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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第二章 異郷の地に行く……!
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第15話 絶縁の騎士とエロ魔術士の邂逅


「あれが“絶縁の騎士”とやらか……」


 どういう風の吹き回しか、対戦予定の彼を俺は偵察に来ていた。

 まあ、本当のところは不安と恐怖で寝つけず、運動場近辺を徘徊していたところ、たまたまそれらしき人物を遠くから発見したので、観察することにしただけなのだが……。


 彼が絶縁の騎士である、ということが分かったのは髪の色からだった。

 レオナから聞いた話なのだが、彼の髪色は白地に黒の斑模様らしい。

 というか、俺は彼を知っていた。狼掃討訓練の時に俺達を騙したパーティの一人だ。

 初見の時、珍しい髪色だと思った人物だった。

 異世界といえど、そこまで個性的な頭をしている人物は早々いない。

 知っている人物で髪色が特徴的だったため、遠くからでも瞬時に分かったのだ。


「というか、もう一人いるのか……」


 外灯に照らされて、もう一つ人影が見える。

 誰だろう?

 疑問を覚えた俺は更に距離を詰める。

 それは訓練生の一人である女性だった。訓練生の中でも非常に美しい見かけをしているため、チェックしていたのだ。

 俺の見立てによれば1、2を争う美女である。


 ある程度、距離を詰めたお陰で彼らの会話がうっすらと聞こえてきた。

 何やら女性の方が必死に何かを訴えかけているようだ。

 『絶縁の騎士』と美女がどんな会話をしているのか……。

 気になった俺は近くにあった木の陰に身を隠して、耳を澄ませた。




「私は駄目なのですか!」

「……ああ」


 果たして、何の会話だろうか?


「誰よりも貴方様に心惹かれておりますのはこの私でございます! ですから……!」


 な、何だと……!

 こいつ、告白されてやがるっ……!

 なんて、けしからん奴なのだ! 訓練所という神聖な場所で告白されてやがる!

 しかも、こんな美女にっ……! ふざけんな!


 俺の怒りをよそに男は無関心そうに美女の問いに答える。


「申し訳ないが、無理なものは無理だ」


 は?

 どういうことだろうか? 絶縁の騎士とやらは頭がイカれているのか?


「やはり、無理ですか……」

「ああ」


 どうやら、本当に断っているようだ。こんな美女に告白されて断るとか……。


「せめて、理由だけでも……」


 そうだ! 理由くらい聞かせろ! 

 俺は前のめりになって言葉を聞こうとする。

 絶縁の騎士は呆れたように即答した。




「あんたに興味がない。それだけだ」


 美女は心がぽっきりと折れてしまったのか、地に足のつかない様子で、寄宿舎の方へと戻って行った。

 可哀想に……。


 俺は男の方を見る。何という男だ。

 確かに顔は多少整っているが……だからと言って許されることじゃないっ!

第一、 興味がないってなんだよっ!

 俺はあの美女に興味津々だったよっ!

 ふざけんなっ!!


 その時、絶縁の騎士がこちらを振り向き口を開いた。


「おい。そこの盗み聞きしている愚か者、出てこい」


 静かに響くその声に俺は冷や汗をかいた。

 ばれたか……まあ、いい。言ってやりたいことは山ほどある。

 俺が木の陰から出やおうと……一人の少女が草むらから飛び出した。


「へへっ! ばれちゃったですか!」


 少女の長い銀髪が宙に舞う。身長はエリと同じくらいだろうか?

 少しして、その少女に見覚えがあることに気づいた。

 確か、この男と同じパーティだったはずだ……。

 とはいえ、どうやら俺のことには気づいていないようだ。

 ほっと胸をなでおろす。


 少女はくるりと回り、男に擦り寄る。


「ふふっ。あの女もバカですね! このシフォンがいる限り……って、どうかしましたか?」


 男は―――絶縁の騎士は視線を動かしてなどいなかった。

 相も変らずこちらをじっと見つめていた。

 ばれている……?


「おい。もう一人いるだろ……早く出てこい」


 どうやら、俺のこともばれているようだ。

 本当は心臓バクバクだが、俺はなるべく平静を装い、木陰から身を出した。


「ははっ。ばれちまったのなら、仕方ねえ……」


 とりあえず、それっぽいセリフを吐いて牽制する!

 おそらくシフォンという名前の少女が俺の方を見て、驚きの声を上げる。


「なっ! あなた、クロツキ様のストーカーですか! そうですか!」

「ち、ちげーわ!」


 何が楽しくて、男のケツなど追いかけにゃならんのだ。

 あらぬ誤解をかけられて、俺はテンパった。

 と、そんな俺とは対照的に絶縁の騎士―――クロツキは落ち着いた様子でこちらを一瞥する。


「そうか……お前が黒山ハヤトか」


 どうやら、顔は割れているらしい……。

 今度は少女が同様する。


「ええっ! あなたが黒山ハヤトなのですか!?」


 俺の名前を知っているのか……。

 まあ、同じパーティのクロツキと対戦する相手だしな。知っていて当然なのかもしれない。


「そうだ! 俺が黒魔術士・黒山ハヤトだっ!」


 高らかに名乗りをあげる!


