第8話 悪魔な先輩と天使な後輩
俺達がギルドに着くと、既に多くの冒険者達が集まっていた。
「皆さん! これから、緊急討伐クエストの説明をいたしますので、ご注目下さい!」
ギルドの受付嬢がギルドの中心にあるテーブルの一つの上に立ち、大きな声で喋り始めた。
ガヤガヤしていたギルドが急に静かになった。
「皆さんには、これから街の外れにある森に突如出来た巨大なオークの巣へ行ってもらいます! 彼らは非常に狡猾かつ危険で有名な集団です! 近隣の住民に被害が出る前に、皆さんには、退治に向かって貰いたいと思います! 危険度はB級です! なので、参加していただくだけで、報酬もでますし、活躍に応じて特別報酬も出したいと思います! 皆さん、奮ってご参加下さい!」
こういう集団で臨むクエストは初めてだ。
とりあえず、周りについて行って様子を見るか。
なんてことを考えていると、アリサが不安そうな顔でこちらに話しかけてきた。
「私達、他の人達とは、違うルートで行かない? 私、血浴びちゃうとやばいし」
「そっか。だよなぁ……」
どうやら、俺達は別行動するしかないらしい。
「エリさん、それでもいいですか?」
「私は、それでも構いませんよ。あなた達の戦い方も見てみたいですし。言わばこれは黒魔術士であるあなたが、私と釣り合うかどうかテストです」
どうやら、まだあの話は続いているらしい。
そんなことを、俺達が話していると、賢者さんが俺達のところへやってきた。
「よかったぁー。無事会えたんだね。ごめんなさい。私の紹介だったのに、用事出来て一緒に行けなくなっちゃって……」
「いえ、べ、別に大丈夫です……」
相変わらず、賢者さんの前では俺はまともに話せなくなってしまう。
「お前、余計なお世話だよ。何しにきた? 私達はこれから大事な試験をするっていうのに!」
意外なことに、年下の俺やアリサには敬語を使うのに、エリさんは賢者さんにはタメ口だった。
「先輩がまた何か問題起こしてないか見に来たんですよ! また、私が紹介してあげたパーティからクエストの途中で抜け出したりしたら、私の信用に関わりますからね!」
「相変わらず、お前は自分のことしか考えてないのな! ほら、もうお前どっか行けよ! しっしっ!」
そう言って、エリさんは賢者さんに向かって手を払った。
賢者さんをここまで邪険に扱う人間を、俺は初めて見たので驚きだった。
「いや、私も付いていきます。先輩を監視させて貰います!」
「はあ、お前、うざいなぁ。そんなんだから、彼氏の1人も出来ないんだよ。ていうか、お前、自分のパーティはどうしたんだよ! 職務放棄か?」
エリさんは本当に機嫌が悪そうだった。
でも、確かに自分のパーティと賢者が行動しないのは変だ。
「アルトとダンはまだ用事の途中なんです! 私は先に帰って来たんです! だから、職務放棄とか人聞きの悪いこと言わないで下さい!」
アルトは賢者さんのパーティの勇者のことで、ダンはバトルマスターのことである。
ちなみに賢者さんの名前はマイなのだが、彼女はあまりこの名前で呼ばれるのを好まないなので、周りから役職名で呼んでもらっている。
「はっはっは! ウケる! お前、邪魔だから帰されたんだよ! ざまあみろ!」
後輩にパーティを斡旋してもらっておきながら、この態度。
なかなか、普通の人間がとれる態度ではない。
この人には羞恥心というものが存在しないのだろうか?
というか、敬語の時とキャラ変わり過ぎだろ。
2人の過去に何かあったのだろうか?
「ていうことは、賢者さん、今日は私達のパーティに入ってくれるの? よろしくね!」
アリサが嬉しそうに言う。
「そういうことになるかしらね。ハヤトくん、私、あなた達のパーティに今日だけ入ってもいい?」
「は、はい、全然大丈夫です。あっ、でも俺達、他の人達とは違うルート行きますよ。アリサ、血を浴びるとやばいから」
「大丈夫よ! そっか、アリサちゃん血が苦手なんだっけ、なるべく血は流れないようにするね!」
「うん! ありがとう!」
アリサと賢者さんが笑顔で会話する。
ああ、この2人を見ていると、なごむなぁ。
対して、恥知らずのエリ先輩はまだ悪態をついている。
「回復キャラは2人もいらないんですけど! 私がいれば十分なんですけど!」
この人は体だけでなく、心まで子供なのだろうか?
もう、置いていこうかな……この子。
「確かに回復キャラ2人はバランス悪くて格好悪いよねー」
アリサが無邪気な笑顔で言う。
自分のことを気遣ってくれた賢者さんにこの仕打ち。
もうやだこのパーティ!
俺、面倒見切れない!
2人とも置いて行こうかな……。
すると、賢者さんが笑顔を崩さず答える。
「大丈夫! 心配には及ばないよ。私、今回は攻撃に専念させてもらうから! それに先輩はすぐ回復出来なくなっちゃうから……」
頭のおかしな2人にこの態度! 天使かな?
それはさておき、何でも出来るんだなこの人。
しかし、最後の言葉の意味が気になる。
俺は森を探索し始めてすぐに、この意味を知るのだった。