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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第二章 異郷の地に行く……!
31/43

第5話 ノリと勢いだけで生きてきた!

「「「「ようこそ! エンジェルローザ第3軍事演習場へ!」」」」


 門が開くと、大勢のメイドさんがいた。


「黒山ハヤトさんと御一行ですね! お待ちしておりました! 荷物をお預かりしたいと思います」


 メイドさん達の一番前に居たメイドさん俺に声をかけてきた。一人だけ、メイド服の色が違う。おそらく、メイド長さんなのだろう。


「おお! すげえ!」


 隣にいたエリが感嘆の声をあげる。

 俺もこんなサービスを受けるのは初めてなので緊張している。


「……お願いします」


 女性に荷物を運ばせることに若干抵抗があった。が、そういう仕事なのだろうと思い、素直に渡すことにした。

 俺は手に持っていたトランクを差し出した。

 すると、メイド長さんはすぐ後ろにいたメイドさんに手渡した。

 そのメイドさんも後ろにいるメイドさんに渡す。

 バケツリレーのようにトランクが運ばれていく。


 俺は手際の良さに感心した。

 やがて、最後尾にいたメイドさんまで、トランクが運ばれた。

 しかし、どうしてわざわざトランクをバケツリレーなんてしたんだろう?

 まあ、いいか。


「ありがとうございます!」


 俺は笑顔でお礼を言った。


「はい!」


 メイド長さんも笑顔で応対してくれた。


 俺は軍事演習場を案内してもらえるのだと思い、メイド長さんの次の一声を待った。

 が、何も言ってこない。


 笑顔でこちらを向いている。

 まるで何かを求めているようだ。


 何なんだ? この空気……。

 俺が何か言ったほうがいいのだろうか?


「……あの……出来れば、案内してもらいたいんだけど……」


 耐えかねた俺が口を開く。

 すると、メイド長さんが困ったように言う。


「荷物はここで全部、預けて欲しいんですけど……」

「あれで全部だよー!」


 アリサが無邪気な笑顔で言う。


「御冗談を! ふふっ。ここに呼ばれるような方々が、あの程度の荷物しか持ってこないはずがないじゃないですか! 後ろに大荷物を乗せた荷車があるんですよね!」


 メイドさん達がクスクス笑う。


 冗談も何も、マジであれだけなんだが……。

 家を失い、ほとんどの家財は喪失。

 再び家を手に入れるために、クエストに必要な最低限のアイテムと最低限の衣類以外売り払ってしまった。


 もしかして、こんなにメイドさんがいるのは、全部に荷物を運ぶためなのだろうか?

 そう考えると、さっきのバケツリレーも合点がいく。

 全てのメイドさん荷物を運ぶならば、ああした方が効率は良いだろう。


 よく考えたら、ここに来るのは期待の新人、つまり、ギルドで幅を利かせている連中ばかりなのだ。

 財産も冒険者に関する所持品もさぞ多いことだろう。

 というか、俺達だって、海での一件がなければ、結構な量の魔導書やら魔道具やらを持っていたのだ。

 まあ、雰囲気的になんとなく格好良かったので買ってみただけで、ほとんど使ってないが……。

 ここに持ってきていたら、これくらいのメイドさんは必要だっただろう。


 つまり、このメイドさん達は俺達の荷物を運ぶためにわざわざ集まってくれたのだ。

 そこまで、察して俺は軽い感じで謝って、戻ってもらうことにした。


「……すみません。本当にこれで全部なんです。多分、一人で大丈夫だと思うし、そうなると、わざわざ運んでもらうのも悪いので自分で運びます」


 何という、紳士的応対だろう。

 謙遜して謝った上に、最後に自分で運ぶ旨を伝えることで、親切さもアピールできた。

 これで、メイドさん達の俺の評価はウナギ登りだろう。


 という、俺の思惑は外れた。

 何か、メイドさん達が集まって話し合い始めた。

 ざわざわしている。

 皆、緊張した面持ちで話し合っている。

 テロリストとか、不審者とか物騒なワードがちょくちょく聞こえてくる。

 あれ? 何か、おかしい。


 少し経って、メイドさんを代表してメイド長さんが前に出てきた。


「……あの……大変、申し上げにくいのですが、念のため身分確認させてもらってもよろしいでしょうか?」

「門でしましたけど……」

「一応、念のためです。他の冒険者さんの方々にもやってもらってます」


 俺は察した。

 多分、本当は俺達だけだろう……。

 おそらく、荷物の少なさから、不審者認定されたのだろう。

 他の冒険者達は大量の荷物を持ってきたのだろう。

 だが、俺達はトランク一個。

 確かに、変だ……。


「ふふっ。僕の存在証明は難しいと思うけどね!」


 ルナが前に出て来て言った。

 バカ! 黙ってろ! 空気読め!


