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狂気と共に異世界転移  作者: 二式山
二章 学院
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第三十一部 学院


 どうやら流永は、シャリアの背中の上で寝てしまった後、教会に運ばれ治療を受けたそうだ。


 ただ、治療といっても回復魔法と包帯を巻くだけだが。ちなみに、回復魔法と大層な名前が付いているものの、その効力はせいぜい擦り傷切り傷を治すくらいのもので、流永の腕の傷は深すぎて、気休め程度にしかならない。


 結局は自然治癒を待つ他ない。

 医者の見解では完全に治るのは難しく痕が残る、とのことだったが、流永は五日で腕の大怪我を完治させてしまった。


 医者は、治るのが早すぎしかも完治したのはありえない、と驚いて首を傾げてしまった。流永も、さすがに自分にこんな回復力があるとは思えない。

 考えてみるに、魔術か龍化の効果であろうか。

 詳しくはわからないが、とりあえずラッキーと、流永は腹の中で思った。


 

 話は戻り、教会で一通り包帯を巻き終えた流永はシャリアの部屋に運ばれ、今朝に至るらしい。


 教会にも病床はあったが、ログライツにやられた者が兵士に多数、又避難の途中で怪我をおった庶民などが教会に運ばれるなどして、シャリアが来た時にはすでに流永が入るゆとりは無かったそうだ。


 彼女は、自分が運んできたので自分の部屋で寝かせます、と言い、制止する部下を抑え、流永を自分の部屋に寝かせたらしく、部下達の手をわずらわせたくなかったに違いない。


 シャリアは一階にある広間で休息をとったようである。

 やけに部屋の装飾が煌びやかだったのは、副団長の為に用意された部屋であったからだろう。


 傷は五日で治ったのだが医者が、数日は安静にしているべきでしょう、といい、又シャリアも、こちらのことは一向に構わないのでゆっくりして行ってください、と流永を押しとどめ、結局八日間部屋に引きこもる次第になってしまった。


 

 流永が部屋に収容されてから八日後、損壊した街の後片付け及び負傷者を運ぶ手立てが立ち、シャリアとその麾下の部隊は護送囚が逃げてしまったため、監獄都市へは向かわず王都へそのまま帰還することになった。


 流永もその機会にシャリアの部屋(この街の領主の館)から自分の家に戻ることにした。

 前述の通り怪我はすでに完治している。


「じゃあまたね、副長さん!」

 シャリアと騎士団の面々は早朝に街を出る。

 流永は彼女等を見送った後、家に帰るつもりだ。


「はい、リュウエイさんもお身体に気をつけてください」

「うん」

 流永は頷くとバッと飛んでシャリアに、ぎゅう、と抱きついた。

 流永はこの八日間でシャリアにすっかり懐いてしまっている。


 シャリアは流永の頭を、よしよしと撫でてやった。

 流永はえへへと笑った。

「じゃあね!」

「はい、ではお元気で」

 シャリア達は街を出立した。

 流永は門の外へ消えてゆく彼女等を見送った。


 ——あっはっはっは。朝ごはんだ。


 流永もまた、一行の背中が小さくなった頃にきびすを返し、あの混乱からすでに復興した雑踏さんざめく街の中へ消えていった。

 


 その翌日は学院がある。

 流永は前に風紀委員長のセイニーラに選んでもらった服を着て玄関を出た。


 しばらく(といっても八日程度だが)外に出なかったせいか、どうも一歩々々が重くだるい。

(面倒くさくなってきたな)

 学院にも通うことが、である。

 学院に登校した日数はまだ数えて数日しかないのだが、流永はすでに飽きてきた。


 そういえば、半年後に王国をあげて催し物があるそうだが、それまで待てそうもない。

 流永は、風のように一ツ所に留まることができない性分らしい。

(旅に出ようか)

 朝の冷たい空を眺めて漠然とそう思った。


 

 流永は普段よりも時間をかけて学院の門前に着いた。

 何食わぬ顔で校舎へと向かった。


(遅刻かな)

