第96話 テナと母親
「【浮…うわっとと。」
魔法でテナを助けようとしたアルトだったが、何かに頭を押されて邪魔されてしまった。
アルトの頭を押した…否、踏んだのは、一角黒豹だった。
「っ大丈夫かアルト!」
「僕は平気!それよりもテナを…」
慌てたアルトがテナの方へと再び視線を向けると、一角黒豹がテナの首元を咥えて地上に降り立ったところだった。
アルトを踏み台にして大きくジャンプした一角黒豹は、空中でテナをキャッチしたらしい。
アルト達が目を丸くしていると、一角黒豹の後ろ脚についていた飾り、その宝石がパキンと音を立てて割れ、飾り本体も後ろ脚から外れた。宝石はもう光らなくなり、力を失ったように見える。
アルトの脳内には、先ほど作戦を伝えられたときのレシェンタの言葉が浮かぶ。
「――いい?現時点では、あの飾りが原因かどうかはわからないの。だから、あれを壊しても一角黒豹には変化はないかもしれない。その時は……とにかく、身の安全を守ることを第一に考えてね。」
もしも、一角黒豹がまだ正気に戻っていなければ…テナが危ない。しかし、下手に動いて刺激するのもまずい。
一角黒豹がどう動くかを、固唾を呑んで見守る一同。
すると――
一角黒豹は口に咥えていたテナをそっと下ろし、すりすりと頬ずりを始めた。
その様子にホッと胸を撫で下す一同。キースとレシェンタは構えていた剣と杖を下げ、アルトは思わずその場にへたり込んだ。
テナは目を細めて、嬉しそうに母親に頬ずりをして甘えている。
「時間はかかったが、これでようやく感動の親子の再会ってわけだ。」
キースの言葉に、全員が表情を綻ばせて同意する。
「…ところでアルト、あなた首や身体は大丈夫なの?大人の一角黒豹に頭を踏まれたのよ?」
心配そうな表情をしたエメラに問いかけられ、そういえばそうだったと今になって自分の身体のあちこちを確認するアルト。
「う、うん。平気みたい。【身体強化】と【装甲】のおかげかな。」
「そう、よかったわ。」
しかし、そんな穏やかな時間は長くは続かなかった。
一角黒豹がガフッと大きく咳き込み、倒れたのだ。
「!?」
その様子に、慌てて駆け寄るアルト達。
急いでアルトとレシェンタ、二人掛かりで一角黒豹に【治癒】の魔法をかける。
キースとエメラ、コハクは心配そうな顔をしているテナに寄り添い、頭や背中を撫でながら治療の様子を一緒に見守っている。
身体のあちこちにできていた傷はあっという間に治ったが、一角黒豹はまだゼエゼエと荒い呼吸をしている。
眉間に皺を寄せたレシェンタは、チラリと壊れた飾りの方へと目を向ける。
「アルトはそのまま治療を続けててくれる?ちょっと気になることがあるの。」
「わかった。」
アルトが力強く頷くのを確認したレシェンタは、一角黒豹の足元の方へと移動する。そして壊れた飾りの破片を布で包みながら拾い、調べていく。
「っ!!これは……」
「どうした?何かわかったのか。」
レシェンタの様子を見に来たキースが、小声で尋ねる。
「ええ………最悪よ。」
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