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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

陰猫(改)のオリジナルや二次創作の短編

私と兄~タイから帰還した男~

作者: 陰猫(改)

 私、斉藤文恵さいとう ふみえは才色兼備で知られる高校一年生です。


 そんな私には二つ上の兄がいます。


 兄の名は斉藤勇也さいとう ゆうや


 文武両道で心優しい自慢の兄でした。


 そんな兄がタイに留学して早数年が経ちます。



 今日はそんな兄が帰って来る日です。


 大人になった私を見て貰いたい。


 そんな思いで勇也兄さんを乗せた飛行機が空港へ降りてくるのを待ちます。


 そして、その時は訪れました。


「勇也兄さん!」


 私はパスポートを見せて出て来る日に焼けて褐色になった肌の勇也兄さんの元に向かいます。


 勇也兄さんは不思議そうな顔をして、しばし考え込みました。


 どうやら、私が誰か解らない様です。


「私です!妹の文恵です!」

「……文恵?文恵か!?」


 勇也兄さんはようやく思い出したのか、私の肩を抱きます。


「良かった!もう会えないと思っていた!」

「そんな……大袈裟ですよ、勇也兄さん」

「大袈裟なもんか!こっちは外国人に騙されてばかりで本当、大変だったんだからな!」


 勇也兄さんはそう言うとこの数年の事を話してくれました。


 勇也兄さんは現地について早々にどこかの国から来たと思われる外国人に騙され、お金を失ってしまったそうです。


 路頭に迷っていた勇也兄さんはタイにあるとある寺院で居候をさせて貰い、賭け試合でムエタイを学び、体得。自らも挑戦者として試合にでる事で今の今まで帰る為の日銭を稼いでいたそうです。


「何もそんな事をしなくても、お父様に事情を話して仕送りをして貰えば良かったのではありませんか?」

「いや、今回は俺の失態だ。父さんに迷惑を掛けたくなかったからな」


 相変わらず、勇也兄さんはそう言うところで律儀でした。


「それにしても……文恵は大きくなったな。あんなに小さかったのが嘘みたいだ。それに見違える様に美人になったと思う」

「そうですか?みんなから言われますが、自分じゃ解りません」

「そう言うところは相変わらずだな。自分の事に無頓着と言うか何と言うか……」


 私と勇也兄さんは久し振りに会話しながら空港を後にします。


 久し振りの日本に勇也兄さんはやや戸惑っている様でした。


 無理もありません。


 この数年で街並みも大分、変わってしまったんですから。


 私は空港を出るとタクシーを呼び止め、中へと入ります。


 けれど、勇也兄さんは入ろうとはしません。


「どうかしましたか、勇也兄さん?」

「このタクシーに乗って平気か?ぼったくられたりしないか?」

「しませんよ。此処は日本ですよ?

 そんな事をしたら、すぐ捕まります」

「そ、そうか。なら、良いんだ」


 こんなに疑心暗鬼になるなんて本当にこの数年で一体、何があったんでしょう?


