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狂気と共に異世界転移  作者: 二式山
三章 王都イアエラ
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第四十八部 再会と稽古


「あとどれくらい?」


 流永は数歩前を行くエードに訊いた。


 翌日もジャンは公務で忙しい。

 しかし、朝、寝ぼけ眼の流永は、「今日はここに行ってみろ」と小さな地図を渡された。


 ただ、地図を渡されたところで流永はこの街に詳しくない。


 今日もまた、エードを連れて行くことになった。


「すぐそこで御座います」


 エードは相変わらず無機質な声で答えた。


「おう」


 流永は景気良く頷いた。


 

 エードに連れられて辿り着いたのは大きな施設群。

 おそらくシュルスレーの学院より大きい。

 門前には門番が立っている。


「少々お待ちください」

 そう言うと、エードはその門番へ駆け寄り、何か話をするとすぐ戻ってきた。


「行きましょう」

 話はついたらしい。


 二人は門の(しきい)を越えた。


 目の前には、三階建、煉瓦造の立派な建物が数棟。


 奥の方からは剣戟の音がしきりと鳴っているが、その正体は、建物の影に隠れて見えない。


「あの建物です」

 と、エードは数棟ある内の一つを指し示した。


 流永は彼に従った。


 近づいてみると、なかなか雄大なものだ。

 流永は建物を見上げつつそう思った。

 と、その建物のドアが開いた。


 ドアも、木の赤茶色が重厚な面持ちをしている。


 その、ドアから現れたのは二人の男女。

 この施設の関係者だろう。

 しかし、流永はその人影の内、一人の姿を確認すると、目の色を変えた。


「あっ……」

「リュウッ……?」

 エードが声をかけようとした時には、流永はすでに駆け出していた。


 脇目もふらず、その人物へ突進した。

 流永は、途中大きく息を吸い、

「副長さーんッ!」

 叫んだ。


 その人物とは騎士団副団長シャリア。


 流永は、地を蹴って彼女に飛び付こうとした。

 したのだが。


 隣にいた男が、拳を固く握りしめ、腕を振るった。拳が流永に殺到した。

 空中にいる流永に避けるすべはない。


「ぐべぇ……ッ」

 その拳は流永の顔面に吸い込まれるように命中し、彼は顔をへこませて二人の足元に落ちた。


「……痛たァッ」

 流永は二人の足元で、鼻を押さえて悶えた。

 ゴロゴロ瀕死の芋虫みたいに転がっている。


 副長さんは突然のことに、あたふたと慌てるばかり。


 やがて、流永は転がることを止めると、うつ伏せのまま、顔を押さえつつ、ハッ、と顔を上げた。


 副長さんの隣に見慣れぬ男が憮然として立っている。

 流永は目をカッ開き己を殴りつけたその男を睨んだ。


「誰だ貴様ッ!」

 と、流永は叫んだが、この状況では滑稽に思えてくる。


「……それはこっちの台詞だ」

 男は呆れた口調でいった。

 当然だろう。

 ここは自分達の職場であり、誰何されるべきは今地面に倒れている彼にこそある。


「何モンだ」

 男は流永を睨み据えた。

 その視線はまるで狂犬の如く鋭い。

 と、今まで慌てふためいていた副長さんが、男の袖を引いた。


「……あ、あの!」

 と、少しは冷静になったようだ。


「この方は以前話した、シュルスレーの時に助けてもらったリュウエイさんです」

 と、いった。


 (……おお)

