第三十二部 購買
昼になると購買がある一階の広間は身動きができないほどに人がひしめきあう。
この学院には研究科と実戦科の両方に購買があるのだが、どちらも、その学科のほとんどの学生が使うため凄まじく混んでしまう。
「購買は安いんだけど、いつもこれだからなあー」
「仕方ないさ、皆同じ考えだ」
流永とレイは生徒達の波に押しつ押されつ購買を目指しているが、なかなか目的地に着きそうにはない。
流永達も人混みにまみれてゆるゆると進んでいたが、流永はじれったくなってきた。
「レイちゃんレイちゃん」
と、手まねきしてレイを近寄らせると、いきなり彼女の脇腹をおさえて自分と密着させた。
——ひゃッ
レイは突然のことにすっとんきょうな声をあげてしまったが、流永はレイの方を見ず購買の方向を遠望するように見つめている。
「行くぞ」
「え、え、なにが!?」
レイが驚くのを尻目に流永は口角をつりあげ面白そうに笑った。
(さて、行けるかな)
と、流永はレイを抑えている手に若干力を入れると、強引に人混みの中を進み始めた。
「ちょっ、流永くんいくらなんでも強引すぎじゃない」
「大丈夫だろ」
流永の胸のあたりからレイはそう訴えるが、流永は一顧だにしない。
しかし、流永もただ強引に人混みを割っているわけではなく、人混みの中に若干空いた隙間を狙って前に進んでいる。
まあ、それでも強引は強引なのだが。
とにかく、その流永の強引な進み方で二人はなんとか購買の前まで着くことができた。
途中、何度か肩を引かれ、
「割り込みはやめろよ!」
と、言われたが流永はその都度、
「列も何もないのに、割り込みもクソもねぇだろうが」
と、言い返した。
また、ごちゃごちゃしてわれ先にわれ先にとやっている時点で割り込みなんてものはない、ともいった。
購買の前に着いた時、レイが顔を赤らめ、もじもじしながら、
「ねえ、そろそろ離してよ……」
といった。
「ああ、忘れてた」
流永はレイが離れないように自分と密着させていたのを思い出し、離してやった。
「もう……」
レイは不機嫌そうに流永を睨んだが、彼女は流永より身長は低い。その視線はやや上目づかいになってしまって全く怖くなく、それどころか小動物のような可愛さもある。
流永はケタケタ笑い、
「ほら、はやく行こうぜ。もう着いたんだから、ごちゃごちゃ考えても仕方ないでしょうに」
というと、レイも振り切ったのか「うん。そうだね」と昼ごはん何にしようか、と購買の中へ足を踏み入れた。
購買の中は一面が無い部屋のようになっていて、残る三面に商品がずらりと並んでいる。
「わあ、いっぱいある」
レイは、中に入った早々目を輝かせた。
「ボクいつも最後の方だったから、こんなにいろんな物が並んでいるのは初めてだよッ」
と、彼女はやや興奮気味にいったが、すぐに自分が興奮していると気づいたのか、あはは…、と恥ずかしそうに頬をかいた。
流永とレイはそれぞれ好みの物を買って購買を後にした。




