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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第一章 ポンコツパーティはじめました!
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第5話 バーサーカー・パニック


「あはあははあはははっはははーーーーーあああああ!! あはあははあはあはははははっはーー!!」


 アリサのわらいはエンジンがかかったかのように、ますます酷くなっている。


「ど、どうしたんだ……?」


 こちらの問いかけに応じる様子はない。

 俺はアリサに何があったかを思い出す。


 おかしくなったのはゴブリンの血がかかってからだ。

 どうやら血がかかると、狂戦士としての実力が真に発揮される狂戦士モードに入るらしい。


 なんて冷静に状況を分析している場合ではない。

 アリサがこちらに気づいた。

 仲間としてではない。狩るべき対象として、だ。


 その証拠にタガーナイフをこちらに向けて走ってくる。

 クソ……! 下手したら死ぬな。

 タガーナイフで心臓を突かれたら一発あの世行きだ。

 近くにヒーラーもいない。そんな状況で致命傷なんて負ったら、生きて帰ることはまず不可能だ。

 まあ、いいか。俺が死んでも、別に悲しむ奴なんていないだろうしな……。

 今度こそはもっとマシな能力をもらおう。





 でも……もしかしたら、アリサは悲しむかもな。

 俺をパーティに誘うような変人だ。

 他の奴が悲しまない状況で悲しむかもしれない。


 というか、このまま俺が死んだらアリサは殺人犯だ。

 それだけは絶対に避けてやりたい。

 理屈でなく、素直な感情でそう思った。


 冒険者としてクエストに行くことをあれだけ楽しみにしていた彼女の、初クエストをこんな形でダメにしてやりたくない。

 しょうがない。何とかして、アリサの暴走を止めよう。



 俺の手札はデバフ魔法のみ。

 当てること自体は、やぶさかではない。

 彼女は真っ直ぐこちらに向かってきている。

 そのままぶっ放せばいいだけだ。


 問題は何をデバフするべきかということである。

 今まで使ったことがあるのは、防御や攻撃のデバフのみ。

 この場合、アリサ自身の攻撃力を下げたとしても、ダガーナイフで刺されたら元も子もない。

 防御は論外。アリサ自身が傷つき、俺も死ぬ可能性がある。

 どうすれば……。


 アリサは俺のすぐ近くに迫ってきている。

 クソッ! 速えな。

 んっ。“速い”?


 そうか。その手があったか。

 俺はアリサに向けて右手を掲げる。





「汝の風、沈黙せよっ!」


 俺の手から紫色の光線が放たれ、真っ直ぐアリサに向かって行った。

 突然の反撃に対応できなかったようだ。

 アリサはなすすべもなく、光線をその身に受けた。


 そして、気を失ったようにバタッと倒れ込んだ。


 俺が使ったのは素早さ・・・に対するデバフだ。

 素早さが0になる―――すなわち、行動停止になるということ。


 当然、アリサは気を失ったように倒れるだろう。

 そんな俺の目論見は見事当たったようだ。


「ふう……」


 俺は肩をなで下した。

 柄にもないことをしたので……ひどく疲れた。


_______________________________



「おっ! 目が覚めたのか?」


 数時間後、アリサはバタッと時間が動きだしたかのように飛び起きた。


「あれ、私……」


 どうやら、狂戦士モードは解除されたらしい。

 最初に会った時と寸分変わらないアリサがそこにはいた。


「お前の血を拭き取るの大変だったんだぞ……」


 本当に大変だった。起きてすぐに、また狂戦士モードに入られても困るので必死に全身を拭いたのだ。

 いつ目を覚ますかも分からないので、ひやひやものだった。

 だから、合法的に可愛い女子の体を触れたというのに、全く楽しくなかった。





 アリサの目からポロポロと涙がこぼれた。


「そ、そんなに俺に体中触られたのが嫌だったのか……。すまん。頼むから、警察には通報しないでくれ! 引きこもりが気を失っている間に女子の体を触りまくったとか、死刑じゃすまないというか、社会的に死ぬから!」