 そんな事を考えながら恐る恐るタクシーに入る勇也兄さんを待ちます。


「駅までお願いします」

「駅ですね。解りました」


 勇也兄さんが入ってドアを閉めるのを確認した私の言葉に運転手さんが頷くとタクシーが出発しました。


 勇也兄さんは忙しなく窓を見詰め、立ち並ぶ高層ビルを眺めます。


「そちらのお客さんは東京は初めてですか?」

「いいえ。ただ、数年振りに日本に帰って来ましたの」


 勇也兄さんの代わりに私がそう答えるとタクシーの運転手さんはハンドルを握り、正面を向いたまま笑う。


「数年じゃ、随分と変わって見えるでしょう。特に東京を中心とした都市はどんどん発展してますからね。

 数年も海外にいると浦島太郎の様に感じるでしょう」


 タクシーの運転手さんの言葉に勇也兄さんは「全くです」とだけ言って窓越しに映る景色を眺める。


 何だか、勇也兄さんが子供みたい。


 私はクスリと微笑みながら、景色に釘付けの勇也兄さんを見詰めます。



 駅に着くと私はタクシー代を払い、勇也兄さんと一緒に車から下ります。


 駅も数年前と比べて新調され、綺麗になった駅前に勇也兄さんが早速、虜になります。


「凄いな。俺がちょっとタイに行っている間にこの様変わりなんて……」


 勇也兄さんは感心した様にそう呟くとまるでテレビゲームを物欲しそうに眺める子供の様な目で周りを見渡します。


 なんだか、守って上げたくなっちゃいます。


 ーーと、そんな勇也兄さんの前で煙草のポイ捨てをする人達がいました。


 金髪や茶髪に染めた見るからに柄の悪い人達です。


「そこの君、ちょっと待ちなよ?」


 勇也兄さんはそれを見て、声を掛けます。


「あ~ん?なんだ、テメエは?」


 勇也兄さんに呼び止められて、柄の悪い人達が振り返ります。


「こんな綺麗な場所に煙草を捨てるな。マナー違反だろ」

「ぷっ。なんだよ、それ?今時、正義の味方かよ?」


 勇也兄さんの言葉に柄の悪い人達がゲラゲラと笑い、私に視線を移します。


「ああ。彼女の前で格好着けたいとか、そう言う系?マジ笑えるんだけど?」

「……彼女?」

「ん?違うの?ならーー」


 そう言うと柄の悪い人達の一人が私の肩を掴みます。


「ねえ、お姉ちゃん。俺達と遊ばない?」

「え?嫌です。離して下さーーいたっ!」


 男の人が私の腕を乱暴に掴んで自分に引き寄せます。


 周りの人は黙って見ているか、関わり合いにならぬ様に足早に遠ざかって行くばかり。


「固い事言うなよ?俺達と楽しい事しようぜ?」

「いや!やめて!」


 私がそう言ってもがいていると一人、動く人がいました。


 勇也兄さんです。


「……文恵から離れろ」

「あ~ん?なんだって?」


 ゲラゲラと笑う男達の一人が勇也兄さんの肩を掴んだ瞬間、その男の人の腕が勇也兄さんに親指を掴まれ、強引に勇也兄さんを掴んでいた手を捻り上げます。


「いて、いててて!」

「もう一度言う。文恵から離れろ」

「な、なんだ、コイツ!おい!やっちまえ!」


 私を掴んでいた男の人が動揺しながらそう叫ぶと、勇也兄さん目掛けて男の人達の一人が勇也兄さんに襲い掛かります。


「勇也兄さん!」


 私が叫んだ次の瞬間ーー



 ーー男の人一人が勇也兄さんの肘打ちを喰らって倒れ込みました。


「……っ!いて!イテエよ!」


 そう言って倒れ込んだ男の人が頭を押さえていた手を見るとその手が血でべっとりと汚れているではないですか。


 それを見て、男の人達が怯える中、勇也兄さんは腕を捻っていた男の人の腕をL字にバキンと折りながら放し、ゆっくりと拳を握り締めて両手を胸元まで広げる様にして構えます。


