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「ささ、おひとつ!」
タヌキ女将はニコニコしながら俺にビールをすすめた。
ビールのグラスは凍っていて、そこにキンキンに冷えたビールを注いでくれた。完璧な割合で泡立っている。
このタヌキ女将、ビールの注ぎ方うまいな~!
暑くて喉が渇いていたのもあって、一気に飲み干した。
「あらっ! お客さん、イケる口ね!」
タヌキ女将は俺を見てニコーっと微笑んだ。
か…可愛い…!
タヌキ女将の顔を見て、昔実家で飼っていた犬のポンタを思い出した。
茶色くモフモフで、コロコロ真ん丸で可愛かったなぁ…
「あらっ! お客さん! こんな美人見たこと無いって顔してるわね! まあ、私はこの界隈じゃ、ちょっとした美人女将で通ってますけどね…」
何も言ってないのにタヌキ女将はウフ~ウフ~と、勝手に照れている…。
と、思いきや!
「…で、そろそろ何か頼んでもらいやしょうか? うちも一応、客商売してるもんでね…」
女将はまるで〇クザのようなドスの利いた重低音で言ってきた。
今にも飛びかかって食ってやろうかというギラギラした目をしている…。
不敵に歪んだ口元から、フォッフォッフォッと、不気味な笑い声が漏れている…。
「あ、あの…、じゃあ、この筑前煮と…えっと…魚の煮つけをお願いします。」
「スィ! 筑前煮、煮つけ、ペルファボーレ!」
「スィ!」
女将はさっきの悪態とは打って変わって、キレキレの声で嬉しそうに叫んだ。
だから何なの? この受け答え方!
「どうぞ。」
出された筑前煮と煮つけは、絶品だった!
家庭料理の暖かさを感じるが、この味は家庭では出せない。やはりこの女将は小料理屋をやっているだけあって料理のプロだ。
ふとカウンター前に並んでいる大皿を見てみると、一番端に何故か鯛焼きが積んであるのに気が付いた。
「女将! この鯛焼きも一つください。」
鯛焼きを注文したとたん、女将の様子が豹変した。
体中の毛を逆立て、目を血走らせて牙を剥きだし、モフモフの毛の間から伸びた爪はギリギリとカウンターの板に食い込まんばかりに、シャーっと俺を威嚇してきた…。
え…何で?
「大皿に乗ってあるし…、これもメニューの一つですよね…?」
恐る恐る鯛焼きに手を伸ばしてみると
「シャァァァァァーーーーーーー!」
まずい! これは完全に食い殺される!
しょうがなく鯛焼きは諦めた。
誰にもあげたくないんだったらこんなとこに置いとくなよ…。