第十六部 試合
年末、寒風が肌をひりつかせ始めた頃。
「そろそろかのぅ」
老人が謎の独り言を発した。
「死期が?」
老人の言葉を聞いて流永は聞き返した。
デリカシーがない。
「違うわい。儂がそろそろ死ぬように見えるかッ?」
「見えないね」
流永はへらへら笑った。
「見えないのなら初めから言うな」
ただ老人は、流永と話をしていると心労で寿命が縮む思いがする。
老人はため息を吐いた。
「そろそろ試合でもしようかと思ったのじゃっ」
老人は語気強く言った。
日が照りはじめてきた。今は晩秋、冬の入り始めで、そろそろ寒くなってきた頃だ。
「魔術はある程度使えるようになったじゃろう?」
「なったね」
「生きていくのに、ある程度格闘術も身につけておいて損はあるまい」
「そうなの?」
「自分の身は自分で守らねばならんからのう」
この世界はそこまで治安が良くはないのだろう。城塞都市と検問がある時点で大体は察せる。
流永はこの日から老人と試合することとなった。
試合する場所は家の前の草原。
二人は対峙した。
流永は腕を黒く染める。龍化だ。
既に、ある程度この龍化を扱えるようになっている。
老人は杖を持って泰然自若。
「爺さん、その杖は?」
流永は、老人の持っている杖を初めて見た。
「魔法を使うのに便利でな」
老人は魔術だけでなく、魔法も扱う。
「そう」
流永はそっけなく言った。
「じゃあいくよ」
流永は口角を釣り上げた。
「ああ、来い」
流永は両腕両脚を龍化させると、大きく地を蹴った。
速い。
龍化は身体強化もできる。
流永は拳を振り上げ、老人めがけて思いっきりその拳を振った。
「あれ……?」
流永の振るった拳はむなしく空を振り、
「ちょっ、待っ……⁉︎」
勢い余った流永はそのまま草原の外にある木に頭からぶつかった。
「ひどいなぁ爺さん」
流永は起き上がりながら言った。
老人は流永に殴られる直前、消えたように移動した。
速い。
「ひどいも何も……。おぬし今、いきなり全力だったじゃろ!?」
流永はてへぺろ、と言わんばかりに少し舌を出して頭をコツンと叩いた。
老人唖然。
老人に、てへぺろの意味は分からない。
「なんじゃい、気持ち悪い顔して」
老人は顔をしかめた。
流永はにこにこ笑顔で、
「ごめんなちゃい、って意味」
その言葉に老人は一層顔のシワを増やした。
「ほれ、来い」
「へいへい」
流永は体勢を低くして構えた。
老人は変わらず突っ立っている。
流永は地を蹴り老人へ肉迫する。
ただ、今度は先程みたく、馬鹿に突っ込むのではなく眼前に平手をかざし、
「来れ、黎明の光明、燦然と輝き鈴は刻を知らし、鴻鵠の矢となりて討つは悪しき幻覚!」
流永の掌を中心に数列に重なったリング状の帯が現れ光を発する。
魔術である。魔法陣とは違い円の内部が抜けていて輪の形になっている。
魔術の場合、技の名前は無いが、詠唱のみあることが多い。
魔法の場合は個々に技名がある。
その帯は目が眩む程の光量を出し、爆発音と共に老人を呑み込んだ。
しかし、
(あらら……)
老人は防御の魔術を開いて流永の魔術を防いでいた。早い。
(無理ゲーだ)
かなり本気で撃った魔術も簡単に跳ね返された。
そのくせ老人が放つ魔術は周りに飛び火しないように調整しているようだが、それでも凄まじく、流永は一切老人に触れることができなかった。
(バケモノだな……)
さすがの流永も呆れてしまった。




