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狂気と共に異世界転移  作者: 二式山
三章 王都イアエラ
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五十一話 狂信者


 ジャックは装備類の補給等についての報告にきたようである。

 彼が報告している間、流永は横でぼんやり立っていた。


 やがて、報告が終わると、流永は鞘から剣を抜き、剣の柄を副長さんに向けた。


「はい」


 先程、副長さんに見せようとした時は、あいにくとジャックが入ってきた。


「見たかったんでしょう?」

「あ、はい。見させていただきます」


 副長さんは、押し付けられるようにして剣を受け取った。


 彼女は、剣を手の上で横たえらせ、主に鍔元を凝視した。


「これは……」


 副長さんは神妙な面持ちになり、ジャックさん、と彼にも手の上の白い刀身を見せた。

 ジャックも、主に剣の鍔元、北斗八星の刻印がある所を見つめ、眉をひそめた。


「これはエイン・ペラードじゃないですか。初めて見ましたよ」

「やっぱり、そうですよね。私も初めてです」


 副長さんは剣をまじまじと見ている。


「リュウエイさん、これをどこで?」

「それは一体なんなの?」


 話が噛み合っていない。


「すごい剣なの?」

 やはり流永は人の話を聞いていない。


「ああ、あの……」

 と、副長さんは、流永の方を見て目を見開いた。

 まるで、知らなかったんですか、と言いたそうな顔である。


 しかし、副長さんはそのことは口には出さず、


「これは、エイン・ペラードという魔剣で、世界に十本程度しかないといわれている、すごく珍しい剣なんですよ。大陸北部では、確か……この国のプトボール伯爵の所に一本あるだけと聞きます」


「へぇ……」

 流永の口は、ぽかんと開けっ放しになってしまった。

 貰った時に老人は何も言わなかった。

 ずっと山に篭っていて、この剣が、どんなものかすら知らなかったのだろうか。

 まさか、そんなすごい剣だったとは。


 (魔剣ねぇ……)


 流永は、白い刀身に浮かぶ北斗八星を見つめた。

 魔剣というものは、老人にも少し聞いたことがあるし、学校の歴史の授業でもやった。

 現在、魔剣は高値で取引されており、そのうちエイン・ペラードと名がつくものは、王侯貴族ですら手の届きにくいほど価値があった。


 流永も、エイン・ペラードという名は聞いたことがある。


 ところで、魔剣という、その存在は武具というより、出土品もしくは遺物の方が正しいだろう。

 この剣は、造り方どころか、一体いつの時代のものか、由来すら失われて久しい。

 発見される時は、決まって土中か、魔術の時代よりも昔、遥か太古の遺跡からである。

 この遺跡は、どの史書にも記されておらず、建造者など詳しいことはわかっていない。


 そして、その希少性もさることながら、魔剣が重宝されるのには、他にも理由があった。


 普通、剣に魔法を付与する時は術者が付与魔法を使うか、剣に魔法陣を刻み込むしかないのだが、前者は効果が永続でなく、術者は剣に刻印するよりも魔力を消耗してしまい、後者は剣の強度や面積との関係性もあり、魔力を流し込んでも、単純で瑣末な魔法しか出せず、それなら実際に魔法を使った方がいい。


