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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第二章 異郷の地に行く……!
34/43

第8話 シュガーは砂糖の味がする

投稿遅れた分、若干長めです。

「あー、腹減ったなぁ」


 俺は思わず呟いた。


 今は昼の休憩時間だ。

 どのパーティも食事をとっている。

 だが、俺達のパーティは食事をとれていない。

 それはなぜか?

 

 有料だったからだ……。

 確かにギルドでこの育成会の説明を受けたときに、食事は用意されていると言われた。

 だが、別に無料とは言われていなかったのだ。

 豪華な食事が高値で用意されていた。

 

 当然、他のパーティの奴らは買える。

 当たり前だ。彼らはギルドの期待の新人。

 それなりに難易度の高いクエスト受けてきた連中ばかりなのだから。


 だが、俺達は荷物もほとんどない貧乏パーテイ。

 そんな用意された高値の食事なんて買えるはずないのだ。


「おい、見ろよ。あいつら! 食事すらまともに食えてないみたいだぜ! 本当にギルドの代表かあ? 何か間違えて来ちゃったんじゃねえか?」


 突然どこからかそんな声がすると同時に、周囲の連中がこちらを見て笑っているのが聞こえる。


「うぅ……」


 ルナが下を向く。


「やめろ。そんな悲しい声を出すな……。心までひもじくなる」


 俺がそんなことをエリに言った瞬間だった。

 エリが立ち上がった。


「待て! お前、どこ行くつもりだ?」


 俺はエリの手を掴んだ。


「復讐だよ! 復讐!」


 そう言ったエリの手には明らかにヤバイ色のキノコが握られていた。


「おい! お前、まさか……」

「大丈夫だ。ちょっとばかし腹をこわすだけだ。こいつをちょっと料理に混ぜて……へへっ。私達をバカにしたこと、今に後悔させてやる。ふふっ」

「やめろ! バカ! 復讐は何も生まないぞ!」


 なぜ自ら問題を起こそうとするのか……。

 やめてほしい。

 そろそろ平穏な日々が送りたい。

 切に俺は願っていた。


「ただいまー! ……って何してんの?」


 アリサが帰ってきた。

 俺とエリがキノコを巡って取っ組み合いをしていた。

 アリサが帰ってきて、恥ずかしくなったのかエリがキノコを引っ込めた。


「何でもない……。それで今日も貰えたか?」

「うん! 今日もあるって」


 そう言うと、アリサが手に持っていた布を広げた。

 広がった布の上にはこげて売り物にならないパンが乗っていた。


「おお!」

「さすがアリサさん!」

「ナイスプレーだ! アリサ! お前は今日のMVPだ!」


 みんなでアリサとハイタッチする。


 こげたパン。

 それが俺達の今の食事だ。

 アリサがエンジェルローザに来た初日、子供達に芸を披露していた。

 その時の子供達の中にパン屋の子供がいたのだ。

 アリサはあの後も芸を披露しに行っていたらしい。

 そして知らない間にパン屋の主人とも仲良くなっていた。

 俺達はそのパン屋から売り物にならない焦げたパンを分けてもらっているというわけである。

 

