第6話 睡眠は1日26時間!
用事が立て込んでいて、更新遅くなりました。
ほんとにすみませんm(_ _)m
「おい、起きろ! 頼むか起きてくれ! アリサ!」
俺は必死にアリサを揺する。
別に今は朝ではない。
だが、アリサに起きてもらわないと、俺が困るのだ。
「マジで起きろ!」
俺はアリサの頭をはたいてみたのだが、起きる気配が一向にない。
やばい。マジやばい。
どうして俺がこんなに必死なのかというと、今が講義中だからだ。
黒板の前では、例の鬼教官が状態異常スキル持ちのモンスターへの対策を説明している。
これ以上目をつけられたくない。
という俺のささやかな希望は打ち砕かれた。
鬼教官が突然こちらを見て、叫んだ。
「おい! 黒山ハヤトとアリサ・ルールロード! 講義が終わったら、俺のところは来い!」
「……はい」
俺はうなだれながら、返事をする。
これで講義中に呼び出されるのは7回目だ。
周りの奴らはクスクス笑っている。
出来れば、俺も笑いたい。この悲惨な現状を……。
なぜ俺までアリサが寝ていて、呼び出されなければならないのだろう。
最初はアリサだけだった。
アリサが寝ていて、呼び出される。
当たり前のことだ。
だが、呼び出されても、寝てしまうアリサ。
鬼教官は何度説教と体罰を与えても変化しないアリサに日増しにイライラしているのが遠くから見ても分かった。
そこで呼び出されたのが俺だ。
この講義を受けることになっているの俺達のパーティでは俺とアリサだけだ。
パーテイが同じでも、職業別の講義がある以上、同じ時間割というわけではないのである。
同じパーティでしかも、初日から問題起こしている俺。
格好の説教相手だろう。
こうして、なぜか途中から俺まで呼び出されるようになったのだった。
俺は憂鬱な気分で窓を眺めた。
青々とした空を鳥が自由に空を飛んでいた。
ああ。いいなあ。鳥は……。
誰にも縛られず、天空を自由に滑空する鳥を見て思った。
今度転生することがあったら、この監獄から抜け出せるくらい大きな翼が貰おうと……。
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「おい! お前らあ! 何回目だあ!」
教官の怒号がとぶ。
本当に何回目だろう……。
だが、返事をしないと殴られることは分かっていたので、可能な限りの大きな声で俺は返答した。
「はい! 七回目です!」
「馬鹿野郎! そんなことを聞いてるんじゃねえ!! 黙って聞いてろ!!」
俺は思いっきり頬を殴られた。
痛い。クソ痛い。
もうこの軍事演習場に来て、何回殴られたかは忘れたが、未だに慣れない。
こんなに体罰をして教官は首にならないのだろうか。
俺は気づいた。
ああ。ここ、異世界だったわ。
体罰をしようとも、何の問題もないんだった。
ゆとり世代の俺には、残酷な真実だった。
「おい! お前らは何しに来たんだ!」
教官の説教は続く。
また答えない方が良いパターンだな……。
俺は予測して、沈黙で答えた。
「おい! 何黙ってんだ!」
また、殴られた。
理不尽すぎる……。
どうすれば、許されるのだろう?
「アリサ・ルールロード! お前もだあ! さっきから、黙ってやがって何とか言え!」
教官の言葉で俺もアリサの方を見た。
そう言えば、さっきから静かだ。
アリサは寝ていた。
それも立ったまま……。
「は?」
教官の顔を見ると、タコのように顔が真っ赤だった。
そこから先はあまり覚えていない。
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「死ぬ……」
俺はボロボロだった。
あの後、走らされた。
腰に紐をつけられ、その紐の先にはオオカミをつけられた。
オオカミに死ぬ気で逃げさせられた。
教官の怒りがヒシヒシと伝わってくる訓練だった。
ていうか、下手したら死んでた……。
「ハヤト……。ごめんね……」
俺が木陰で倒れていると、俺よりも走らせられたアリサが来た。
まあ、アリサの方が走る量が多いのは当たり前だ。
アリサが寝てて、怒られたのだから……。
いや、ちょっと待て。なんで俺まで走らされてんだ。
俺、何にもしてなくね。
おかしいだろ。
教官の言うことには、同じパーテイなのに起こさない俺が悪いらしいが……。
「ハヤト。本当にごめん。毎回毎回、私のせいで……」
俺が沸々と湧いてくる不満で腹を立てていると、アリサがまたもや謝ってきた。
心なしか、暗い顔をしている。
反省しているのか……。
「もう寝ないか?」
「うん!」
笑顔で頷いてきたが、前も同じ約束した気がする。
まあ、いっか。
正直、俺も転生する前は授業なんて大概寝てたし。
そもそも学校自体ほとんど行ってなかったが……。
俺がそんな偉そうに説教出来るようなことでもないだろう。
まあ、それにしてもアリサは寝過ぎだが……。
きっと、アリサは人の話を長時間、聞けないのだろう。
でも、少しくらいは頑張ってもらわないと困る。
「……アリサ。とりあえず、10分起きることから始めよう」
「うん! 私、頑張る!」
アリサ両手を握りしめて俺に誓った。
言った自分でも思ったが、なんて低レベルな目標だろう。
アリサには講義の前にクリアしなければならないことが多い気がしてきた。
人としての常識とか……。
「しかし、あんだけ走らされて、よく寝られるなあ」
俺は半分皮肉で半分は感心の言葉を述べた。
言っても、俺はそこまで走らされていない。
大抵、外周200メートルのグランドを50周もだ。
まあ、そもそも俺が走らされること自体おかしいのだが……。
おかげで最近は体力が無駄についてきて、10キロ程度では大して辛くなくなってしまった。
アリサは500周だ。
100キロ。
普通だったら、一日中走ってやっと終わるかどうかだろう。
人間が罰として走らされる量ではない。
あの教官が鬼教官と言われるのも頷ける。
ところが、アリサは全力疾走で100キロ走り続けられるので、俺が10キロ走るのと大差ない時間で終わる。
まあ、それにしてもおかしいが……。全力疾走が速すぎだ。オリンピックは長距離、短距離どっちも金メダルだろう。
影分身ができるビックリ人間の体力なんてそんなものなのかもしれない。
「も、もしかして、ハヤト、私のこと、褒めてる? いいよ! そんな気を使わなくて、悪いのは私だし……」
アリサが申し訳なさそうな顔をしている。
どうやら、俺の半分の皮肉は伝わらなかったようだ。
状態異常スキル持ちのモンスターの対策の前に、知力異常のバーサーカーの扱い方が教わりたい。
もう、いいや。諦めよう。
「そんなことより、今日も頼むぞ。あれ」
「うん! 任しておいて!」
正直、アリサのことを怒れない理由はここにある。
あれが無いと、俺達は行き倒れていただろうし……。
だが、調達できるのはアリサだけ。
すなわち、現在アリサが俺達のパーティの生命線なのだ。
「じゃあ、私、次の講義あるし、行くね!」
そう言うと、アリサは行ってしまった。
俺も行かないとな……。
立ち上がり、次の講義に向かおうとした。
その時、エリが草むらでこそこそやってるのが見えた。
気づかれないようにこっそりと近づいた。
「何してんだ? お前」
俺の声を聞くと、エリはびくっと震えた。
俺に見つかって、驚いたようだ。
こちらをしばらく見て固まっていた。
が、急に走り出した。
「ちょっと待て! どこ行くんだ!」
何かやましいことがあるんだろう。
俺は急いで逃げるエリを追いかけた。
 




