迷い込んだ路地裏の店は、異世界小料理屋だった
前作「小料理 タヌキ屋」の続編です。
前作の主人公・純の元カレのお話。元カレ側からの言い分、一部始終です。
俺は、かなりのダメージをくらっていた。5年間付き合った彼女と別れた。
こっちから別れを切り出したのに、何故おまえが凹んでんだ? と思われてしまうだろう。だけど…いや…いいんだ…。別にわかってもらおうなんて思ってねーし。
だけど胸はズキズキ痛む。こんな時、まっすぐ帰りたくはないな…。どこかで一杯やっていくか…。
その時、俺の目の前に、見たことのない路地が現れた。いつも通っている道にこんな路地あったか? 細い路地には、たくさんの提灯がぶら下がっていた。赤く光る怪しげなその小道を奥へ進んでいった。
見上げると、空にはお月様
気づくと、一軒だけ灯りがついていた店の前に立っていた。
小料理 たぬき
手が勝手に動いてその店の戸を開けていた。後ろから押されるように中へなだれ込んだ。
「いらっしゃいませ。」
女の人の声がした。優しく弾むような声。
あぁ…なんだかこの声癒されるな…
とりあえずカウンターに腰かけると、熱々のおしぼりが出された。手に取ってみると、その肌触り、いい匂い、行儀悪いと思われるのを承知で、思わず顔の上に広げてしまった。
癒されるぅ~…
しばらく放心状態だった。
「ハッ! すみません!」
俺は我に返り、おしぼりを顔から取った。。
「お客さん…随分とお疲れのようですね…」
優しく声をかけてくれた女将を見て腰を抜かしそうになった!
タ…タヌキ!
「あらっ! お客さん、そんなに私の顔をジロジロみちゃって! 恥ずかしいじゃありませんか」
タ…タヌキ…だよな? 着ぐるみ着てんのか?
「お飲み物、どうされます?」
「…あ、すみません…じゃ、とりあえずビールを…」
「スィ! ワンビアペルファボーレッ!」
「スィ! ビア承りました~!」
…え…? 何? 何語…? んで、もしかして…一人で二役やってる…?