 最初からおこぼれを頂戴していたわけではない。

 最初は買っていたのだ。

 少ない所持金を切り崩して、一つのパンを分け合っていた。

 だが、途中から所持金がほとんど底を尽いてしまった。

 この育成会の報酬金は終了後、一括払いだ。

 よって、金は減っていくばかりなのだ。


 というわけでそんな俺達の救世主、それがこげたパンなのだ。


 もらったパンをちぎり、4人分に分配する。

 一人ずつに手渡していく。


「ねえ、ハヤト。僕のだけ小さくない?」


 ルナが文句言ってきた。

 そんなつもりはなかったのだが……。

 というか、俺の目には同じサイズにしか見えない。


「同じだろ……」

「いや、持った感じ僕のだけ10グラムくらい軽い気がする」


 ……。

 抵抗するのも面倒なので、少し俺の分から分けることにした。


「ほら、じゃあ俺のからその10グラム分とれよ」


 ルナにパンを手渡そうとする。


「なあ、ハヤト。私も10グラム分足りない気がするから、もらっていいか?」


 ……。

 エリが便乗してきた。


「うるせーよ!! お前ら! だったら、俺は100グラム分足りない気がするからその分、お前らから貰うからなああ!」


 さすがの俺もぶち切れた。


「ああっ! やれるもんなら、やってみろ! このエロ魔術士!」

「言ったな! お前、言ったなあ! やれるものなら、やってみろって! 取られても文句言うんじゃねえぞ! 絶対に返さねえから!」

「ねえ、ハヤト。そんなことより僕に早く足りない分渡して欲しいんだけど……」


 こうなったらこいつの分までパンを食ってやる。

 俺が決意して臨戦態勢に入った。

 どうやらエリとルナも覚悟を決めたようだ。

 なんか、よく分からんファイティングポーズをとっている。


「てめら、この後悔させてやる……」

「はっ! お前の方が泣いて助けを乞うんじゃねぞ」

「ねえ、そんなことどうでもいいから僕のパン、早く補填してよ!」


 こうして、俺達の焦げたパンを巡った戦いが幕を開け……なかった。


 アリサの、

「ねえ、三人とも喧嘩するならもう、私、パン貰ってこないよ」

 の一声で沈静化した。


「「「はい。すみませんでした。仲良くします」」」


 パンを貰ってきて貰えなかったら元も子もない。

 というか、一番年下のアリサに喧嘩を止められる俺達って何なんだろう……。





「ねえ、ちょっと待って。アリサ、何食べてるの?」


 ルナが声をあげた。

 アリサの方を見ると、明らかにヤバい色のキノコをほふっていた。


「おい! マジで何食ってんだ! 早く吐き出せ!」


 エリがアリサの背中をバンバン叩く。


「明らかに食べたらダメな奴だろ! それ!」


 俺もアリサが吐き出すように背中を叩いた。


「ごほっ。ごほっ!」


 急に叩かれたからかアリサはビックリしてむせて吐き出した。

 紫色で斑点模様のあるいかにもな毒キノコだった。


「マジで何食ってんだ! バカ!」


 エリが叫ぶ。


「ホントだよ! マジのバカなの? お前」

「僕が気づいたから良かったものの……」


 俺達が心配するのをよそにアリサはケロッとした顔をしている。


「どうしたの? みんな。そんなにキノコ食べたかったの? 確かに私だけ食べてたら不公平だよね! 分かった! みんなにも分けてあげる」


 そう言ったアリサはポケットから色とりどりのキノコ出した。

 どれもヤバい色だった。

 明らかに食べたらダメなやつだった……。


「こんなの食えるか!」


 エリが机にあったキノコを見て言った。

 俺とルナもうんうんと頷く。


「えー! どうして!? どれもおいしいのに?」

「「「は?」」」


 俺達三人は同時に唖然とした。


「おい、冗談だよな……。まさかこれ全部食ったことあるとか、そんなことないよな……」


 全く、冗談の好きなバーサーカーには困ったものだなあ……。


「あるわけねーだろ! ハヤトさん。そんなことあるわけねーだろ! ……ねーよな?」

「はっはっは! アリサは冗談が上手いね! うんうん。……冗談だよね?」


 そんな俺達の否定を願った質問にアリサは元気良く答えてくれた。


「えっ、食べたよ! だって、おいしいし!」

「うん! そうだよな! 食うはずないよなって……えっ?」


 アリサを除く俺達三人は顔を見合わせた。

 お互いに血の気が引くのが分かった。


「早く吐け! おい! 全部、早く吐け!」

「どど、どうしよう!? お医者さん呼んでくる!?」

「ま、待て! ある程度の毒なら私の回復魔法でどうにかなる!」


 俺達のパニックをぼーっと眺めていたアリサが言った。


「無理だよ! 吐き出すのは! だって、ずっと前から毎日食べてるし……」

「は?」


 どういうことだ?

 何で毎日食べて平気なんだ?

 何でこいつ生きてるんだろう?

