第6話 ラッキースケベは犯罪か?
「これは、やばいな」
「これは、やばいね」
アリサと同棲を始め、パーティを組んだはいいものの、深刻な問題が発生した。
すなわち回復手段の欠如である。
回復魔法を使える人間がいないパーティというものは、基本存在しない。
薬草は持って行くのにも限度があるし、効率はあまり良くない。
やはり、回復に特化した人間がパーティに1人いるだけで、安定感グッと増す。
しかし、俺達のパーティは基本魔法の使えないバーサーカーのアリサと、デバフ魔法がメインの黒魔術士である俺しかいないのである。
最初はこれでもなんとかなるだろう、なんて甘いことを考えていたのだが、実際上手くいかない状況が最近続いていた。
高額の報酬が付くクエストを一切クリアできないのである。
後一歩のところで、毎回薬草が尽き、リタイアせざる得なくなってしまうのである。
そこで、俺達は簡単なクエストをこなした帰り、ギルドで話し合うことにした。
「賢者とか、僧侶とか、勧誘してみる?」
「まあ、普通はそうなんだが、俺もお前もギルドでの評判はあまりよろしくないからなぁ……」
悲しいことに、俺は引きこもりの例のあの人状態、アリサは仲間殺しとして悪名を轟かせてしまっているのである。
「というか、できれば賢者は勧誘したくない」
ワガママを言っている場合ではないのだが、賢者という単語を聞くだけで、あの人のことを思い出し悶え死にそうになるのだ。
「賢者? 私の話かな?」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。
というか忘れたくても、忘れられない声が聞こえた。
そう、俺が異世界でいきなり恋に落ちたあの賢者さんである。
「違うよ。回復する人の話だよ!」
アリサが応対したが、俺は緊張して声が出ない。
「へえ、そうなの! あなたはハヤトくんの仲間かな?」
「うん! そうだよ!」
賢者さんが、こちらの顔を覗き込む。
やめてほしい、不用意に童貞を刺激するのは。
「よかったー! 心配してたんだ、私達のパーティを抜けてから、ずっと引きこもってるって聞いて心配で心配で。3人であなたの新しい仲間を探したりもしたんだよー」
あのパーティを抜けた日のことが、頭の中でぐるぐると駆け巡る。
羞恥で俺は手を握りしめ、黙っていることしか出来ない。
代わりにアリサが会話を続ける。
「私達、今、回復専門の仕事の人を探してるんだ!」
すると、賢者さんが少し困った顔をした後、ためらいながら喋り出した。
「私の先輩にね、1人ヒーラーでパーティ募集してる人がいるんだけど……。ただ、性格に少し問題のある人で……」
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結果的に、俺達はその人に会いに行くことになった。
俺達自体そもそも、割と性格に問題があるので、多少は目をつむろうということになったのだ。
俺個人としては、聖人のような賢者さんを持ってしても、性格に問題があると言わしめる、その先輩とやらに純粋に興味が湧いていた。
賢者さんに教えて貰った通り、街を行くとその先輩の家はあった。
俺達の家ほどではないにしても中々大きな家だった。
コンコン。
恐る恐る俺がノックをすると、扉が開かれた。
すると中から、中学生いや、小学生くらいの可愛らしい女の子が出てきたのだ。
どうやら、家族で暮らしているらしい。
「お姉さんは今いらっしゃる?」
と俺がたずねると、少女はにっこり笑って
「姉はいませんよ」
と返してきた。
参ったな。
家に居てもらうように、賢者さんに連絡して貰ったのに……。
「いつ頃、帰ってくるか、わかる?」
「だから、姉はいませんってば!」
話が通じていないみたいだ。
困ったな。
「ねえ、もしかしてこの人が賢者さんの紹介してくれた人なんじゃない?」
突然、アリサがバカみたいなことを言い出した。
前々からバカだとは思っていたが、まさかここまでとは……。
明日、病院にでも連れていってやろう……。
「何言ってんだ、お前! こんな小さい子が賢者さんの先輩なわけないだろ!」
すると女の子が怒りながら、アリサを指差し、
「その子のいう通りなんですけど!」
と叫んだ。
「いやいや、お嬢ちゃん! 大人をからかっちゃいけないよ」
俺が呆れたようになだめると、突然女の子が服の胸元を開いたのだ。
「駄目だよ! 嘘がバレたからって、自暴自棄になったら! ここ大通りの目の前だからね!」
「違います! これをよく見てください! この紋章を!」
目を背けた俺が、再び顔を真っ赤にした女の子の方を見る。
彼女の胸元には、白魔術士のみに刻印される白の紋章があったのだ。
どうやら、異世界にはロリの姿をしたお姉さんがいるらしい。
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「本当に申し訳ございませんでした!」
俺は誠心誠意の土下座をしていた。
「もっと、謝ってください! 私に公衆の面前で醜態を晒させたことを、もっと謝ってください!」
どうやら、大分お怒りのご様子らしい。
でも、よく考えたら、服を勝手に脱ぎ始めたのはあなたですよね。
なんて、言いたいのを俺はグッとこらえた。
ここで、それを言ったら、パーティに入ってくれなくなる可能性が高い。
というか、俺は年齢を勘違いしたことを怒っているのか、と思ったが……。
すると突然アリサが口を開いた。
「でも、突然服を脱ぎ始めたのってあなただよね! 家の中で脱ぐことも可能だったのに……。」
バカ! お前は本物のバカなのか! なんのために、俺が土下座していると思ってんだ!
「まあ、確かにそれは一理ありますね。もう、頭をあげていいですよ。変態」
どうやら、許してくれるらしい。
アリサのおかげなのか……!? いや、違うな……。
頭をあげると、何かふんわりしたものが頭にかかった。
なんだこれ? 布か? なんでこんなところに?
俺が頭を動かすと、突然視界が開けた。
真上にはなんと、赤面した白魔術士さんが……!
どうやら白魔術士さんのミニスカートに俺は頭を突っ込んでいたらしい。
そして、俺は再び3時間ほど土下座をした。
まだ名前すら聞いてないなーなんて考えながら。