第十二部 魔術教練
「今日は体力作りかのう」
魔術を教わった翌日、朝食を食べ終わった頃に老人はそういった。
「魔術の基礎はもう出来るようになったからの。魔術の教練は一まず置く」
「へぇ」
あれだけ魔術に興味津々だった流永だが、反論はしない。
「とりあえず体力をつける。まずは素振りからじゃ」
と、老人は流永に木刀を渡した。
「あいよ」
流永は二つ返事で頷いた。
老人いわく、わしは剣術が出来ないから素振りでもしておれ、ということらしい。
一時間程素振りをすると、休憩を挟んで次は山を登り降りするように走らされた。
ランニングは流永の嫌いなものの一つだったが、この時もわがままを言うことはなかった。
平素、感情をひけらかしているような彼にしては、珍しくわがままを言わない。
わがままを言わない理由はある。
彼は、曖昧だが自身の規律のようなものを持っている。
ただ、その規律は漠然としすぎて言葉で言い表すとなると至難を極めてしまうのだが、強いて言葉にするのであれば、それは、醜くないように、となるだろうか。
この辺りを詳しく説明するとややこしくなるので、簡単にいってしまえば、自分で醜いと思う行動をしないということになる。
今回の場合は、自分からやると言っておいて「辛い」「苦しい」と言うのはどうも見苦しいと思ったからだ。
だから、老人の言う通りに黙々と日々をこなしている。
かといって、その規律に矛盾する時もある。その時は自分がそう思ったからと片付ける。
ただ、流永のその信条は誰にも言わない(漠然としすぎて言葉にできない)為、老人も顔を干し柿のようにした。
ある時、老人はわがまま一つ言わない流永を不思議がり、
「辛くないのか?」
と、訊いてみると、
「辛いさ」
流永はニヤニヤ笑ってそれだけ言った。
老人はそれ以上尋ねることはしなかった。
この修行は流永が十五歳になるまで続けられる。
初めは一週間に一日(日曜日)のみの休みがあったが、流永の要望で土曜日も入れて週休2日となった。




