第五十六部 ノーステール公
流永たちが談笑するなか。
扉がドンッと音を立てて開け放たれ、
「おい、小僧ッ」
と、七十は過ぎているであろう老人が仁王立ちに立っていた。
しかも、多数の人間を引き連れて。
誰だろうか、とまあ、そんな老人、一人しか思いつかない。
「じい……ッノーステール公ッ!」
と、ジャンが声を上げた。
彼の老人こそ、ノーステール公——フレデリック・ノートル・ウェードである。
部屋はシンと静まり、アルラン達は、老人がノ公と理解すると、一斉に頭を下げた。
ふと見ると、アドリーヌもドレスの裾を持ち、頭を下げていた。
頭を上げたままであるのは、流永とジャンのみ。
「いやはや、待たせたな」
ノーステール公は、その威名から想像するような重厚感はなく、一見、陽気な老人であった。
矍鑠として、カラカラと拍子木のような声を出して笑う。
「お前がリュウエイとやらか」
ノ公は、流永に視線を向けて声をかけたが、流永は、彼をにこにこ笑顔で見つめたまま一礼もしない。
そして、諾と頷いただけで、もぐもぐと、また料理を食べ始めた。
「……奇妙な奴だな」
公は目を細めた。
「だからいいんでしょう」
ジャンは笑った。
ただ、すぐに真顔になって、
「それで、じいさん。状況はどうです?」
「厄介だ」
公は苦い顔をした。
「そんなに……」
「……そうだな。まあ、ここで言うことじゃない」
と、公はアルランやミレーヌに視線を向けた。
「確かに、ここで言うことじゃなかった」
公は、ふんっと鼻を鳴らした。
そして、ジャンと共にアルラン達との談笑に加わった。