 もしかして、偶然、毒キノコじゃなかったとか。


「そうか、良かった! 毒キノコじゃなかったのか!」


 どうやら、エリも俺と同じこと考えていたようだ。

 アリサが笑った。


「ふふっ。もしかして、みんな毒キノコだと思ったの? そんなわけないじゃん! 私がそんな危険なもの食べるわけないよ!」

「だ、だよなー」


 どうやら、毒キノコではなかったようだ。

 俺達の取り越し苦労だったようだ。


「アリサ。今回は大丈夫だったけど、今度からキノコ食べる時は僕にちゃんと見せてね。じゃないと、凄い心配だから……」


 ルナが言う。

 俺とエリもうんうんと頷いた。

 もしこのキノコ達が毒キノコだったら、一発あの世行きだ。

 そういうレベルのヤバそうな色をしている。


「うん! 分かった! 確かに私一人だけキノコ食べてるのはズルいもんね!」


 そういうことではないのだが……。

 まあ、いいか。

 このバカにこれ以上の理解を求めても疲れるだけだ。


 しかし、本当に間一髪だった。

 確か、魔物の直接攻撃以外は蘇生できなかったはずだ。

 下手したら、死んでいたはずだ……。

 ……アリサが死ななくて良かった。


「一件落着したところで、これ食っていいか? 毒がないと分かったら、なんかうまそうに見えてきた」


 そう言って、エリがアリサの出したキノコの一つを取った。

 確かに毒がないと分かると、美味しそうに見えないこともない。

 元より空腹なので基本的に大抵のものは美味しそうに見えるのだが。


「なあ、俺も貰っていいか?」


 俺も取ろうとする。

 すると、ルナが恐る恐るたずねた。


「ねえ、これ本当に大丈夫なんだよね? なんかさっきエリが持ってたキノコと同じのが混ざってるんだけど……」


 そう言ったルナの指差しているキノコを見ると、さっきエリが復讐に他のパーティの料理に混ぜようとしていた毒キノコも混ざっていた。


「ほ、ほんとだ! これ、アッケルキノコじゃねえか! 私も持ってるから分かる! もろ毒キノコじゃねえか! あぶねー。気づいて良かった……。おい! アリサ、なんてもん混ぜてんだ!」


 エリがそのアッケルキノコとやらを手に持ってアリサに言う。

 だが、アリサは笑顔を崩さず言う。


「えー。それと同じやつ食べたけど全然大丈夫だったよ!」

「噓つくなよ! アリサ。食ったことないだろ! これ食ったら、一週間は腹壊してトイレから出れなくなるんだぞ! お前、そんなこと全然なかったじゃねえか! 私、悲しいよ……。ハヤトならまだしも、アリサが噓つくなんて……」

「おい、ちょっと待て。なんでさりげなく俺のことディスってんの? ていうか、お前にだけは嘘つき呼ばわりされたくない」


 という俺の訴えは無視され、アリサがエリに反論する。


「う、噓じゃないよ! 私、そのキノコの味だって覚えてるし!」

「もう、やめてくれ……。それ以上をお前が噓をつく姿なんてみたくない……。正直に白状してくれ。大丈夫、誰も怒ったりしないから。間違えや失敗は誰にでもある。だけどな、一番いけないのはそれを噓でごまかすことなんだよ」


 言ってることは、至極正しいのだが……一体全体どの口が言うのだろう?

 こいつ、いつも噓でごまかしてなかったっけ?


 だが、アリサは抵抗を続ける。


「本当なんだってばー! それはなんかお砂糖みたいな味がしたよ!」


 ついに噓で噓を重ねるようになってしまったか……。

 最初に会ったときは噓なんてつくような子じゃなかったのに。

 俺の教育が悪かったのだろうか?

 大嘘つきのエリの影響だろうか?