「マジですか!? あの問題児だらけのパーティのエロ魔術士・黒山ハヤト!?」


 おい! 誰だ!? それ広めた奴!

 少女は明らかにこちらに軽蔑の目を向けて遠ざかる。


「……汚らわしいです。どうか近寄らないでくださいです……」


 本当に嫌そうだ……。


「ああっ! シフォンは可愛いですからね! 今にもムラムラが止まらず、襲いかかろうとしてるですね! クロツキ様! 助けてくださいです!」


 シフォンはそう言って、クロツキにさらに擦り寄る。

 こいつ……!


 だが、クロツキの方はというとシフォンの方には一切気をかけず、俺の方をじっと見つめている。

 だが、彼の目線に熱―――感情というものが一切感じられない

 およそこの世のものとは思えない虚空を仰ぐような真っ黒な瞳をしている。


「黒山ハヤト……お前は何者だ?」

「……」


 うん?

 どういう意味だろうか?

 ……何て答えればいいのだろうか?

 

 これは中々難しい問いである。俺は既に名前を名乗っている。

 それなのに何者か問われても困る……。

 これ以上何を述べたらいいのだ?

 学校で人が困る質問をしてはいけないことを習わなかったのだろうか?


 ……好きな食べ物とかかな?

 仕方ないので、名乗り直してやるか!


「俺は黒山ハヤト! 好きな食べ物はラーメン! 好きな色は黒! 以上だ!」

「……」


 あれ? 返事がない。ただの屍なのだろうか?

 

 クロツキが答えない代わりにシフォンが答えた。


「あなた、とんでもないバカですね……。今まで、クロツキ様にたずねられて、そんな答えをしたのはあなただけですよ……」

「ええっ! じゃあ、なんて答えれば良かったんだよ! 意味分かんねえよ! ふざけんな!」

「志とか騎士道とかそういうものがあなたにはないのですか?」

「……」


 特にないなあ……。

 というか、なんで初対面の奴にそんなことを答えなくてはならないのだ……。

 理解に苦しむ。

 というか、そんな質問を当たり前のようにしてくるこいつは恥ずかしくないのか!?

 俺が不満げにしていると、クロツキは無表情を崩さず、歩き出した。


「お前のことは大体分かった。じゃあな」

「なっ!」


 一体、俺の何が分かったというのだろうか?

 疑問を感じずにはいられない俺からクロツキはどんどん離れていく。

 が、シフォンが近づいてきた。


「ははっ! あなたなんて楽勝で倒せるということですよっ! そういうことですっ!」


 ……なんて、生意気なガキなのだ!


「おい! そんなの分かんねえだろ!」


 たまらず、俺は反論した。が、シフォンは生意気そうな顔で更に突っかかってくる。


「分かりますです! クロツキ様は未だ無敗なのです! まず、凄いのが研ぎ澄まされた剣戟です! クロツキ様の剣の前では皆アリさんですっ!」


 ノリノリなシフォン。クロツキはというと、既に宿舎の扉の前に行ってしまった。

 なんか可哀想な子だな……。


「次に明晰な頭脳です! 今まで、クロツキ様を頭脳で出し抜いた者はいませんです! クロツキ様の前では全ての策が愚策です!」


 両手を広げ熱狂するシフォンちゃんに対して、クロツキ様は既に宿舎にお入りになられている。

 この子は気づいていないのだろうか……。

 それともこれが日常なのか?


「更に更に凄いのはスキルです! ありとあらゆる属性・系統の魔法使いこなすです! そしてそして、これがクロツキ様が『絶縁の騎士』と呼ばれる由縁ですです! クロツキ様固有スキル『絶縁世界オール・リフレクション』! ありとあらゆる魔法を反射するですよ! あなたみたいな魔術士風情が敵う相手ではないです!」


 人の能力をさも自分の手柄のように解説してくれたシフォンちゃん!


「どうですか! 分かったでしょう! あなたには敵いません!」

「シフォンちゃん! ありがとう! クロツキの情報を漏らしてくれて!」


 俺はお礼を言った。

 彼の固有魔まで教えてくれるとは、偵察に来たかいがあったぜ!

 

 俺にお礼を言われて、シフォンちゃんは自分のしでかしたことの重大さに気づいたらしい。

 頭を抱えて、銀色の髪をゆさゆさを振るい始めた。


「はわわっ! しまったのです! シフォン、とんでもないことをしてしまいましたです! あわわわっ!」

「ふふっ。ざまあみろっ! 大人をなめるから、こういうことになるんだよっ!」


 おそらく、小学生くらいの年齢だろうと考えられるシフォンちゃんに俺は本気で勝ち誇った。


「ううっ! クロツキ様ぁーーーーっ!」


 彼女はそう叫ぶと、宿舎の方へと走り去って行った。

 ありがとう! シフォンちゃん! 君のことは忘れないよ!