 しかし、この魔剣は魔法陣の刻印は見えないくせに、魔力を込めれば猛炎を吐いたり周囲を凍らせたりなど凄まじい威力を発揮する。


 流永の持つエイン・ペラードは、その中でも最上とされ、一振りで山一つ割ることさえできる力を持っていた。


 また、不思議なことに、土中より発掘される魔剣や遺跡に眠っていた魔剣のほとんどは、一切錆が見当たらず、新品の武具と遜色がないほど綺麗であった。


 せいぜい、刃が数ミリ缺けている程度である。


「おい、貴様」

 と、ジャックは流永へ視線を向け、

「この剣、副団長様に献上しろ。……もちろん、それ相応の金品は用意する」

 相変わらずの傲岸な態度で、そう言った。


 対する流永は、

「気に入ってるから、やだよ」

 と、ぶっきらぼうに言った。


 流永は、部屋の脇に避けていた椅子を引き寄せ、そこに座った。

 そこからジャックの顔を見上げた。


 彼は、珍妙な答えでも聞いたように首を傾げていた。


「貴様、俺は献上しろと言ったんだぞ」

「やだ」


 流永は口をへの字に曲げた。

 変な奴かと思ったが、ただの権柄ずくのお貴族さまか。


「何故だ。副団長様に差し上げられるのだぞ。貴様の腰の棒切れも、副団長様が帯びれば聖剣にすらなり得るというのに」

 いや、どうにも様子が違うように思える。

「いいから差し出せ、副団長様の御為に!」

 ジャックは、眼力凄まじく、胸元で拳を握りしめた。


 その顔は、何故差し出さないのだッ、と疑問に満ちており、副長さんに捧げることが当然と思っているよう。

 雰囲気的に、階級に笠を着た貴族ではなさそうではあるが。


「あ、あの、ジャックさん。これはリュウエイさんの物ですから、こう、差し出せというのは……」

 副長さんは、すみませんと流永に謝った。

 流永は、気にしてないようで「大丈夫、大丈夫」と、ぷらぷら手を振った。


「ジャックさん、私は別にこの魔剣が欲しいわけではありませんから、だいじょうぶです」

「なァッ!?」

 ジャックは驚いた表情をした。

「そ、そうですか……」

 ジャックはそう言うと、悲痛な表情をしたかとおもうと、凄まじい勢いで地面に跪き、


「も、申し訳ありません副団長様ァッ。貴女様の御意志に背いたこの罪ッ、このジャック、自害して償いましょうッ!」

「いや、あの、ジャックさん!?」


 ああ、ヤバい奴だ。流永は、やはり自分のことは棚に上げてそう思った。


 ただ、彼が異常であることも否めないのだが。


「いや、貴女様の御心を煩わせたことは事実ッ、せめて、二日食を断ちましょう」

「いや、け、結構ですから。リュ、リュウエイさんからも、止めるよう言ってくれませんか?」


 副長さんの懇願に、流永が断る理由などない。


 しかし、彼は言葉を発する代わりに大口を開け、

 ——アッハッハハハッ!

 と、部屋中に響き渡るほどの大声で、大笑いに笑った。


「あの、リュウエイさん……?」

 副長さんは困惑気味。

「アッハハハ!」

 流永は、地面に伏すジャックを凝視し、まだ笑っていた。

 いや、つくり笑いである。大声で、あっははは、と叫ぶように言っている。


「アッハハ——」

 と流永は、急に笑い声を止めた。

「——ヨシッ!」


 何も良くない。


 流永は立ち上がって腕を組んだ。

 にやにや笑いながら、ジャックを見た。


 彼は、流永の笑い声に目を奪られて訝しげな表情をしている。

「………」

 発する言葉もなく、ただ流永の次の言葉を待っていた。


 やがて、流永は口を開き、

「眠いな」

 と、あくびをした。


 ジャックと副長さん、二人とも言葉を失った。


 流永は呑気にあくびをしている、と思えば何かを思い出したように、

「ああ、そう言えば!」

 と、さけんだ。

「エイン・ペラードって、必ず鍔元に北斗八星があるんだってね」


 流永は、あっははは、思い出した思い出した、と喜んでいるが、彼の帯剣がエイン・ペラードであることはすでにわかっている。


 そして、流永はひとしきり喜んだ後、

「それで、何の話だっけ?」

 副長さんとジャックのやり取りを、もう忘れてしまっているようであった。


 ジャックは未だ地面に跪いたまま、リュウエイという奇怪な男を見つめつつ、

「あの、副団長様、あの男は一体、誰なんです……?」

 と副団長に訊いた。


 しかし、流永については、シュルスレーで助けてくれた方、とすでに言っているはずなのだが、聞いていなかったらしい。

 彼は興奮すると、重要なところ以外の、聞いた話が所々抜け落ちてしまうことがあるのだが、副長さんがそれを咎めないどころか、優しくもう一度説明してあげるため、いっこうに治る気配はない。


 先程は、副長さんに「大丈夫ですか」と心配されたことが重要であり、流永の身分などどうでもよかった。とりあえず、副団長に害をなさない男、とだけ認識していたらしい。


 そして、今回も副長さんは優しく微笑み、

「私が、囚人を逃してしまった時、シュルスレーで助けてくれた方ですよ」

「あの……ッ!?」

 ジャックは驚いた表情をした。


 ようやく流永の情報が頭に入ったようである。

 ジャックは再び、深々と頭を下げた。


「そ、それは申し訳ありません。まさか、副団長様の大恩人であるとは……、やはり、このジャック、命を以って償いをばッ」

「いや、じゃ、ジャックさん!?」

「あっははは」


 ジャックは懐の短剣を抜き放ち、流永はそれを見て大笑い。

 副長さんは、おろおろとして、とにかくジャックを止めようとする。


 ここに、レイかジャンが居れば、この事態もなんとか収束するだろうが、あいにくとツッコミする者はいない。


「あっははは、面白いね!」


 そう、流永は言うが、ただのカオスである。


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