 メイドさん達の顔が真っ青になっていくのが分かった。


「……や、やっぱり」


 メイドさんの誰かがボソッと呟いた。


 あーあ、面倒なことになった。


_______________________________

 


 その後、俺達が解放され、宿泊所に案内されたのは真夜中だった。

 荷物の件について問い詰められ、何度も自白魔法をぶつけられた。


 爆弾が入ってるんじゃないかとか、爆発する魔方陣が書かれているんじゃないかとか酷いことを疑われた。

 荷物の中身を見せても、これは爆弾を魔法で擬態してるんだろうとかさらに疑われた。


 どうして、毎回、毎回、俺達ばかりこんな目に合わなければならないのだろう。

 今回に至っては普通に荷物が少なかっただけだ。

 何もしていない。

 あんまりじゃないだろうか?


「あー。疲れたー」


 俺は部屋に着くなり、ベッドに横になった。


 パーティごとに5部屋割り振られていた。

 小部屋が四つ、大部屋が一つだ。

 小部屋からは大部屋のみ移動できて、大部屋から他のパーティと共有の廊下に出ることができる。

 大部屋から廊下への扉のみ鍵をかけることができる。


 まあ、ようは小部屋が個人の専用部屋として利用できて、大部屋はパーティで共有という感じだ。


 全員、疲労でほとんど何も言わず、適当に部屋に入ってしまった。


 そう言えば、丸二日寝てないのだった。

 疲労もあいまってか俺はすぐに夢の世界に旅立ってしまった。


_______________________________



「……おい……やと……はやと……」


 誰かが俺を呼んでいる。

 ……眠い。


「おい! ハヤト! おい!」


 声が次第に大きくなってきた。

 体を揺さぶられる。

 が、眠いので無視することにした。


「おい!! 起きてんだろ!! ていうか、起きろ!」


 頭を殴られた。


「何すんだ!」


 さすがに、目が覚めてしまった。

 俺は起こしてきた人物にぶち切れた。


「よ、よかった……。ハヤト、起きてんだな」


 エリだった。

 起きてたのではなく、起こされたのだが……。


 なんか、顔を真っ赤にしてもじもじしている。


「何だよ?」


 俺は眠い目をこすり、エリにたずねた。


「なあ、お前、寝る前にトイレ行ったか?」


 何言ってんだ? こいつ。


「……行ったよ」


 眠いので、適当に俺は答える。


「……そうか。今、行きたかったりしないか?」

「全然」


 俺が即答すると、エリは一瞬、固まった。


 が、すぐに

「……なら、良いんだ。おやすみ」

 と返事が来た。


「おやすみ」


 俺も返事を返した。

 エリが俺の部屋から出ていく。

 何だったんだ? 

 まあ、いいか。

 俺は再び眠りについた。


_______________________________ 

 


「おい! 頼むから、起きてくれ!」


 俺は再び叩き起こされた。


「何なんだよ! うるせえよ!」


 俺は起き上がり、ベッドの横を見た。


「お願いします! トイレまでついて来てください!」

「は?」


 エリが内股になって、ぷるぷる震えている。

 さっきよりも顔が真っ赤だ。


「やばいんだよ! 限界が近いの! いいから、ついて来て!!」


 エリが足踏みしながら言う。


「一人で行けよ」


 トイレくらい一人で行って欲しい。

 俺も眠いのだ。


「バカ! 一人で行けたら最初から行ってるわ! 廊下が真っ暗で怖いんだよ! 頼むから、ついて来てよおおおおお!!」

 エリが絶叫した。


「わ、分かった。ついてくから落ち着いてくれ」


 俺はエリの勢いに気圧され、言われるままにすることにした。


 大部屋に出て、俺はあることに気付く。


「アリサかルナについて行ってもらったら、どうだ?」


 同性だし、そっちの方が色々都合がいい気がする。


「あいつら、起きねえんだよ!」


 エリがまたもや、足をダンダン鳴らしながら言う。

 どうやら、気を紛らわすために足踏みしているようだ。


「本当に起きないのか?」

「本当だよ! 叩いても、全然起きねえんだよ! 人が苦しんでいるのにぐうぐう寝やがって!」


 よく考えると、起きないのはエリの自業自得な気がしてきた。

 こいつが丸二日も寝かさなかったからだ。

 本来、アリサとルナは健康的な生活を送っている。

 朝早く起き、夜も早く寝る。

 夜更かしという文化がないのだ。

 だから、エリが無理矢理寝かさなかった分、今爆睡しているんだろう。


 俺は夜更かしも徹夜も日常的にしているので、目が覚めたのだ。

 つまり、貧乏くじを引かされたというわけだ。


「……しょうがねえなあ」


 さすがに、ここで放置するのも可哀想な気がしたので、ついて行ってやることにした。


「助かる! ありがとうございます! ハヤトさん!」


 エリが珍しく礼を言ってきた。

 マジで限界なのだということが分かった。


「……よし」


 俺は転がっていたビンを拾って、エリに渡した。


「もし本格的にヤバそうだったら、これを使え……」

「……なっ」


 エリは何か言おうとしたが、結局素直に受け取った。

 どうやら、本気で切羽詰まってるようだ。


 大部屋の扉を開けると、廊下は灯りが一つもなく真っ暗だった。

 俺達が今、居るのは5階だ。

 トイレがあるのは、最短で3階だ。

 確かに、そこまで一人で行って帰ってくるのは結構なスリルがあると思う。


 俺は持ってきたロウソクに火を灯す。


「よし、行くか」


 俺が廊下に出ると、エリが俺の手を握りしめて、体を凄い近付けてくる。

 生暖かい布の感触が伝わってくる。


「うぅ……。怖い……」


 俺は不覚にも、ドキッとしてしまった。


「あのエリさん、近いんですけど……」

「し、しょうがないだろっ! 怖いんだから……」


 どうやら、暗闇が本当に苦手なようだ。

 サキュバスって魔族じゃなかったっけ?