 分からない。

 だが、一つだけ明らかなことがある。

 もう、純真無垢なアリサはいないということだ。

 俺が悲しくなって、アリサの方を見た。


「ちょっとなんで! そんな目で見るの! 本当なんだってばー! ハヤトもルナもそんな目で見ないで!」


 アリサが怒って反論してきた。

 その時だった。エリが困ったように言った。


「……本当だ。アリサの言っていることは本当だ。確かにアッケルキノコは砂糖の味がする」

「は?」


 俺は困惑した。


「でも、こいつ食ったとしたら、腹痛になるんじゃないか? アリサが腹痛で苦しんでるのなんて見たことないぞ」

「ああ、そこが謎なんだ。本当に食べてたら、見るからの腹痛で私達にも分かるはずだ」


 アリサの方を俺達三人は見る。

 記憶をさかのぼってみても、アリサが腹痛で苦しんでいた姿は思い出せない。


「あー、腹痛ならなったよ! でも、その後、すぐに違うキノコ食べたら治ったんだ!」


 アリサが答えた。


「へ? どういうこと?」


 俺がたずねると、アリサは笑顔のまま答えた。


「あのね! お腹が痛くなったのはお腹が減ったからかなと思って、他のキノコを食べたんだ!」


 お腹が減るのはお腹が痛いということだったのか。

 知らなかったよ! アリサ、教えてくれてありがとうな!

 キ〇ガイの発想のそれである……。


「それで他のキノコを食べたら、何か体が異常に熱くなって……それで、また他のキノコを食べたら今度は体が何か寒くなって……色々食べたら、なんか治ったの!」


 もしかしたら、目の前にいるバーサーカーはもう死んでいて、幽霊なのかもしれない……。

 そして、アリサは高らかに宣言した。


「だから、ここにあるキノコを食べても全然大丈夫!」

「なわけあるかーー!!」


 エリがキノコを放り投げた。


「ねえ、アリサ! 君はバカなの!? あほなの!?」


 ルナがアリサの胸元を掴んでブンブン揺らす。


「ああ、もう無理! 意味が分からん! 頭が痛い!」


 俺はもう考えることを放棄した。

 うちのバーサーカーは変なキノコの食べ過ぎでバカになってしまったのだろうか?

 ……いや、前からか。


「おい、なんでアリサが毒キノコを食べて平気だったのか、私なりに考えてみたんだが、聞きたいか?」


 しばらくしてエリが言った。


「どうしてなんだ?」


 俺がたずねる。

 ルナも興味津々というように、エリの方に顔を向ける。

 アリサは言うと、エリが放り投げたキノコを集めている。

 まだ食べる気なのだろうか?


「まあ、簡単に言うと、食べ合わせだな……」

「食べ合わせ?」


 俺は理解出来ず聞き直した。


「おそらく、色々な毒キノコを食べたからか毒が相殺されたんだと思う。色々考えたがそれくらいしか思いつかない……正直、これくらいしか納得のいく答えはでない。これでも結構私の理解を越えてるがな……」

「うん。もうそういうことでいいよ。考えるだけ無駄な気がするから……」


 あいつは、なんちゃって人間なので、仕方ないと思うことにした。

 きっと、人間ではない、別の何かなのだろう。

 まあ、アリサが元気に生きているのでとりあえず、よしとしよう。


「というわけでルナ、絶対にアリサの真似すんなよ。あいつは人間を超えた何かだから」

「真似しないよ! 僕だって、常識くらいあるよ!」


 ルナに釘をさす。

 正直、アリサだからできた芸当だろう。

 普通の人間がやったら、即死のはずだ。


_______________________________



「ああ! 騙された!」


 エリが走りながら叫んだ。

 午後の訓練はオオカミの討伐だった。

 山で規定数のオオカミを狩ったら、下山しても良いという訓練。

 最下位には相応の罰があるらしい。

 俺達は今のところ、午後の訓練の罰は皆勤だった。

 すなわち、毎回ビリなのだ。

 