 その姿は私が格闘ゲームで知るムエタイを使うキャラクターの構えに似てました。


 二人の男の人達が腕や頭を押さえて呻くのを見て、男の人の一人が勇也兄さんに吠えます。


「よ、よくもダチをやりやがったな!テメエ、ぶっ殺してやる!」


 そう言って迫った瞬間、勇也兄さんの鋭いローキックが迫り来る男の人の足を捉え、激痛に体勢の崩れた男の人の顎に勇也兄さんの膝蹴りが炸裂しました。


 顎に膝蹴りを喰らった人はガクンと地に這いつくばるとピクピクと痙攣します。


「こ、こいつ、只者じゃねえ!」

「お、おい!早く、その女を放せよ!」


 勇也兄さんの戦う姿に残った三人の男の人が私を掴む男の人にそう叫ぶと男の人も動揺した様に倒れて呻く三人の男の人を見ます。


 その隙を突いて、私は腕を掴んでいた人の手を噛みます。


「いててて!イテエつってんだろ!このアマ!」


 私はバシンと頬を叩かれ、地面に背中を打ち付けました。



 次の瞬間、私を殴り倒した男の人は勇也兄さんの跳び膝蹴りをもろに喰らい、くの字に身体を歪めて地面にゴロゴロと転がって行きます。


 そんな男の首を両手で抱き抱える様に立たせると勇也兄さんは膝蹴りの連打を男の人に浴びせます。


「よくも!文恵を!傷物にしてくれたな!」

「ゲホッ!ゴホッ!グエッ!」


 膝蹴りの連打を喰らい続け、男の人が口から血を吐きます。


「や、止めてくれ!それ以上やったら本当に死んじまう!」

「ーーっ!?やめて、勇也兄さん!!」


 我に返って勇也兄さんに私が叫ぶと勇也兄さんは動きを止めて、男の人を投げ飛ばしました。


 投げ倒された人は解り辛いですが、微かに息はしている様です。


 残された男の人達は怪我をした仲間を抱えながら、その場を後にします。


 それを見送ると勇也兄さんが私に歩み寄り、その叩かれた頬に触れます。


「ーーっ!いたっ!」

「ああ!す、すまん!」


 私が痛みで勇也兄さんの手から顔を逸らすと勇也兄さんが謝りながら頭を掻きます。


 そして、ズボンのポケットに手を突っ込むと勇也兄さんは私にハンカチを差し出しました。


「血が出てるかろ、これで押さえてろ」

「有難う御座います、勇也兄さん」

「いや、礼なんて要らん。俺が煙草を注意しなければ、文恵も怪我なんてしなかったろう」

「いいえ。勇也兄さんは当然の事をしただけです。それに……その……格好良かったですし……」


 私はハンカチを受け取り、叩かれた頬を押さえながら俯きながらそう言います。


 ……なんでしょうか?この胸のドキドキは?


 もしかして、私、勇也兄さんに恋してしまったのかも?


「お巡りさん!こっちです!」


 そんな考えていると私達のやり取りを見ていた人の一人がお巡りさんを連れて現れます。


「け、警察!?」


 勇也兄さんはお巡りさんの姿を見ると血相を変えて、あわてふためきながら私の空いている手を掴んで駅の中へと逃げます。


「待ちなさい、君達!」

「え?ちょっーー勇也兄さん!?」

「警察だ!逃げろ!」


 ……本当に何があったんでしょう?


 私は勇也兄さんにあちこち連れ回されながらお巡りさんを振り切ると元来た道を歩いて行き、切符売り場へと辿り着きます。


「はあ……はあ……。勇也兄さん、もう走れません」

「すまないな、文恵。だが、警察の目は撒いたんだ。しばらくは大丈夫だろう」

「お巡りさんから逃げるなんて……本当、向こうでは何があったんですか?」

「まあ、色々とな。ところで、なんだ、これは?」


 自動改札口を見て、勇也兄さんは首を捻ると呼吸を整える私に顔を向け直して訊ねます。


「改札口ですよ」

「改札口?これが?」

「はい。使い方をお見せしますので見てて下さい」


 私がそう言って一枚のSu○caのカードを取り出して勇也兄さんに渡すと改札口にもう一枚のカードを使って触れさせます。


 するとピッと言う音がして私は改札口の向こうへと入りました。


「さ、勇也兄さんの番ですよ?」

「え?あ、ああ」


 勇也兄さんは私の言葉に頷くと同じ様にカードを触れさせ、改札口を通過します。


「成る程。便利だな」

「勇也兄さんも今後使う物です。覚えて置いて損はないですよ?」

「ん。ああ。そうだな」


 私の言葉に勇也兄さんは頷くと駅のホームで一緒に電車を待ちます。


「遅くなりましたが、これで帰れます。今頃、お父様達も帰りが遅くて心配しているでしょう」

「ああ。そうだな。すまんな、文恵。俺のせいで遅くなって……」

「気にはしていません。それに勇也兄さんと一緒にいれて楽しかったですから」

「そうか?なら、良いんだがーー」

「でも、次から喧嘩はご控え下さい。向こうではどうか知りませんが、此方では暴行罪にだってなるかも知れませんし」

「解った。気を付けよう」


 勇也兄さんは私の頭を撫でながらそう言うと電車が来るのを待ちます。


「……あの……勇也兄さん?」

「ん?どうした、文恵?」

「これからはずっと一緒ですよね?」

「勿論だ」


 勇也兄さんの言葉に私は花が開いた様に笑うと勇也兄さんの腕に抱き着きました。



「えへへっ。勇也兄さん、大好きです」



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