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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第一章 ポンコツパーティはじめました!
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第3話 引きこもりには向かない職業

「―――ここがギルドか!」


 賢者さんに連れられて、草原から徒歩1時間ほどようやくギルドに着いた。

 外見はドーム状、入口は大きな穴になっており、扉はない。

 解放的に開かれており、誰でも簡単に入れる感じだ。

 まあ、冒険者が大勢いるこの中でわざわざ犯罪に手を染める不逞の輩は早々いないだろう。


「さあ、入ろう!」


 俺は賢者さんに手をひかれて、中に入った。





「おぉ!」


 中に入ると、街で見た奇妙な格好の連中が集まっていた。

 三角帽子に、杖、レイピア、賢者さんと同じような修道服、革や金属でできた鎧に剣。

 何でもござれだ。俺は素直に感動した。

 夢にまで見たゲーム世界がここにある。

 胸が高鳴る。


「うんうん! 分かるよ! 私も初めてギルドに来た時、感動したからね!」


 おそらく、賢者さんの感動と俺の感動は同質のものだろう。

 若干違う気もするが、本質は同じものである。

 胸の内を占めるワクワクは、これまでの人生の中で初めてなくらい膨らんでいた。


「とりあえず、受け付けに行こうか! 冒険者として登録しよっ!」

「はい!」


 俺は元気良く返事をした。

 ここから、始まるのか……俺の異世界冒険者人生が!

 感慨にふけりながら、俺はカウンターの前へ行く。


「こんにちは! ご用件は何でしょうか?」

 

 受け付けのお姉さんが挨拶する。

 俺もそれに合わせて、軽く会釈した。


「冒険者として登録したいんですけど……」

「はい! かしこまりまし! 冒険者ギルドへの加入ですね? 職業鑑定はお済みですか?」

「いえ、まだです」


 俺がそう言うと、受付嬢は机の下から水晶を取り出した。


「これに手をかざしてください! 職業の適正が出ます!」


 職業鑑定か……。ゲームだとよくあるやつだ。

 どの職業に適正が出るのか。

 不安もあったが、正直、ワクワクする気持ちのほうが大きかった。

 期待というわけではない。

 例えるなら、宝くじを買う感覚に近い。

 まだ見ぬ未来へ夢が膨らむという感じだ。


「―――ええい、ままよ!」


 俺は勢いのままに、水晶に手をかざした。

 緊張からか、目をつぶってしまった。

 結果を見ようと、うっすらと目を少しずつ開く。





 青色に光輝いていた水晶はその影もなく―――いや、影だけを残し、真っ黒に染まっていた。


「何だ? これは?」


 俺が理解できずに固まっていると、賢者さんが俺の腕を掴み、飛び跳ねた。


「すごいよ! 黒魔術士だよ! 黒魔術士の適正が出てるよ!」

「黒魔術士?」


 俺が賢者さんの言葉を反芻すると、受け付けのお姉さんが答えた。


「『黒魔術士』は『魔法使い』から派生する上位職の一つです! 妨害魔法であるデバフ魔法や状態異常魔法、罠魔法も使える万能職ですよ! レベルの高い方だと高火力の攻撃魔法までお使いになります! おそらく、どのパーティからも引っ張りだこだと思いますよ!」

「……ま、マジっすか」


 おいおいおい! マジか! 

 こんなことってあるんだな!

 この俺が引っ張りだこかよ! 生きてて良かった!

 多分、天使様から授かった祝福のおかげとしか考えられないけど……この際それでもいいや!

 今はこの幸せをきちんと嚙みしめよう!


「すごいよ! いきなり、上級職だなんて! ハヤトくん、どこかで訓練でもしてたの!?」


 賢者さんが俺の腕をブンブン振る。

 賢者さんが騒いだせいか、ちょっとした人だかりが俺の周囲にできていた。


「ほう、黒魔術士か? 貴様、できるな?」

「こいつ、何者だ……!?」

「おいおいおい! マジかよ!? パねえな!」

「あんた、本当なんなんだ!?」


 周囲の人々の言葉を聞き、俺は有頂天になった。


「いえいえ、大したことないですよ!」


 本当に大したことないんだけどな!

