…みんな、息を潜めているみたいです。」
「あれだけ派手に戦っていれば、弱い魔獣は怯えて隠れるでしょうね。」
調査員の言葉に、アルト達はなるほどと頷く。
「それでは、一旦レカンタの街へ戻りましょうか。」
「調査はいいのか?」
「岩場には一角黒豹がいた、それだけでも十分な情報です。まずはこのことをギルドに報告して、今後の方針を決めていきませんと。」
調査員の言葉に納得するキース。
「なるほどな。んじゃ、帰り道も護衛しながら行きますか。」
「そうね。一角黒豹の気配がなくなったことで、縄張り争い的に別の魔獣が来てしまうかもしれないもの。」
レシェンタの言葉に、ビクッと肩を揺らす調査員たち。
「魔獣が近づいたら僕が気づくよ。必要なら【魔力感知】を使いながら帰ろうか?」
「おいおい、あれだけ戦ってまだそんなに魔法を使えるのかよ。」
キースの問いにキョトンとした顔を見せるアルト。
そんな様子を見ていた調査員たちは、余力を残してAランクの魔獣を退けた“頼りになりすぎる護衛たち”に対し、「今後も魔獣の調査の時は護衛して貰えないかな」などと叶わぬ願いを抱くのだった。
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