「ホントだよ! ふざけんな!」


 俺も走りながら言った。


 俺達は他のパーティに騙されたのだ。

 共闘を持ち掛けられた、まんまと裏切られたのだ。

 囮になってオオカミをおびき寄せるから、オオカミのいる山頂部より少し低い草原で待機していてくれ、と頼まれた俺達は素直に待っていたのだ。

 森の中より草原のほうが倒しやすいだろうから、と言われ。

 おびき寄せた後は共に倒すことになっており、自ら囮になってくれる心の広さに感謝したのだが……。

 長い間、待たされた挙句、その裏切りパーティは戻ってきたときにオオカミを狩り終わった報告をされた。

 俺達のことを忘れていた、と言われたが、絶対嘘だ。

 ニヤニヤしてたし。

 さぞ、精神的に楽だっただろう。

 自分たちが戻らない限り、オオカミを狩らないパーティがいるのだから。

 ビリになることは絶対にないのだから。


「ねえ! 私、先に行って狩ってようか?」


 アリサが言う。


「ああ! 頼む!」


 俺の返事を聞くと、アリサが凄い勢いで走り出した。

 アリサなら一人でもオオカミくらいなら大丈夫だろう。


「ヤバそうだったら、逃げてね!」


 ルナが小さくなっていくアリサの後ろ姿に向かって叫んだ。


 その時だった。


「……おい。助けてくれ」


 足元から声が聞こえた。

 草むらで倒れているパーティを見つけた。

 四人全員、ボロボロだった。


「どうしたんだ!? 大丈夫か?」


 俺はそいつらの近くに駆け寄った。

 エリとルナも近づく。


「何だこの状態異常の数は……」


 エリが近づくなり言った。


「ああ、お前、ヒーラー系の職種か……。助けてくれ。何とか逃げ出したんだが、結局、俺以外全員、意識を失っていて……かく言う俺も麻痺で……ぐはっ」


 大分、苦しんでいる。


「エリ! こいつらを回復してやってくれ!」


 俺はエリの方を見て、言った。


「ああ、今やってる! つーか、マジで何なんだ、この状態異常異常を数は!? こいつだけでも、麻痺に毒に熱に侵されてやがる!」


 エリが回復魔法を使いながら言う。

 すると、男は言った。


「……オオカミの中に異常種が混ざってやがった。しかも状態異常持ちだ……」


 異常種の状態異常持ち。

 冒険者の天敵とも言える存在。

 本来、状態異常のスキルを持つ魔物は決まっており、そういったモンスターと遭遇する可能性があるときのみ対策を練れば良いのだが……。

 非常に稀だが、通常、状態異常のスキルを持たない魔物が持っていることがあるのだ。

 しかも、持っているスキルはランダムなので、一切対策が練れない。

 出会った冒険者は気づいたら、毒に侵されていたなんてこともあるらしい。

 まあ、幸いなことに異常種に出会う確率は冒険者人生で一回あるか、ないからしいが。

 まさか、こんなところで会うとは……。


「しかも……あいつら……近くによるだけで……状態異常を起こすタイプだ」


 倒れた男が言った。


「あいつら? 複数いるのか?」


 どうやら、もう喋る体力もないらしく俺の言葉に無言で頷いた。

 何か色々とやばいことになってきたな……。

 果たして、俺達は無事帰れるのだろうか?


 ここでとんでもないことに気づいた。


「ア、アリサ!」


 先に行かせてしまった。

 まずい。男の話によると近づくだけで、状態異常を起こすらしい。

 近接系の攻撃手段しかアリサは持っていない。


「とりあえず、ルナついてこい! アリサも探しに行くぞ! エリはここでこいつらを回復してやってくれ!」

「分かった!」

「了解!」


 待ってろ! アリサ! 今、助けに行ってやるからな!

 俺とルナはエリをその場に残して、駆け出した。


_______________________________



「おい! アリサー! 戻ってこい!」

「アリサ! 居たら、返事して!」


 俺とルナはとりあえず、アリサが行った方へ真っ直ぐ向かった。

 今のところ、全然姿は見当たらない。


「って、なんだこれ!?」


 突然、目の前に巨大な霧のようなものが現れた。


「もしかして、これって毒か?」


 紫色だし、毒にしか見えない……。

 明らかにヤバいやつだろう。

 そう言えば、近くによっただけで毒になるとか言ってたな。

 この粉はオオカミがまき散らしたんだろうか?