 謙遜しているようで、一切していない。というか、するつもりはない。

 こんなこと、今までの人生でなかったしな!

 ちょっとくらい調子に乗っても、罰は当たらんだろ!


「おい。賢者、そんなにはしゃいでどうしたんだ?」


 俺が人生における瞬間風速最高レベルの風を感じていると、後ろから誰かの声が聞こえた。

 周りが静かになる。

 振り向くと、そこにはツワモノ感溢れる男、二人が立っていた。

 一人は長身の細マッチョとでもいうべきか、筋肉は膨らんでいないのに、傍目でムキムキであることが分かるほどの切れ長の目をした青髪の男。

 もう一人は金髪の優男だったが、瞳の中に俺さえも分かるような一本通った芯のようなものを感じさせた。格好は剣に真っ赤なマントであい、見るからの勇者だった。


「二人共、聞いてよ!! この子、凄いんだよ! いきなり職業鑑定受けて、黒魔術士になったんだよ!」


 賢者さんは顔を真っ赤にして興奮している。

 そんなに喜ばれると、こっちが恥ずかしくなってしまう。

 気持ちいいけどね!


 すると、青髪の男が俺の方を見る。


「そりゃ、凄えな」


 素直に感心してくれているようだ。

 金髪の男は俺の瞳をじっと見つめてきた。

 思わず、目を逸らしそうになったが、逸らす前に金髪の男が先に口を開いた。


「申し遅れて、ごめんね。僕たちはそこにいる賢者と同じパーティのものなんだ。どうやら、賢者が世話になったよだね。礼を言わせてもらうよ。ありがとう!」

「いえ、むしろお世話になったのはこっちというか……」


 というか、賢者さんの世話に一方的になっていただけだ。

 賢者さんの方を見ると、金髪の男の話を聞き、うんうんと頷いている。

 まあ。本人がいいなら、いいか……。


「それで、本題に入りたいと思うんだけど……僕たちのパーティは今、デバフ魔法を使える人を募集してるんだ。僕は勇者で、隣にいるのがバトルマスターで、賢者の三人パーティなんだけど、恥かしながら妨害魔法が使える人が居なくてね。これも何かの縁だと思うし、もし良かったら―――」


 勇者は手を差し伸べる。


「―――僕たちのパーティに入らないかい?」


 俺は差し出された手を握る。


「これから、よろしくお願いします!」


 その瞬間、ギルドに歓声が上がった。


_______________________________



 あれから、一か月が経過した。

 俺もさすがにギルドへ行くことにワクワクしなくはなっていた。

 というか、別の感情が俺の心の中を占めている。


 ギルドに忍び寄るように入る。

 が、逆にそれが目立ったのかもしれない。

 周囲の目線が刺さる。


「ねえ、見て。あいつ、今日も来てるよ……」

「本当だ……。よく来れるよね……」


 若い二人の女性がこちらを見て、囁きあっている。

 というか、聞こえてますよー。

 ああ、聞こえるように言ってんのか! 納得!


