神野守の独り言ラジオ「第2回 神野守短編集第1巻収録・嫌いな左手」
え~、皆さんこんにちは! 神野守でございます。神野守の独り言ラジオ第一回は、神野守短編集第一巻に収録されている「雨の中の女」でしたが、皆さん、聴いていただけましたでしょうか?今回は第二回と言う事で、やはり短編集に収録されている「嫌いな左手」にしたいと思います。
「嫌いな左手」……嫌いと言う言葉は、否定的な言葉ですよね。そして、感情的な言葉でもあります。例えば、愛し合っている恋人同士でも、つまらない喧嘩が原因でつい感情的になってしまい「あんたなんか嫌い!」って言う場面ってありませんか?
こう言うと、女性が言っているように聞こえますね。しかし、このお話の主人公は男性です。彼は何歳なのかはわかりません。冒頭で子どもの頃の思い出や高校時代を振り返っていて、現在は寿司屋で働いています。
主人公の悟郎は、自分の左手が嫌いなんです。その理由を、彼は淡々と語り始めます。まずは父親とのキャッチボールのシーンです。父親は息子に、左手でボールを投げるように命令します。しかし彼は右利きなので、左手では上手く投げられません。
実は彼の父は、漫画「巨人の星」の大ファンです。「巨人の星」と言われても、お若い方はご存知ないかも知れません。原作は梶原一騎さん、作画は川崎のぼるさんで、1966年から週刊少年マガジンで連載が開始されました。テレビアニメは1968年からの放送です。何度も再放送され、私などは再放送を見て育ちました。
巨人が1965年から1973年まで、九年連続でリーグ優勝と日本一を果たした、いわゆるV9の真っ只中の時ですね。私も父が巨人ファンでしたから、自然と巨人ファンになりました。そしてこの漫画「巨人の星」は、主人公の星飛雄馬が、父親の星一徹と共に巨人のエースを目指すと言う物語です。
飛雄馬は、左投げの投手として巨人に入るんですけど、花形満や左門豊作といったライバルたちに勝つために、大リーグボールって魔球を生み出すんですね。大リーグボール一号が、ボールをバットに当てる魔球、二号がボールが消える魔球、そして三号が、バットをよける超スローボールなんですが、かなり腕に負担がかかる投げ方のために、左腕を壊してしまうんです。
結局まあ、それで引退せざるを得ないんですね。ところが、新・巨人の星ってのが始まりまして、そこで父・一徹が「実は飛雄馬は元々右利きだった」なんて言うんですね。左ピッチャーの方が有利と言う理由で、飛雄馬は子どもの頃から左利きにさせられたんです。
まあ、そんなこんなで、このお話の主人公である悟郎も、元々右利きなのに、無理やり左利きにさせられちゃうわけなんですよ。キャッチボールは当然左手で投げ、ご飯を食べる時もやっぱり左手で箸を持つんです。ハサミなんかもわざわざ左利き用のハサミを買ってきて左手で持たせました。
そして彼は、なんとか左手でボールを投げられるようになったんですよ。ところが、彼の子ども時代はもう、野球よりもサッカーの方が人気があったんですね。それで彼も、野球からサッカーに転向するわけです。サッカーって、手が右利きだとか左利きだとかはあんまり関係ないですよね。足なら関係あると思うんですけど。
そして高校三年の最後の大会の時、ペナルティーエリア内で、彼の左手にボールが当たってしまって、ペナルティーキックを与えてしまいましてね、それが原因で負けてしまうんです。結局、左手のせいで負けてしまうわけなんですよ。そう言う事がありまして、彼は左手が嫌いなんです。
まあこれは、うちの奥さんが左利きで、親から右利きに直されて苦労したって事と、息子がやっぱり左利きで、子どもの頃はよく「実は君は元々右利きで、左利きに変えたんだよ」って冗談で私が言ってたものですから、この話を思いついたんですけどね。
そうして、主人公はある事件に巻き込まれていくのですが、勤め先の店主が寿司屋の店内で殺害されて、彼と、彼の同僚の二人が殺人事件の容疑者になってしまいます。さて、犯人は誰で、動機は何なのか? ヒントは「嫌いな左手」という表題にあります。
まあ、賢明な読者の皆さんは、大体の予想がついていらっしゃると思いますが、良かったら、実際に本を買っていただいて確認していただけると嬉しいですね。神野守の独り言ラジオ、第二回目は「嫌いな左手」でした。今後もよろしくお願いいたします。