 流永は少し身を持ち上げた。

 まさか、名前を覚えてもらっていたとは。


「はぁ……」

 男は副長さんの言葉に納得したようで、顔の険が多少和らいだ。

 しかし、流永に対して睨むことは止めたが、訝しむ視線を向けている。


 流永は両手を地面について身体を支えている。

 陽にあたった地面がほんのり暖かい。

 流永は身体を起こし、あぐらをかいた。


「……あなたは?」

 と、問いかけるように言ったのは副長さん。

 ただ、流永のことを知っていることは先程わかった。


「……?」

 誰に言ってるのか、とシャリアの目線に合わせて首を回すと、エードが流永の斜め後方に(かしず)いていた。


「はい。シュルスレー伯嫡子、ジャン殿下の従僕で御座います」

 エードは滔々と言う。


「これを。殿下のお手紙です」

 と言って、エードが渡したのは、一枚の折り畳まれた手紙。


 シャリアはそれを受け取った。

 彼女は、それを頭に押し戴き、一礼してから、ひらりと手紙を開いた。


 流永は手持ち無沙汰に、再び地面にごろんと横になった。

 地面が温かい。

 太陽が眩しい。


 副長さんは手紙を読むことに集中している。

 やがて、手紙を全て読み終わると、彼女は隣にいた男にもその手紙を見せた。


「まあ、まずは、お久しぶりです、リュウエイさん。また会えて嬉しいです」


 シャリアはにこやかに笑った。


 いかにも優しげで、背後が煌びやかに輝いているような、聖女のような神々しさがあった。

 まあ実際、シャリアの部下の一部には、彼女を聖女と慕う者もいたりする。


「なんて手紙?」

 流永はのっけからそういった。

 挨拶も何もあったものじゃない。


「ああ、これは昨日、殿下が挨拶にいらっしゃったのでその時のことと、リュウエイさん、貴方のことをよろしく頼む、というものですね」


 無礼もいいところである流永とは対極に、シャリアは真摯に答えた。


「なるほど」

 流永はこっくりと頷いた。


「副長さんはこれからなにするの?」

「事務仕事が済んだので、稽古場でクロードさんに稽古をつけてもらおうと思っていたところです」


 クロードとは、副長さんの隣にいる男のことだろうか。


「あ、そうだ。この方はクロードさん。四番隊の隊長を担っている方です」

 クロードと呼ばれた男は、流永に対してほんの僅かだけ頭を下げた。


 騎士団は十一の部隊長がおり、男はその内の四番隊の隊長らしい。


「ホウ、ホウ」

 流永は、こくこく頷いた。


「クロードさん」

「………」

 呼んでみたものの、クロードは無言。

 ただ、流永も彼のことは、正直あまり興味がない。


 今は、ともかく副長さんのこと。


 流永は、何か良いことでも思いついたのか、ニシシッと笑った。

 身体を前後に揺らした。


「なら、その稽古の見学してもいい?」

 と、言いつつ流永は首を傾けた。


 シャリアにしては特に断る理由もない。いいですよ、と柔和な笑みをした。



 エードを含めた四人は、煉瓦造の建物の裏手にある稽古場へ足を運んだ。


「ここが稽古場です」

「ホウ、ホウ」

 流永は目を丸くした。

 広い。

 サッカーコート二つ分くらいはあるだろうか。


 また、他にも二階建、平屋の建物が、稽古場の端の方に幾つか固まって建っていた。


 よく見ると、兵士達がそこここで汗を流している。


 流永は、シャリアに案内され、その内の一角に移動した。

 周りには剣の素振りや木刀を合わせる者達がちらほら。

 巻藁のようなものもみえる。


 どうやら、ここは剣術訓練の場らしい。


「では、そこの椅子にでも腰掛けて見ていてください」

「うん」

 流永は副長さんに言われた通り、そばにあった木製の長椅子に座った。


「私たちは、道具とか準備してきますので」

 と、シャリアとクロードは、近くに在る、少し大きな平屋の建物に入っていった。


 流永は手持ち無沙汰になった。

 目を動かすと、エードは依然立ったままだ。


「君も座りなよ」

 と、エードの裾を引っ張ったが、

「いえ、このままで結構です」

 と、彼は拒んだ。


 しかし流永はその程度で引き下がるような男ではない。

 いいから座ろうよ、と嫌がるエードを、無理矢理自分の隣に座らせた。


 エードは不承々々、椅子にちょこんと、僅かな面積を尻に預けた。

 やがて、準備の終えた副長さんとクロードが剣道場に現れた。


「では、お願いします」

「はい」


 クロードは、ゆるりと木刀を構えた。

 副長さんも、構える。


「やぁっ」


 声を上げ、剣を振り上げたのは副長さん。

 そのままクロードへ突進し、剣を振り下ろす。


 防がれた。


 しかし、再び木刀を跳ね上げ、右、左と、撃つ、撃つ。

 クロードは、それを副長さんに合わせるように、防ぐ。

 余裕そうだ。


 反対に、副長さんは額に汗を浮かべ、本気の様相。


 剣術に詳しくない流永にも、二人の実力差が歴然であることがわかった。


 副長さんは、剣を振り振りクロードへ撃ち込み。

 クロードは、それを受けつつ、撃ち込みが浅いとか、もっと腰を低くとか言っている。


 (副長さんが頼んだのかな)

 囚人の時といい、腕に自信のない副長さんが、腕の立つあの男に指導を頼んだのか。

 流永はそう思った。

 人のことなど考えないくせに、こういうことだと頭が回る。


 しばらく経った。

 副長さんは滔々と汗流れ、足はふらふら、尻餅をついた。

 クロードは額に若干、汗がにじんでいるくらい。


「一旦、休憩にしましょう」

「……はい」


 副長さんは、肩で息をしつつ答えた。

 ここでタオルの一つでも渡せば、気の利く奴だろうが、残念ながら流永は気が利かない。


「副長さん大丈夫?」

 と、声をかけただけである。


「……はい、だ、大丈夫です」

 副長さんは結構疲れている様子。


「うん」

 流永は頷いただけ。

 ぼんやりと副長さんを眺めている。


「副団長」

 と、そこへクロードが副長さんに、タオルと水の入ったコップを渡した。

 予め用意していたようだ。


 二人は、少し休憩した後、再び木刀の乾いた音を響かせた。






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