 だが、アリサはそんな俺の言葉を無視して抱きついてきた。


「ちょっ! どうした!?」


 アリサはむせび泣き始めた。


「ごべーーんっ! わたじ、ちをあびたら、ばにっぐになっちゃっでーーー! ああっ! ごべーーんっ! ごべんでっ!」


 どうやら、謝っているようだ。

 パニックとかそういうレベルじゃなかった、とか。

 そういうことはこの際、ツッコまないでおこう。

 

「いいよ。別に……。というか、お前そんなに血とか刃物とか苦手なら何でダガーとか使ってんだよ? どう考えても、血で溢れかえりそうだろ」


 俺の問いにアリサはちょっと間をおいて答えた。


「……バーサーカーっぽいから」

「は?」

「まさか、あんなことになるなんて思わなくて……」


 今度、こいつを頭の病院に連れて行きたい。


_______________________________



「ねえ! 本当に報酬金全部、私の武器を買うのに使っていいの?」

「そうしないと、今度行く時どうすんだよ?」


 あの後、俺達はギルドへ報告に行き、ゴブリン達の角と交換に報酬金を貰った。

 そして、アリサの武器を新調するために武器屋にきたのだ。


「でも、ハヤトだって生活するのにお金がいるでしょ……」

「いいよ。ゴブリン全部倒したのはお前だし。それに俺は上級冒険者だからな。金には困ってないんだ」

「うわー、ハヤトのデブ!」

「それを言うなら、太っ腹だろ……」


 むしろ、俺は痩せている。

 天然だからと言って、理解するのに数秒を要するボケはやめて欲しい。


 そんな会話をしながら、武器屋の店内を回る。

 さすが町一番の大きさの武器屋だ。

 武器なら何でもありそうだ。

 軽く見渡すだけでも、シンプルな剣、レイピア、盾、刀、タガーナイフ、メイス……メイスか。

 メイスは打撃系の武器だったはず。

 でも、そうは言っても武器である。普通に血は出るだろう。

 俺は適当なメイス―――彼女の髪の色と同じ紅色のメイスを拾い上げ、店員のところに持っていく。


「あのー。これ、特注で改造してもらったりできませんか?」


 店員さんとやり取りして、何とか血が出ない仕様のメイスを特注することに成功した。

 結局、報酬金よりも値が張ってしまったが、彼女のパーティ加入祝いということで。


「つーか。アリサはどこ行ったんだ?」


 気づくと、アリサは俺の隣から消えていた。


「おーい! アリサ!」


 俺はアリサを探し、店内を回っていたところ、アリサの姿を発見し―――




 アリサは鉄の鎧の男二人と三角帽子に黒のローブを身にまとった女一人の三人に囲まれている。

 いつもの習性でもの陰に隠れて、様子を窺う。


「なあ、あんた、バーサーカーなんだろ! 俺達のパーティに入らねえか?」


 どうやら、勧誘されているようだ。

 なぜアリサを?


「バーサーカーって言ったら、上級職じゃんか。絶対、アタシ達のパーティに入ったほうがいいよ!」

「俺達、三人も上級職なんよ! うちのパーティに入るのが吉ってもんよ!」


 俺は知らなかった。

 バーサーカーは上級職だったんだな……。

 そりゃそうか。一人でゴブリン数十体をばらしちまうくらいだもんな。


 俺はアリサの方に近づく。


「私、もうパーティ組んでる人がいるんだ! あっ! 来た! ほら、この人が……」

「何言ってんだ? お前」

「え?」


 アリサがポカンとした顔をする。

 アリサを囲んでいた三人もこちらを見る。

 俺はなるべく感情を表に出さないようにして言う。


「なんで、てめえなんかが俺の仲間面してんだよ? お前みたいな奴、俺が必要とすると思うか……?」


 思ったよりも悪口というのはスラスラ出てくるもんだな。

 俺はそのまま続ける。


「いらねえんだよ。俺は一人でやれるしな」


 必要だ。本当は一人では何にもできない。


「お前は弱い。俺のパーティにはいらない」


 だけどな、お前は強い。だから、ちゃんとしたパーティに入れ。


「お前みたいな奴がいたら、俺までダメになっちまうんだよ」


 俺みたいな奴と一緒にいたら、お前までダメになってしまう。


「だから、ここでサヨナラだ。もう人に迷惑かけんなよ。これ、新しい武器の引換券だ。そんじゃあな」


 じゃあな。そっちのパーティで仲良くやれよ! 元気でな!


