第十四部 龍の血の影響
「今日お肉なかったね」
朝食後、流永は思い出したように言った。ちなみに腕はまだ黒いままだ。戻し方が分からない。
普段の朝食(といっても昼食も夕食もだが)は何らかの肉は入っていたのだが、この日はなかった。
「在庫を切らしてな。三日前に罠を仕掛けておいて、今さっき見てきたが、かかっていなくてのう」
老人はつまようじで歯の間を磨いている。
かなり歳をいっている筈だが、老人は口元から見事な歯を覗かせている。
老人はパチパチ鳴るたき火を弄っている。
「そうじゃおぬし、あの黒い………」
老人は言葉の途中で流永が目の前から消えていることに気づいた。
顔を上げると、流永は少し遠くの草原の上でうずくまっている。
それを見つめていると、彼は急にパッと立ち上がると、嬉しそうな表情で老人の元へパタパタと駆け戻ってきた。
「見て見てじいさん!バッタ!」
老人が目を移すと、流永の手には十センチほどのバッタをつままれていた。
「バッタじゃな」
老人はどう反応すればいいか分からない。とりあえず、てきとうな相槌をうっておいた。
流永はにこにこ、と笑顔でバッタを老人へ見せつけている。
「飼うのか?」
流永は無言でバッタを突き出している。飼いたいのだろうか、と思った。
だが、
「いいや」
流永は首を横に振って、興味を無くしたようにバッタを草原に投げ捨てた。
何のために老人へ押し付けるように見せつけていたのだろうか。
流永は既にバッタのことが頭に無いらしく、
「それで、この黒いのどうするの?」
と、彼の興味は黒光りする腕に向けられていた。
老人はため息を吐いた。つかみどころがないというか、ころころと話が変わる。
「分からん奴じゃな」
家の周りに生える芝生をぬるい風がゆらした。
朝よりは酷くないものの、まだ大気は、じめじめと湿気っている。
この日は体力づくりをやめて、先程の黒い鱗を自分のものにするための訓練に明け暮れた。
ちゃんと元に戻す方法と黒くする方法も身につけた。




