第98話 テナの成長
そして、テナはというと―――なんと、倒れている母親と同等の体格にまで成長していた。
「テナ……なの?」
「がう。」
半信半疑で話しかけたアルトに、短く答えるテナ。アルトは目を見開き、エメラと顔を見合わせる。
ふと視線を落としたテナは、目の前に横たわる母親の姿をじっと見つめる。そしてゆっくりと、動かなくなった母親の顔に自身の額や頬を擦り付けた。
その様子からは、先刻泣き喚いていたときのような悲壮感は感じられない。目の前の現実を受け入れ、ただ静かに母親との別れを惜しんでいるようだった。
一方でキース達は、呆気に取られて放心していた。
テナの母の死を悼んだり悲しんだり…そういった感情よりも、テナの急成長に対する驚きの方が大きかったのだ。
皆が硬直していると、顔を上げたテナがトトッとアルトの方へとやってきた。今のテナがアルトと並ぶと、アルトの胸ほどの高さにテナの頭があり、テナ自身もアルトとの相対的な体格差に目を丸くして驚いている。
「わぁ、随分大きくなったんだね、テナ。あはは、くすぐったいよ。」
頭を撫でるアルトの頬を、ぺろぺろと舐めてじゃれつくテナ。
「あー、うん。間違いなくテナみたいだな。ほら、額にテイムの印がある。アルト、一応お前の印も見せてくれるか。」
「うん、いいよ。」
キースの言葉に従ってアルトが右手に魔力を込めると、テナの額にあるそれと同じ形の印が手の甲に浮かび上がる。皆がアルトの印とテナの印とを見比べて、確かにそうだと納得する。
「すっかり大きくなったのねぇ、テナ。」
「毛並み…ふわふわだったのが、ツヤツヤになってる。」
「本当だ。って…え、ちょ、テナ?何を……わぁ!」
「がうっ。」
テナを撫でるエメラとコハク、そしてアルトを背中に乗せてご満悦な様子のテナ。その微笑ましい様子を見守りながらも、腕組みをして考え込む大人たち。
「しっかし、ありゃ一体どういうことなんだ。」
「考えられるのは…いいえ、むしろそれしか考えられないんだけど……」
レシェンタはぶつぶつ言いながら、辿り着いた仮説を口にする。
「テナの母親が、子供であるテナに魔力を譲渡した…んでしょうね。」
「魔獣が子供に魔力を?そんなこと可能なのか?」
目を丸くしたキースの言葉に、レシェンタ自身も首を傾げながら話を続ける。
「私はそんな話聞いたことがないけれど…実際にこの目で見ちゃったし、他に考えられないもの。ただ、魔獣に関することは専門外だから、いずれ王都に戻ったら専門家に聞いてみるわ。」
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