 異常種、やべえな……。


「って、もしかして、アリサこの中にいるんじゃ……」


 俺もルナも顔が青ざめた。


「おい! やべえぞ! どうすんだよ!」

「わかんないよ!」


 二人共パニックになった。





「あー! ハヤトとルナ!」


 俺達の心配もつゆ知らず、アリサが毒の霧から顔を出した。


「え?」


 霧から出てきた、アリサは両手で四人くらいの人を抱えていた。


「お前、何やってんの? オオカミは?」

「オオカミなら全部たおしたよー! だから、倒れてた人達を運んでたんだ!」

「は?」


 色々、理解できない。


「えっ? お前、明らかにヤバい色の霧に体を突っ込んでるけど、大丈夫なの?」

「えー! 全然、大丈夫だよ!」


 いや、絶対に大丈夫ではないだろう……。

 アリサが運んできた人達はさっき倒れていたパーティの人達と同じ顔色をしている。

 おそらく、毒に侵されているのだろう。

 なぜ、アリサは普通に立っているのだろう……。


 その俺の疑問に答えるように、ルナが叫んだ。


「そうか、分かったよ! アリサは変なキノコを食べまくったせいで、状態異常に対する耐性ができたんだ!」


 なるほど……分からん。

 話について行けそうにない。


「ようは免疫ができたってことか?」

「そういうことだろね。歴戦の戦士は毒の治療が必要ないくらいの免疫があるって話を聞いたことがあるし、多分、アリサも同じだよ!」


 正直、歴戦の戦士が戦いにおいて負った毒と、アリサがバカみたいに危険なキノコを食べたことを一緒にするのはどうかと思ったが、一応、理解はできた。

 歴戦の戦士は毒を人一倍浴びる。

 だから、次第に体に耐性ができる。

 それと同じようにアリサも毒を摂取しすぎて、耐性ができたんだろう。

 信じられないが……。


「いや、やっぱりおかしい!」


 俺は思わず叫んだ。


_______________________________ 



 その後、教官達が来た。

 どうやら、異常種が発生したという報告を誰かがしてくれたようだ。

 毒に侵された、冒険者達は運ばれて行った。


 死人は出なかったようだ。

 アリサのおかげらしい。死にかけていた冒険者は皆、アリサが救助したようだ。


「今回はアリサのお手柄だな!」

「ああ、よくやったよ!」

「まさか、毒キノコを食べて、耐性をつけるなんて! 普通の人間にはできねーよ!」


 俺達は自分達の部屋にいた。

 今回、俺達は初めて訓練で褒められた。

 異常種のオオカミを全て討伐、その上、人名救助までしたのだから。

 ……まあ、活躍したのはアリサだけで俺とルナに至っては何もしていないのだが。


「えへへへっ」


 ただでさえアホなのに、褒められて顔をヘラヘラさせているせいか余計アホに見える。

 今回のMVPだ。それくらい仕方ないだろう。

 俺達は久しぶりに罰を受けず、褒められたので気分が良かった。


「ははっ! お前、マジ最高だよ!」


 楽しく談笑していた。




 ドンドンドン

 突然、俺達の大部屋の廊下に繋げる扉が凄い勢いで叩かれた。

 誰かが感謝の言葉を述べに来たのだろか?

 まあ、それくらいされて当然か。

 よく考えると、山から帰ってきて、3時間くらいは経っている。

 毒に侵された奴らもそろそろ意識を取り戻しているはずだ。

 命を助けてもらったお礼を言いにきたのだろう。


「はいはーい」


 俺は笑顔で扉を開けた。


 なぜか例の鬼教官がいた。

 凄い形相だった。怒っているようだった。


「あの……なんでしょうか?」

「貴様らああ! こっちにこい!」


 そう叫ぶと、教官は部屋に入って俺達四人の首根っこを掴まれ、引きずられた。


 連れていかれた先は医務室だった。

 毒で倒れたやつらが運ばれた場所だ。


「おい! 貴様ら、これはどういうことだ?」


 教官の声に反応して、連れてこられた俺達を見た寝込んでいた奴らが一斉にこっちを見た。


「おい! ふざけんなよ!」


 いきなり石を投げられた。


「……えっ……ちょっ……どういうこと!?」


 状況が読めない。感謝されるならわかるが、キレられるのは意味が分からない。


「どういうことも何も、そのクソバーサーカーのせいで俺達は死にかけたんだろ! 舐めてんのか!!」

「へっ?」


 俺はアリサの方を見る。


「私、そんな酷いことしてないよ!」


 アリサが怒った。

 まあ、そりゃ当然だ。

 アリサが命を救ったのだ。

 罵倒されたら溜まったものではないだろう。


「ああ! なに言ってんだ! てめえがオオカミを何度もメイスで殴ったりしなかったら、あんな毒の粉は舞わなかったんだよ!」

「え?」


 どういうことだろう?


