第1話 魔力持ち(マギア)
この世界には“魔力”と呼ばれる魔法の力がある。魔力をもって生まれた者は5歳になる頃にその力が発現し、魔力をもつ者は“魔力持ち”と呼ばれる。
親がマギアであればその子どもや孫も、その魔力を受け継ぎやすいと言われている。
そのため、貴族などはより強い魔力をもつマギアを輩出しようと、マギアの平民を養子や妻に迎えようとする。
その結果、王族や貴族にはマギアが比較的多くなり、50人に1人程度の割合で発現する。一方で、両親ともマギアでなくとも、その子供がマギアとして生まれることもある。
そういった形で発現するのはやはり珍しく、両親ともマギアでない平民の子にマギアが発現する割合は、1000人に1人程度と言われている。
◇
ある村に生まれた、栗色の髪に黒い瞳の少年―――アルトは、不思議な力を持っていた。本人がそれに気づいたのは、ちょうど5歳の誕生日をすぎた頃。
ある時、母が大切にしていた花壇の花が萎れていたのを見て、アルトは「もう一度元気になってほしい」と願った。すると翌朝、萎れていたはずの花が再び元気に咲いていた。
またある時は、アルトの頭上に落ちてきたコップが不思議な動きをした。コップはアルトの頭に当たる直前にふわりと浮いて方向を変え、アルトにぶつかることも割れることもなく、足元にころりと転がったのだ。
両親はそんなアルトのことを時には気味悪がり、時には嘘つきと罵った。彼らは次第にアルトのことを避けるようになり、二つ年上の兄――アーノルドばかりを可愛がるようになった。
両親がそうしたように、兄のアーノルドもアルトのことを罵ったり、無視したりするようになった。
幸か不幸か、彼らが“気味が悪い子”であるアルトに触れることを恐れたため、暴力はなかった。それでも、幼いアルトには寂しく、辛い日々だった。
アルトは寂しさを紛らわすように村のあちこちを歩き回り、いつしか“おばば様”のもとを訪れるようになった。
おばば様は村で一番のお年寄りであり、一番の物知りでもあったため、アルトに読み書きを教えてくれたり、色々な話を聞かせてくれたりした。
ある日、アルトは自分の周囲で起こる不思議なことについて、おばば様に相談してみた。
「おばば様、僕は変な子なのかな?」
「私の知っているアルトは、とても素直で優しい子だよ。どうしてそんなことを聞くんだい?」
「僕が困っていると、いきなり風が吹いたり、物が浮かんだりするんだよ。パパもママも兄さんも、僕のことを変な子だって、気味が悪いって言うんだ。」
「そう、そんなことがあったのかい。ちっとも変なんかじゃないよ。他にはどんなことがあったのか、おばばに聞かせておくれ。」
おばば様の優しい言葉に、アルトは嬉しくなった。
「おばば様は信じてくれるの?僕のことを嘘つきだって言わないの?」
「もちろんだよ。そんなこと、思うはずがないだろう。」
「でも、パパとママは…」
家族に浴びせられた言葉を思い出したアルトは泣きそうになり、それ以上は口にしなかった。誤魔化すように目元をゴシゴシと擦った。
そして、身の回りで起こった色々なことを、おばば様に話した。
うんうんと相槌を打ちながらアルトの話を全て聞いたおばば様は、ひとつの結論を口にした。
「アルト、よくお聞き。身の回りで起きた不思議なことは、魔法によるものだろう。アルトはきっと、“魔力持ち”なんだよ。」
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