 俺は頭の悪いシフォンちゃんに向かって敬礼したのだった。





「あっ! ハヤト! 何してるの?」


 突然、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 振り向くと、そこにいたのはアリサだった。


「お前、何やってんだ……こんなところで」


 たずねると、アリサはキョトンとした顔で答えた。


「何って、走ってくるって言ったじゃん!」


 はにかむアリサを見て、俺は思い出した。

 そういえば、こいつなんか鍛えてくるとか言って部屋をでて行ったな。

 ……って、こいついつまで走ってんだよ。

 と、思ったが最早ツッコんでも変わらないので、諦めた。


「ふう。汗びしょびしょ」


 そう言うと、アリサはショットパンツの裾を手で思いっきり絞った。

 すると、まるで水道の蛇口を捻ったくらいの勢いで水がでてきた。

 どんだけ汗かいてんだよ……というか、そんなになる前に切り上げろよ。


「早く、風呂入ってこいよ……」

「うん! ありがとう! そうするね!」


 そう言うと、アリサは大浴場に向かって歩き出した。

 相変わらず、修行したり、戦闘することが大好きだな……。

 バーサーカーは皆、そうなのだろうか……?


 そんなことを考えていた俺は途轍もなく天才的な名案を閃いた。


「おい。アリサ。ちょっと待て」

「んっ? どうしたの? ハヤト」


 アリサが振り向く。

 俺はアリサにある提案をすることにした。


「なあ、アリサ。凄く強い奴と戦いたくないか?」


 その言葉を聞いた瞬間、アリサの目がキラキラを輝いた。


「誰っ!? 誰っ!?」


 俺の襟元を掴んでくる。

 興奮しているからか、かなり力がっ……!


「ちょっ! 痛い! 痛い! 殺す気か!?」


 何とか喉から声を出す。。


「あっ! ごめん!」


 そう言って、アリサは手を離した。


「……ハアハア」


 死ぬかと思った……。

 なんつー力で人の首を締めるのだ。こいつは。

 だが、確信した。こいつなら、クロツキを倒せる!


 そう俺の思いついた案とは、俺の代わりにアリサに模擬戦に出てもらうことだ。

 勿論、このことは今はアリサにしか言うつもりはない。

 そんなことが期待のされ方からして許されるとは到底思えない。

 それに闘技場が使われることになっている以上、簡単に選手交代できるとも思えない。

 だから、当日になって仮病を使うのだ……そうして、アリサに代わりに戦ってもらう!

 

 自然な流れで俺は戦わずにすむ!

 そして、おそらく、俺が戦うよりも勝算はあるだろう。

 どうやら、シフォンちゃんの話が本当ならクロツキに魔法は無効らしい。

 そんなの魔法くらいしか攻撃の手段を持たない俺には不可能ではないか。

 というか、俺でなくても魔法主体の奴らはほとんど勝てない。


 だからこそのアリサである。

 幸いなことにアリサは一切の魔法を使わない。

 根っからの物理系肉体派っ!

 クロツキの剣戟がどれほどのものかは知らないがアリサに敵うとは思えない。

 そして、アリサは一切の策を練らない。

 だから、策に溺れることもないっ!


 完璧ではないかっ!

 自身の企てた完璧な作戦に惚れ惚れした。


「ねえ、ハヤト! それで! それで誰と戦うのっ!?」


 目を爛々とさせるアリサ。

 俺はニヤリと笑った。

 ふふっ。勝ったな。


「いいか? よく聞けよ……」


 アリサには二つのことを伝えた。

 というか、あまり沢山のことを伝えても、こいつが実行できるとは思わなかったからな。


 一つ目に、この作戦は絶対に誰にも言わないこと。

 ばれたら、アリサの強い奴と戦いたいという願いは叶えられなくなる。

 と、言い聞かせたので、おそらく大丈夫だろう……大丈夫だよな?

 若干、不安だったがアリサを信じることにした……。


 二つ目に、試合の日付と俺がその時、仮病を使ってアリサに代わりを頼むからということを伝えた。流石にアリサにも準備が必要だろう。


 と、この二つなので、アリサはほとんどすることはない。

 当日まで準備をするだけである。

 俺も当日仮病を使うだけだ。何なら、最悪自分の体にデバフ魔法をぶち込めばいいだけである。


 なんか、拍子抜けするくらい簡単だな……何も問題がなさすぎて不安になるレベルだ。

 

 全ての不安が解消され、今夜からぐっすり眠れそうだ!

 模擬戦まであと一週間! 頑張れ、アリサ!





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