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狂気と共に異世界転移  作者: 二式山
二章 学院
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第四十五部 準備

 

 

 その後王都に行く期日まで、朝から老人の家に行き、魔術を習い夕暮れには家に帰ることを繰り返した。

 その間、ときどき顔を出すくらいで、学院へ通うことが少なくなる。


 ジャンを通して、その時は学院を休むことは伝えてある。

 ただ、休む理由は「じいさんが病気になり、様子を見る必要ができたから」としておいた。


 堂々と魔術とはいえない。


 そうして老人の家に行ったり学院に顔を出したりと日々を過ごしていくうち、出立当日となった。


 朝、流永はリーウィアを連れ学院の門前まで来た。


「じゃあレイちゃん、お願いね」

 流永はにこにこ笑った。

 結局、リーウィアはレイの家に預かってもらうことになった。


「うん、まかせてッ!」

 レイも、カッと元気よく笑った。


「リー、」

 リーウィアは、まだ朝早いものの万が一を考え、流永とはじめて会った時のようなフードを被っている。

 流永はフードの上から、彼女の頭をわしわし撫でた。


 リーウィアはおとなしく撫でられている。

「ま、楽しめばいいさ」


 流永はからから笑った。


 一応、リーウィアをレイの家に泊めると言うことになった時、彼女の家族のことが気がかりではあった。

 レイはともかく彼女の家族はリーウィアを見ていないのだ。


 はじめてリーウィアに会った時の彼女のように、嫌悪の情を表しはしないだろうか。


 レイの家に泊まればいいと言い出したのは流永だが、あと出しの要領でそのあたりのことをレイに訊いてみると、

「あ、うん。学校のことはよく家族に話していたし」

 それに、と続けて、

「あとはボクが説得してみせる」

 レイは、ふんっと鼻息を荒げた。


 そんな経緯がある。


「それで、許可はもらえたの」

 流永はリーウィアの頭を、ぽんぽんと叩いた。

 陽はまだ低く肌寒い。


 レイは手をさすりながら、

「うんッ。リーちゃんはすごく優しくて賢い子って」

 そう言って両親を納得させた、とレイは嬉々とした表情をした。


「それに真面目だしね」

 と、流永はレイの言葉に付け加えた。

 行く必要もないのに毎日学校に行き、受ける必要もないのに頑張って授業を傾聴している。


 視線を下ろしてリーウィアの方を見ると、彼女は顔を伏し赤面していた。恥ずかしがっている。


「リーッ」

 流永はリーウィアの名前を呼んだ。

 快活に笑い、再度彼女の頭をポンポンと叩いた。


「……?」

 リーウィアは顔を上げた。

 流永は穏やかな笑みをしている。


「元気でな」

「……ッ。うん!」

 リーウィアは、こっくり頷いた。


「じゃあ、頼むよ」

 流永はリーウィアの背を押し、彼女をレイのそばに移した。

「うん、任されたよッ」

 レイは、ポンッと自分の胸を叩いた。


 湿り気をおびた風が一陣、吹いた。

「それじゃあ、半年後に」

「うん」

 競技大会にはレイも出ることになっており、その時にリーウィアも一緒についてくるそうだ。


「また!」

 流永は大きく手を上げた。

 また会おう、と言いたいのだろう。


「またね」

 と、リーウィアは、そんな流永に小さく手を振った。


「おうッ」

 流永は大きく手を振り、振りながら、ふらふらした足取りで去っていった。


「それじゃあ、行こうか」

 レイも、帰ろうとリーウィアにうながした。

「はい」

 レイはリーウィアと手を繋いだ。

「楽しみだねッ」

 と、レイが笑顔で言うと、リーウィアは返事こそしなかったが、こっくりと、いかにも可愛げに頷いた。




「これでいいかな」


 一度、家に戻った流永は荷物をまとめた。

 と、いってもカバン一つだけだが。

 中には衣類と老人から貰った金子。

 そして、古びた鞘に納まった剣を、ぐるぐると腰に巻いた布に差し込んだ。


 これは昨日老人に貰ったものだ。


 朝、老人の下での魔術の練習が終ると、

「明日、発つのじゃろう」

 と、老人はいった。

 流永は、そうだね、と返した。


 すると、老人は小屋の奥から、古びた鞘に包まれた一剣を取り出してきて、

「これを持ってけ」

 と、その剣を投げるように渡した。

「天宇」

 それがこの剣の名前だそうだ。


 流永は右手に柄を掴み、鞘から半分ほど抜いた。

 (白い)

 目を瞠った。

 刀身が雪のように白い。


 (これは……)

 さらに、鍔の少し上のあたりに、八連星が彫られていた。


「これは北斗八星?」

 剣から目を離して訊いた。

「そうじゃな」

 老人は頷いた。


 この世界では、北極星はあるものの、北斗七星ではなく、北斗八星となっている。


 流永は、再度雪のような刀身をまじまじと見た。

「なんでこれを?」

 とは訊かない。

 彼に、いちいち理由を詮索するような趣味はない。


 流永は剣をカチリと納め、

「ありがたくもらうよ」

 と、弾んだ表情を見せた。


 いったいこれがどんな剣かは知らないが、刀身が雪のように繊細な色をしているくせに、見ていると山さえ両断しそうな猛々しさを感じる。


 流永は街に戻ろうと老人に背を向けると、夕陽が彼の正面を照らした。


 彼は手で目元を覆いながら、振り返り、

「それじゃあ、じいさん。気が向いたら帰るよ」

 と、快活に笑った。


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