 ひとしきり言い終わると、俺は走り出した。

 これであいつが俺の元に戻ってくることはないだろう。


 冒険者として成功する可能性をあいつは秘めている。

 そんな幸せを壊す権利は俺にない。

 だから、ここでサヨナラなのだ。


 少し寂しいが、またすぐに慣れるだろう。


_______________________________



「……2345……2346……2347…」



 そんなこんなで、俺は再び異世界引きこもり生活中だ。

 本当に異世界に来た意味が疑われる。

 再び、シミを数える日々に逆戻り。





 扉が叩かれる音がした。

 随分乱暴な音だ。朝食の時間か……。


「はいはーい!」


 俺は扉を開け―――





 なぜか、そこにはアリサがいた。


「は?」

「入れてくれるのっ? じゃあ、遠慮なく……」

「ちょっ、ちょっと待て! え! 状況がつかめんのだけど……」

「ハヤトが背中押してくれたけど、駄目だったみたい」


 どういうことだ?


「私、追い出されちゃった!」


 話を聞くために、俺はアリサを部屋に迎え入れた。

 あの後、アリサはあの勧誘を受けたパーティで頑張ろうとしたらしい。

 が、一つ問題があった。

 よく考えたら、アリサが刃物を使うまいが、パーティに一人くらいは剣を使う奴がいるのだ。

 というか、そうでなくても血は冒険者のパーティならに日常茶飯事である(気づかなった俺も大概だが……)。

 結局、アリサは返り血をあびて、狂戦士モードに入ってしまった。

 結果として、彼女はパーティメンバーを半殺しにしたそうだ。

 殺しはしなかったものの、パーティの高級装備などをもれなく全壊。

 パーティを追い出された彼女は全財産を没収されたらしい。


 そうして、行くあてのない彼女は俺の元を再び訪れたそうだ。


「……どうしてだ?」


 彼女は俺の問いにキョトンとした。


「何が?」

「どうして俺なんだ? あんな酷いこと言ったのに……」


 自分でも最低なことを言ったと思う。

 結構、あの後、思い出して自分でも罪悪感で押しつぶされそうになったりもしたのだ。





 だが、アリサはニッコリと笑う。


「それはね。ハヤトじゃなきゃダメだからだよ!」


 俺の手を相変わらず、何のためらいもなく握る。


「私の暴走を止められるのはハヤトだけだし! あの格好いい魔法ね! あれだけだよ!」


 そして、どうしようもないほどその手は温かい。


「それにね! 私、あんまり頭良くないけど、分かるよ! ハヤトは本当の気持ちじゃなかったってことくらい!」


 やめてくれ。それ以上は。


「それに私の実力がまだまだなのも事実だしね!」


 彼女はくるんと体を右に一回転させ、ぺこりとおじぎした。


「だから、お願いします! もう一度、私とパーティを組んでください!」


 そして、ごにょごにょした声で続ける!


「あ、あと……出来ればでいいんだけど、ハヤトの家に住ましてもらえないかな……って、都合良すぎだよね……い、今のは無しでっ!」

「……いいよ。一部屋貸してやるよ―――」


 俺も頭を下げる。


「―――その代わり、俺とパーティを組んでくれっ!」

「って、ハヤト、何で泣いてるの!?」


 気づいたら、瞳から涙がこぼれていたようだ。


「……うるせえ」


 俺は涙を拭う。


「これからよろしくな!」


 俺は再び手を差し出す。

 その手にはしっかりとした手応えがあった。


「うんっ! よろしくね!」


 彼女の笑顔はどこまでも輝いていた。



 こうして、異世界で一人目の仲間ができたのだった。




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