 依然ゆったりとした足取りで歩きつつ思った。

 普段であれば門前、門内が登校する学院生で賑わっているはずだが今は、ぽっかり穴が空いたように誰もいない。


 この世界に時計はまだないが、授業は前の世界の基準だと大体八時頃始まる。

 今は陽がかなり高い位置にある。

 実は流永は登校している途中から、この陽の高さに気づいていたのだが、急ぐ気にもなれず特に歩速を変えることはなかった。

 とりあえず教室に行こう、と校舎内に入ると今は授業中らしく教師の声がかすかに聞こえてくる。


 自分の教室の前に着くと、流永は無遠慮にガラララッとドアを開けた。

「おはよう、諸君ッ」

 やけに上機嫌な声を出した。

 当然のことながら、皆の視線が流永に集まった。


「あ、先生遅刻しましたーッ」

 流永は元気よく教壇に立つ教師へ声をかけた。

 今は歴史の授業のようで、教壇にいるのは四十代の男性教師である。

 学院は高校のように教科ごとに担当教師が違う。


「君は……」

 その教師は苦い顔をして何か言いかけたが、流永はそれを無視し、さっさと席に座ってしまった。 


 教師は相変わらず苦い顔で、先程訊こうとした質問をもう一度した。

「君はリュウエイ・イバくんかい?」

「そうだね」

 流永はニコニコ笑って頷いた。

「そうか……」

 教師はため息を吐きたそうな顔をしていたが、生徒の手前それはせず、ただ頷いただけであった。


「いや、君のことは聞いている。体調は大丈夫なのかね?」

「君のこと」とは、シャリアから流永とログライツが戦ったことについて報告を受けたのだろう。

「大丈夫だよ」

「そうか……分かった」

 教師は顔をしかめて後頭部をしばらく掻いていたが、

「授業を再開する。リュウエイくん、君も準備しなさい」

 と、困ったようにいった。


 しかし、教師に言われて気づいたのだが、流永が今持っているものといえば財布ぐらいしかない。筆記具なり教材具なりは全て家に置いてきてしまった。


 流永は両掌を天に向けて困ったように首を傾げた。

「ないのかね?」

「ないね」

 流永は正直にいった。

 今度は教師が困った風に首を傾げる番であった。

「誰かに見せてもらいなさい」

 教師にそういわれ、流永は左右を見渡したが誰もいない。

 教室は三十人は入れる広さがあるが、このクラスの生徒が十人しかいないため空席が多いのだ。


 流永の前の席にはレイが座っている。

「ねえねえレイちゃん、教科書とか見せてー」

 と、頼むとレイは「仕方ないなあ」とため息混じりに頷いてくれた。


 流永は席を移動し、レイの隣に滑り込むように座った。

「よろしくね♪」

 笑顔でそういうとレイは苦笑した。

 とにかく、今日はレイに教科書を見せてもらうことになった。

 


 午前中の授業が終わり昼休みに入ると、

「あの事件の時にケガしたとは聞いたけど……、大丈夫だったの?」

 と、レイが訊いてきた。

 あの事件とは、ログライツの脱獄事件のことだ。


「うん。もうケガも治ったしね」

 流永がその脱獄囚と戦ったとは聞いていないようだ。まあ、あの事件で負傷したと言えば学校を休む理由は十分だし、負け戦を伝える必要はない、とシャリアは伝えなかったのだろう。


「そういえばさ——」

 と、レイが話を振ってきた。

「その囚人と戦った学生がいるって聞いた?」

「いいや」

 流永は首を振った。


 その学生とは流永に違いないだろうが、わざわざ自分が、というつもりはない。

 それに流永は戦った本人であり、その後はずっとシャリアの部屋にいたから、学生が云々という話を耳にはさんだことはない。

 嘘は言っていない。


「衛兵の人達が囚人と戦う学生を見たって言ってるんだけど誰だかわからないんだ」

「そうなの?」

 流永は首を傾げた。


 八日もあればその学生が現れないのをいいことに、自分がその学生だ、と目立ちたがり屋がいるのかと思ったが、この街の学生は意外と謙虚なのか。

「うん。一度、二年生のノルト先輩が自分が、って言い出して、衛兵の人達に会ったんだけど、全員にお前じゃないって言われちゃって……」

 いや、一応いるにはいたようだが目撃者達から総スカンを食らってしまったようだ。


(……ナンマイダ)

 流永は心の中でそう唱えた。

 この狭い街のことである。そのノルトとやらはしばらくは街の笑い者だろう。

「それじゃあ、誰なんだろうね」

 流永は微笑んだ。

 別に隠す気はないが、かといって言いふらす気もない。


「とりあえず、昼にしようよ。お腹減った」

 流永はお腹をさすった。

「うん。リュウエイくんも購買?」

「そうだね」


 街にも店があるが、学院の学生の昼食は基本自前か購買である。購買は生徒専用だが、街の店に比べれば格段に安いのだ。

 しかし、流永の場合は安いからというより、わざわざ学院の外に出るのが面倒くさいから、という理由だが。


「それじゃあ、行こうよ!」

 と、レイは元気に笑って流永の手を引っ張った。

「おう」

 流永もつられて勢いよく頷いた。


 

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