第三十部 朝
朝起きた時、いつもと違う天井だと違和感を感じるものだ。
(白いな……)
街にある流永の家の天井は全て木材の地の色である。
その流永は、ベッドの上で目の前にある、まっ白い天井を見ていた。
だが、ずっと天井を見続けているわけにはいかない。流永はのっそりと起き上がった。
壁側にある窓を見れば、陽が目一杯流れ込んできている。
どうも、朝は過ぎてしまっているようだ。
流永は特に何かを考えることもなく、ぼんやりとベッドの上で佇んでいた。
(……起きるか)
しばらくした後、ベッドから起き上がった。
(喉乾いた……)
とりあえず水が欲しい。昨日の夜から一切口に入れていないのだ。
流永はふらふらとした足取りで、ドアノブに手をかけた。
その右手には包帯がぐるぐると巻かれている。昨日のログライツの光の槍の傷を手当てしたものであろう。
昨日のことは、シャリアにおぶられたまでは覚えているが、その後は彼女の背中の上で寝てしまったようで全く記憶がない。
自分がなぜこの部屋にいるのかさえわからないのだ。
だが、とにかくまずは水が欲しい。からからに乾いた喉はくっついて息すら困難に思えてくる。
流永はあまり力の入らない手でドアを引いた。
と、同時に向こうでもドアを押した者がいたようで、ドアは意外にも勢いよく開いた。
その人物は予想外のことに少しよろめき、流永もつられて少しのけぞった。
その人物はすぐに立ち直り、流永と目を合わせた。
「副長さん、水」
流永はその人物——副長さんにのっけから水を望んだ。
挨拶も何もあったものじゃない。
「あ、はッはい!持ってきますッ」
彼女も流永に突然言われ、はたから見ても哀れなほどに慌ててしまい、忙しく再び外へ出て行ってしまった。
どうも彼女の両肩に騎士団副団長というような称号が乗っているとは思えない。
少ししてシャリアが水の入った瓶を持って戻ってきた。
「ありがとう〜」
流永は気の抜けたお礼の言葉を言い、シャリアから瓶を受け取るなりそれを傾けて一気に飲み干した。
ぬるいがそのくらいが飲み易くて丁度いい。
「おはようございます。……もうお昼ですけどね……」
「うん」
流永は頷いただけだ。
別に挨拶ができないわけではないが、時々忘れてしまったようにしない時がある。
「いや〜、水はいいね!」
流永は笑顔でそういった。
確かに水は人間にとって必要不可欠ではあるが、流永の発言はそこまで深く踏み込んではいない。ただ、からからに渇いていた喉が潤った、それによって救われた思いがした。
だから水はいい。そう思ったからそう言ったまでである。
「あ、あの」
「……?」
「もうすぐ昼食になるのですが、食べますか?」
「たべる」
流永は幼稚な口調で頷いた。
料理は彼女の部下らしき人が、この部屋に運んできた。
「おいしかったですか?」
「うん」
流永は昼食を食べた後、行儀悪くベッドにごろりと横になった。
そもそも、目上の人がいるのに、憚らずに横になるとはどのような神経をしているのだろうか。
シャリアもシャリアで流永がベッドに横たわったのを見ても嫌な顔一つしない。
「そういえば学校行ってないな」
流永はふと思い出したようにいった。
今日は本来ならば学院に行っていたはずである。
この世界は一週間七日であることはは前の世界と変わらない。
学院の休みはひと月の初めと最後の日曜日だけである。ただ、王国に関する祝い事などで祝日は年に何度かある。
又、年末年始も休みが与えられる。
まあ、学院に対しては、面白いことがありそうだなぁ、という理由で通っている為、流永にとって休んだところで別に構わないのだが。
たんに今、学院行ってない、と思い出したから言っただけである。
流永は子供みたいに思ったことが無遠慮に口から出やすい。
しかし、その戯言に等しい流永の言葉をシャリアはくそ真面目に受け取り、
「ああ、それなら——」
といい、
「——私から学院の方に、今日は休むと連絡を入れておきました。なので安心してください」
と、使命感に溢れた顔つきで言った。
「うん」
流永はつまらなそうに頷いた。
先程いったように、かれにとっては戯言のようなもので真面目に返答されても興味の無いことはどうでもいい。
お礼の言葉だって言わない。




