いち。『結界』
淀んだ水の底、暗いトンネルの先、深夜の住宅街、髪を洗っている時の背後、居るのは分かるが会った事の無い隣人、得体の知れない異性の舐める様な視線・・等々、
怖気を誘うモノをあげていくとキリが無い。
得体の知れないモノ、底の知れないモノ、安心出来ないモノ、様々だ。
歩いていた道端に、ふと見ると・・座り込む者が居る。
多分、座っているだけなのだろう。
でも、もしかしたら・・死んでいるのかもしれない。
こちらを見ていない様に見せて、此方を品定めしているのかもしれない。
通り過ぎ、何も無ければ良し。
もしかしたら、いきなり背後から抱き付いて来るかもしれない。
いきなり刃物を刺してくるかもしれない。
鈍器で殴り付けてくるかもしれない。
得体が知れないのは恐怖だ。
恐ろしい。
見渡して、底の隅々まで見通せれば、恐怖は失せるだろう。
知らない。
分からない。
理解出来ない。
それは己に向く『凶器』になるが、他人に向けての『凶器』にも出来るのだ。
科学全盛の時代、『不可思議なモノ』は『オカルト』として片付けられる。
これまでに、『摩訶不思議』は次々と解明されてきた。
『分からない』も・・分かってしまえば、タネがバレてしまえば、途端に『恐怖』とは縁遠いモノになってしまう。
それならば、それを逆手に取ってしまえば良い。
「こんな事、起こりっこ無い!」
「有り得ない!」
「ウソだ!」
そう思わせてしまえば良いのだ。
■
簡単な『結界』を張ってみよう。
『人避け』と呼んでも良いかもしれない。
「アソコには近付きたくない」
「アソコは雰囲気が違う」
そう思わせるだけ、そう感じさせるだけ、それだけでも簡単な『結界』と言えるだろう。
例えば・・・・・・・。
『何の変哲も無い部屋』を用意し、『たったひとつ』付け足すだけでも良いのだ。
『何の変哲も無い部屋』+『古びた御札』。
『何の変哲も無い部屋』+『若干、年代物の人形』。
『何の変哲も無い部屋』+『ちょっとした噂 (過去の凄惨な事件。ウソも可)』。
『何の変哲も無い部屋』+『部屋の入口に供えられた花』に、+『古びた写真』を付け足しても効果増だろう。
『何の変哲も無い部屋』+『血糊を付けた刃物』が入口に落ちているだけでも、大概の人間は忌避感を抱くだろう。
『ドアノブに血糊を付着させておくだけ』でも効果的であろう。
ほんの少し、たったそれだけの『何か』を足すだけで、効果は出る。
付け足した『何か』に対して、意識下で『忌避感』を発させられれば成功だ。
その『忌避感』が『遠ざける結界』になる。
ただの地面でも、『区切り』を設けて設置するだけで、簡単な『結界』の出来上がりだ。
少し太めのヒモで輪っかを作り、地面に広げるだけでも良し。
手間をかけて、拾い集めた石で『区切り』を作るだけでも良し。
手間をかけて、創作物に出て来る『魔方陣』を描いてみるのも面白いかもしれない。
ほんの少し、たった少しだけ、日常に『異常』を持ち込む。
簡単な『□□』だ。