 俺のギルドでの立ち位置というのは現在―――最強パーティの金魚の糞とでもいうべきか……。

 あそこから、まさか、ここまで転落するとは思わなかった。

 俺は天使様から授かった祝福を満遍なく活かして、パーティの足を引っ張っていた。

 まず、一つ目の問題点として俺のデバフ魔法は非常に燃費が悪かった。

 調子が良くて、一日3発が限界という体たらく。

 いや、俺のMPが少なすぎるだけかもしれないが……。


 何とか役に立とうと、他の魔法を覚えようとしたが、まるで駄目だった。

 毎日、どれだけ訓練しても、誰かにコツを聞いても、全然上達しないのだ。

 どうやら、俺に魔法の才能はないようだ。


 そんな俺は雑魚モンスターの群れなどの多数討伐においては一切役に立たない。

 なので、そういう時、俺は陰に隠れて荷物番をしていた。

 必要な時のみ、呼ばれて戦闘に参加するという感じだ。


 そこで役に立っていれば、まだ俺の立場というものも残っていたのだが……。

 そこでも、失敗続きだった。

 唱える呪文を間違えたり、前衛で戦っているバトルマスターに魔法を当ててしまったり……思い返すと、色々やらかしたな。

 失敗してはならないと思えば思うほど、体が固くなり、より失敗を重ねてしまった。

 悪い噂とは、すぐに広まるもので、たまたま俺のお荷物っぷりを見た他のパーティ奴らによってギルド中に俺の無能伝説が伝わっているらしい。


 そこまで、やらかしていながら、俺はパーティを抜けることができなかった。

 理由は簡単だった―――賢者さんに恋してしまっていたからだ。

 賢者さんは優しかった。俺がどんな失敗をしても笑顔で慰めてくれ、ちょっと成功するだけで全力で褒めてくれた。

 そんな彼女に少しでも、ほんの少しでも恩返してからでもパーティを抜けるのは遅くないんじゃないか? そう思っていると、ズルズル抜けられなくなってしまった。


 俺のせいか、パーティの雰囲気は最悪である。

 いたたまれない俺は休憩時間は寝て過ごすという中高時代と大差ないことをしていた。

 結局、異世界に来てもダメな奴はダメな奴のままなのだ。

 

 俺の心はボロボロだった。

 今日もギルドに行きたくなかった、サボってしまおうかとギリギリまで悩んだ。

 だが、賢者さんの顔が頭に浮かび、結局来てしまったのだ。


「―――なんてこと言うんだ!」


 ギルドで怒声に怒声が響いた。


「だから、言ってんだろ! あいつは俺達のパーティについていけるレベルじゃねえって!」


 その声が聞こえたのは、俺の待ち合わせ指定された場所である。

 ギルドの巨大な柱の前だった。


 争っているのは、やはり―――俺のパーティの勇者とバトルマスターだった。

 思わず、陰に隠れてしまった。

 耳を澄まさずとも、二人の声は聞こえてくる。

 どうやら、俺のことで言い争っているようだ。

 様子を見ると、賢者さんが二人の間に入って何とか喧嘩を止めようとしていた。


「いい加減にするんだ! 失敗は誰にでもあるだろ!」

「何回、あいつがやらかしてると思ってんだ! 俺はあいつのせいで死にかけたんだぞ! てめえは死にかけたことがないから、そんなこと言えるんだ!」


 バトルマスターが勇者の胸倉を掴む―――



 ―――その時だった。


「二人共、やめてよお! 私、こんなのやだよお! ここまで、頑張ってきたのに……!」

 賢者さんの目からはここから見ても、分かるほどの大粒の涙がこぼれていた。

「……す、すまん」


 バトルマスターは決まり悪そうに手を離す。


「いや、僕も悪かった。言い過ぎたよ……」


 勇者も決まり悪そうだった。


 ―――俺はなにやってんだよ!

 心の中で自分自身に対する憎悪が爆発する。

 そして、少したって、穏やかな気持ちになった。


 もう、いいや。

 これが正しい選択という答えを見つけたのだ。


 俺は三人のところへ、さも今、来たように向かう。

 そして、頭を下げた。

「一か月、お世話になりました! ちょっと、自分には力不足だったみたいなので、このパーティを抜けさせてください! 本当にありがとうございました! じゃっ、俺は失礼します!」


 早口で言い終わると、俺はもと来た道を戻った。

 後ろを振り返ることはできなかった。

 が、気持ちは凄い楽だった。

 なんだ、最初からこうすりゃ良かった。


_______________________________



 こうして、俺は異世界でも引きこもりになったのだった。

 働かなくても、金には余裕があった。

 金魚の糞とは言え、最強パーティで高難易度のクエストについて行ったことによる報酬金プラス天使様から頂いた金。

 これだけあれば、しばらく遊んで暮らせる。

 起きると、枕が濡れている時もあるが、前向きに生きていくぜ!



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