神野守の独り言ラジオ「第5回 神野守短編集第1巻収録・一日一善」
え~、皆さんこんにちは! 神野守でございます。神野守の独り言ラジオ第四回の「鏡を割る女」はいかがでしたでしょうか? 今回は第五回目、短編集の中から「一日一善」にしたいと思います。
一日一善と言う題名から、皆さんはどんな話だと思いますか? 何となく、ホラーって感じはしませんねえ。確かに、そんなに怖い話ではありません。かと言って、主人公にしてみればハッピーな出来事だとは言えません。因果応報と言いますか、良い行いをすれば良い報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがある、原因があって結果がある、と言う話です。
しかし、主人公が悪い人間だったかと言うと、そうではないんです。なのに何故、ああなってしまったのか、その理由は、一応あるんです。本当はここで説明したいところなんですが、アマゾンさんに怒られてしまうので出来ません。申し訳ありませんねえ。
この物語の主人公は、あるメーカーで営業をしている武井一朗です。この人にはモデルがありまして、私の知人なんですけどね。彼もそれなりの営業成績を収めているのですが、同期の片岡勇太には敵いません。片岡は常にトップの成績で、時々、武井や成績の悪い同僚に契約を譲ってくれるんですが、それでもダントツトップである事に変わりはないんですね。
ある日、仕事帰りにビアガーデンでビールを飲みながら、武井は片岡に聞いてみるんですね。お前がいつも成績が良いのは、あれを続けているせいなのかなって。あれって言われた片岡は、武井が何を言いたいかすぐにわかります。あれとは、一日一善の事。一日に一度は良い行いをしましょう、です。
片岡は、信心深いおばあちゃんの影響で、小学校の低学年から一日一善を始めました。彼らの年齢は書いていませんが、だいたい二十代後半から三十代の初めなので、少なくても二十年以上は、毎日、一日一善を欠かさず続けてきたんですね。皆さん、考えてみてください。一日一回、必ず良い事をするって、一週間続ける事も大変だと思うんです。
例えば、仕事を終わって家に帰ってきて、一日の終わりごろに「あっ、忘れてた!」って事もあると思うんですよ。私なんか特に忘れっぽい人間なので。もし、一人暮らしだったら、夜に一日一善をするって言っても難しいですよね。そのために外に出掛けていかなければなりません。そう考えますと、片岡が二十年以上も毎日欠かさず続けてきたっていうのは、すごい事だと思いませんか?
主人公の武井は、自分にはとっても出来ないなあと思っているからこそ、片岡の事を尊敬しているし、そんな片岡がトップの成績なのは当然だろうと納得しているんですね。片岡は、一日一善と言ってもたいした事はしてない、落ちているゴミを拾ったり、電車で席を譲ったり、お年寄りの荷物を持ってあげたりとかだよ、特別な事なんてしてないよって言います。
そう言いながら片岡は、テーブルの下に落ちていた枝豆を拾います。それを見た武井は、それぐらいだったら自分もやってみようかなって、キョロキョロと周りを見渡して落ちていたパセリを拾うんです。「これで俺もなんか良い事あるかな」って言うんですけど、片岡に「そんなに簡単に良い事なんて起きないよ。見返りを求めちゃいけない、心を磨くんだ」って言われてしまいます。
武井もバカじゃありませんから、そんなにすぐに営業成績が上がるとは思ってません。そんな武井に、今日から少しずつ始めたら、そのうちきっと良い事があるよって片岡が言うんですけどね。なんか教訓めいた話のように思えるかも知れませんが、そんな堅っ苦しい話ではありません。私たちが普通に生活していく中で、ありそうな話にしています。
気になる方は、実際に本を買って確認していただければありがたいんですけどね。神野守の独り言ラジオ、第五回目は「一日一善」でした。今後もよろしくお願いいたします。