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家事上手?な彼氏君が主人公の話

作者: 江川ショーコ

 俺には遠距離恋愛をしている大学生の彼女がいる。彼女とは高校から付き合っていて、俺が告白した。

 月に1度、俺は彼女の家に行き家事ができない彼女の代わりに掃除・洗濯をして、手料理を振る舞う。だから彼女は俺のことを家事ができる男だと思っている。しかし、俺は彼女にある嘘をついている。

 

「こんなもんかな・・・」


 俺は目の前にある自分で作った料理を1口、試しに食べてみる。ゴクンと飲み込むと俺は頭に手を当てた。


「不味い。味、濃すぎ・・・」


 そう、俺は家事ができないのである。彼女に好かれるために家事ができる振りをしているだけで、彼女を好きになる前は全く家事をしなかった。洗濯や掃除はまだ良いとして、料理だけは毎度毎度練習しなければならない。今日作った魚の塩焼きも味が濃過ぎて美味しくない。


「はぁ・・・」


 そもそも俺が家事を頑張っているのはまだ高校生で彼女を好きになりたての頃、彼女の友人に聞いた好みのタイプが“家事ができる人”だったからだ。後にそれは好みのタイプでなく結婚の条件だったと判明したが、結婚を意識している俺としてはなんにせよ乗り越えなければならない壁なのである。

 味の濃い魚を食べようと机の上にご飯の準備を済ませたとき、ピーンポーンとドアのベルが鳴った。今は夜の8時だ。誰かが来る予定はない。不思議に思ってドアチェーンをかけたままドアを開くと、


「あ。急にごめんね。」


 そこには俺の彼女が立っていた。


(え・・・なんで?彩音(あやね)ちゃんは電車苦手だから地元からは出られないはず・・・でも彩音ちゃんにそっくり・・・)


 と、俺が混乱して固まったままでいると、彩音は心配そうに覗き込んで、


「えっと・・・サークルの先輩と一緒にこっちに来たんだけど、どうせなら会いたいと思って・・・その・・・迷惑だった・・・?」


 苦笑いをする彩音におれは必死に取り繕って、


「め、迷惑なわけないじゃん!嬉しいよ!」


 と、笑顔で答える。今の心持ちを正直に言えば嬉しい半分、嘘がバレて嫌われるんじゃないかという心配半分だ。彩音は嘘をつかれることを嫌う。バレたらお終いかもしれない。


「ねぇ、家に入れてくれない?急だし、無理なら帰るけど・・・」


「あ、待って待って!今外すから!帰らないで!」


 俺は慌ててドアチェーンを外し、彩音を招き入れる。しかし、俺は急な出来事で忘れていた。


「お邪魔します。あ、今日、焼き魚なんだ。ねぇ、1口だけちょうだい。お願い!」


 机に料理を並べたままだったということを。


「あ、あーそれ?小骨多いし、やめときなよ!次に家行ったとき作ってあげるからさ!」


「え・・・でも今食べたいんだけど・・・でも、うん、まあ、分かった・・・」


 彩音は自分では分かっていないのだろうが、感情が表に出やすいタイプだ。ゆえに、見るからにシュンとして落ち込んでいる。その落ち込んだ姿に弱い俺は、ついついよせば良いことを言ってしまった。


「じ、実は・・・味付けに失敗しちゃって・・・それでも良いなら食べる・・・?」


 この言葉を聞くやいなや、パッと表情を明るくさせた。そう、俺はこの笑顔にも弱いんだ。


「マジで!?ありがとう、壱月(いつき)!それじゃ、いただきます。」


 彩音は俺の箸を掴んで1口サイズの魚を食べた。間接キスとか考えないのが彩音らしい。そしてすぐに渋い顔になった。


「だから言ったでしょ?味付け間違えたって・・・」


「ははっ、味濃い~。でもま、美味しいよ。壱月が作ったものだしね。」


 その言葉を聞いて、俺はチクリと胸が痛んだ。俺は“味付けを間違えた”なんて言い訳をして、嘘がバレないように隠してる。そんな俺に“俺が作ったから美味しい”なんて・・・


「~~うんだ。」


「え?」


「違うんだ。味付けを間違えたんじゃない。俺・・・家事ができないんだよ・・・。」


 いつも“ありがとう”って言われるたび、“すごいね”ってほめられるたび、すごく嬉しいのと同時に嘘をついてる罪悪感もあった。でも、好きでいてもらいたくて、嫌われたくなくて、俺は嘘をつき続けた。


「ごめん・・・嘘ついてて・・・嫌だよね、こんな彼氏・・・」


 頼られたくて、俺のそばにいてほしくて、自分本意に嘘をつき続けた。


「家事なんて・・・彩音ちゃんを好きになるまでしたことなんかなかった。掃除も洗濯も料理も・・・彩音ちゃんに嫌われたくなくて、好きでいてもらいたくて頑張ってた。・・・ごめん。」


 俺が全部言い終わったと察したのか、彩音が


「何を謝ってるの?嫌って何が?なんか勘違いしてない?」


 と軽く言った。


「へ・・・?」


「嘘は・・・まあ、良くはないけど。私の為にここまで努力してくれる彼氏って、最高の彼氏でしょ?むしろ気付けなくてごめんね。今までよく頑張ってきたね、偉い偉い。」


 そう言いながら俺をぎゅうっと抱き締めて、頭を撫でてくれた。彩音のぬくもりが触れた部分から広がって俺の罪悪感を消してくれる。俺は自然と目が潤み始めていた。


「なんて・・・ちょっと上からだったかな?とにかく私は壱月と一緒にいられればそれで良いんだよ。壱月の努力家なとこが好きなんだよ。」


「でも・・・結婚条件・・・で、家事ができる人って・・・」


「それはあくまでも理想!大事な人なら条件に合わなくたって気にしないから!」


 彩音は明るくも優しい笑顔で答える。今までずっと家事ができる彼氏でいなきゃいけないと思ってた俺は肩の荷がおりたような気がして、みっともなく泣いて、彩音を全力で抱き締めていた。


「ちょっと、痛いよ~!」


 笑いながらそう言いつつも拒否せず抱き締め返してくれる彩音が俺は大好きだ。



「ところで、さっき結婚条件がどうのって言ってたってことは、結婚してくれるってこと?」


「え・・・!?」


 ニヤッと不敵な笑みを浮かべながら聞いてきた彩音には一生勝てないであろう壱月なのであった。

一生懸命な子が好きです。

名前はよく中性的に付けてしまうので、

今回は男女ハッキリ分かるようにしました。なってるはずです!多分。

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