第四十四部 自由な
翌日、流永は老人の家に行った。
「じいさんッ」
大きな声を出し、家の前の丸太に座っていた老人を呼んだ。
「いったいどうした」
何の用で来たのか、と老人は首を傾げた。
「街に行くんだよ」
流永は元気よくいった。
「どこの街じゃ」
「王都さ」
「何の用に……」
「旅に出る」
流永は、ふんっと胸を張った。
老人は、突然のことに顔をしかめ、流永を眺めている。
陽が、白雲に時々隠れた。
隠れては現れ、大地を、人々の営みを照らす。
足元の草が風にそよいでいる。
どれも規則だったものはない。
流永もまた、縛られるのは大嫌いだ。
天然自然のように、好きに生きている。
しかし、言い換えれば、自然というものは、生態系という鎖に封じ込められた閉鎖的な社会なのではないだろうか。
その鎖は、間隔は粗く、外側から触れれば壊れ易いものだが、内側——そこに根付くものには不朽不変の足枷となっている。
副団長の助太刀をした時のこと、リーウィアのこと、ただ自由に生きているだけなら関わることはなかったろう。
流永は、これらを気まぐれと片づけているが、ジャンが視た巨大な何か、と同じものとおもえる。
どうにも、かれは、自由闊達ではあるが、それは自然のように一見自由に見えてその実、平原の中央に楔で留められた、すさまじく長い鎖に囚われているだけなのかもしれない。
とまれ、老人は腕を組んだ。
「学院はどうする」
「当然、辞めることになるね」
「何か、将来の望みはあるのか?」
「冒険者にでもなろうかな、とね」
「そんなに自由が好きか」
そう、老人が問うと、流永は笑って、
「規律の下に生きるのが嫌いなのさ」
と、答えになっているようないないようなことを言った。
「まあ、ともかく」
と、ここからが流永の本題である。
「いくらかお金ちょうだい」
両手を揃え、ペロッと舌を出した。
実際、老人は結構な額の金を持っている。
(まあ、使うアテもない)
山暮らしではそんなに所用があるわけがない。
老人は、流永のお願いに、大きくため息を吐いたが、
「……わかった、後でロウケアから受け取れ」
と、お願いを聞き入れた。
「それとさ、」
「あと何かあったか?」
「あれ教えてよ」
老人は、何だそれは、と反問した。
流永は、あれだよあれッ、というが「あれ」だけでは伝わるわけがない。
「ほら、あの、じいさんが使ってた何もかもぶっ壊すやつ」
老人は、天を見上げ、流永の言葉を反芻するように考えていると、あああれか、と思い当たったようだ。
「これじゃろう?」
と、老人は草原の上に環陣を出現させると、そこに石ころ一つ投げ入れた。
環陣の上に至った石ころは、パンッと砕け霧散した。
「そう、それ!」
流永は、はしゃいだ。
「それ、教えてよ!」
流永は、旅に出るなら覚えられることは覚えておいた方がいい、と思っていた。
それに以前、教える、と老人がいっていた。
「……わかった、教えてやる。イアエラには、いつ頃行く」
「半月後かな」
老人は、なら大丈夫じゃろう、といった。
カンを掴んだあとは一人で練習しろ、とのことらしい。