「俺達は異常種って気づいたから隠れて、遠くから攻撃してたのに、てめえがバンバン近接攻撃するから、俺達まで毒の粉に触れちまったんじゃねえか!」

「なのに、てめえはいくら吸っても全然倒れねーし! ふざけんな!」

「なにが人命救助だ! 自作自演じゃねえか!」


 石やら瓶やら色んなものを投げられた。


 うん。仕方ないわ。これは。

 だって、悪いの百パー俺達だし。

 その後、俺達四人は他の冒険者達からボコボコにされた。

 誰一人、抵抗しようとはしなかった。

 

 教官からもありえないくらい長時間説教され、山頂までうさぎ跳びさせられることになった。

 手と足を縄で結ばれて、山頂にある旗を取りに行けと言われた。


 ああ、絶望。


_______________________________



「あいつら、どうしましょうか?」


 ここは教官室。

 今、全教官が集められ、会議が行われている。

 あいつらとは現在うさぎ跳びさせられているパーティのことだ。


「いやあ、ハッキリ言ってとんでもない問題児ですよ。あいつら」

「本当ですなー。あそこまで、まともな奴が一人もいないパーティは珍しい」

「本来、全員、上位職でバランスもとれたパーティで、一番期待できるはずなのですが……」


 私は今日、エンジェルローザに到着したのだが、どうやらとんでもない問題児がいたらしい。

 

「……誰があのパーティを担当しますか?」


 今、話し合われているのは育成会の後半のことだ。

 最初は講義形式だが、途中からパーテイごとに一人担当をつけることになっている。

 徹底してパーティ全体を向上させるためだ。


「あの……私、やりましょうか?」


 私の隣にいた賢者さんが手を上げた。


「ダメだ。貴様、あいつらの知り合いなんだろ。どうせ甘やかすに決まってる」


 スキンヘッドの大男に否定された。

 賢者さんは渋々と言った感じで手をさげた。

 しかし、賢者さんが目をかけているパーティか……。

 どんなパーティなのだろう?

 私は隣にいた賢者さんに小声でたずねた。


「どういうパーティなんですか?」


 すると、賢者さんがクスッと笑って答えた。


「とっても面白いパーティだよ。黒魔術士の男の子がリーダーで「えっ! 黒魔術士がいるんですか!?」


 私は思わず賢者さんの声を遮ってしまった。


「す、すみません」


 私は謝った。


「ふふっ。そう言えば、あなたも黒魔術士だったね。どうやってみない?」


 私はこの育成会への参加は乗り気じゃなかったのだが、黒魔術士がいると聞いて、心が踊った。

 もしかしたら、あの方の手がかりが掴めるかもしれない。


 気づいたら、私は手を上げていた。


「私、やります!」


 周囲が驚いた顔をする。

 当然だ。誰もやりたがらないパーティに手をあげる人物がいたのだから。


「で、ですが、あなたには頼もうと思っていたパーティはもうあるんですよ! 申し分ないパーティです。今回の午後の訓練でも唯一オオカミを倒して普通にクリアした期待のできるパーテイですよ!」


 副会長が言う。

 困ったな……。


「任せてみたらどうですか? どうせ誰もやりたがらないのだし、少しでもやる気のある彼女に任せたほうが良いんじゃないですか。もしかしたら、彼らを厚生できるかもしれませんし……」


 そう言ったのは、さっき賢者さんを否定したスキンヘッドの大男だった。


「お願いします」

 私は頭を下げた。


 副会長はしばらく考えこんだ後、言った。


「……しょうがないですね。じゃあ、彼らをお願いします」


 やった!

 私は思わず小さなガッツポーズをした。

 

 これが私とあのポンコツパーティとの出会いのきっかけだった。



 

最後、視点が変わりましたが、次回からは今まで通りハヤトの視点に戻ります。

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