 暗闇に生きるんじゃないのか?

 それがこんな怖がっていて、いいのだろうか?

 そこまで考えて、俺は以前から疑問に思っていたことを思い出した。


「なあ、エリ、全然関係ないことなんだが、一つ聞いていいか?」


 俺は一歩ずつ足元を確かめて進みながら、エリにたずねた。


「……ああ。会話してた方が気がまぎれるし、いいぞ」


 了解も得たので、俺は前から思っていた疑問を明らかにすることにした。


「お前、敬語使うと相手をムラムラさせられるんだよな? 俺、時々、お前が敬語使ってても、ムラムラしない時があるんだけど……」


 エリの生い立ちを知らない人が聞いたら、ただのセクハラにしか聞こえないセリフだ。

 まあ、だからこそ、俺とエリ以外居ない今、聞いたのだが……。

 さっきもそうだが、エリはちょくちょく焦ると敬語になっている時がある。

 だが、そういう時は、なぜかあまりムラムラしないのだ。

 俺はその度に薄っすらと疑問に思っていたのだ。


「ああ、そのことか。簡単だよ。私にその気がないと発動しないからだ。まあ、多少はムラムラするだろけど……私に使うつもりがないと、あんまり効果はない」

「へえ、そうなのか」


 てっきり、敬語を使ったら無条件で発動するのだと思っていた。


「まあ、さっきも敬語は使ったけど、発動させなかったな。私がトイレ我慢していることに興奮されても困る……あひゅぅ……」


 エリが変な声をあげた。

「おい! 大丈夫か? ヤバそうだったら、言えよ。そしたら、横向いて、耳ふさいでてやるから」


 俺は最大限気を使ったつもりだったのだが、エリは怒った。


「なっ! 縁起でもないこというんじゃねよ! 本当にそうなったら、どうすんだ!」


 どうするも、なにもエリが恥ずかしい思いをするだけだ……。


 そんなことを話しているうちに、階段までたどり着いた。

 後は階段を3階まで下りればすぐだ。


「なあ、私もお前のことで聞きたかったことがあるんだけど……」

「どうぞ」


 何だろう? 特にエリに隠し事はしてない気がする。


「いや、正確には、お前とルナのことだ。お前らの故郷ってどこなんだ?」


 ああ、それか。

 確かに、アリサとエリには隠していた。

 転生したなんて言っても、分かってもらえないだろうし、適当にはぐらかしていたのだ。

 この際、だから正直に言ってみるか……。


「……あのな、俺達はここじゃない世界の日本っていう国「なんだ。日本村か」


 エリがさも知っているかのように答えた。


「は? えっ! お前、日本知ってるの?」

「当たり前だろ! 一昔前に出来た独立国家じゃねえか」


 どういうことだろう?

 この世界は俺の転生前の世界と繋がってるのだろうか?

 いや、おかしい。

 一昔前よりも前から日本は存在しているはずだ。

 俺が頭の中でグルグルと考え込んでいると、エリが言った。


「まあ、お前らが隠してたのも、納得いくわ……。さすがに、くじ引きで王様を決めて、年中働きもしないでお祭り騒ぎしているような国の出身は名乗りたくないわな……」

「いや、ちょっと待て! そんな国、知らない……」


 日本はくじ引きで王様を決める国ではなかったはずだ。


「いや、いいよ……。そこまで自分の国を卑下するな。私も悪かったよ。お前らの故郷だもんな。すまん、すまん。その代わり、異常に強い魔法やら、武器をもった奴らがわんさかいるらしいじゃねえか」


 これを聞いて、分かった。

 俺達以外にも転生した奴らはいる。

 そいつらが日本が恋しくなって創った国なのだろう。

 日本村という聞きなれない名称も納得がいく。

 異常に強力な魔法やら、武器というのはおそらく、転生した際に授かった祝福のことだ。

 大方、チートスキルで楽な暮らしをしていて、金に余裕のある連中がつるんで、国を建国したのだろう。

 

 そうすれば、今の俺達みたいに国王の命令なんて聞くことなく、自由な暮らしができるしな。

 しかし、おかしい。

 天使様が選んだのは、優秀な人物達のはずだ。

 性格も真面目に違いないはずだ。

 そんな奴らがどうして、魔王を倒しもせず、呑気に国なんか創って、遊んでいるのだろう。

 俺が衝撃の事実に戸惑いながら階段を下りていると------





「おい! お前ら何をやっている?」


 突然、目の前に巨大な男が現れた。


「「うわああああああ!!」」


 俺とエリはビビッて尻込みした。


「お前ら! 泥棒か!」


 男が凄い形相で威圧してくる。

 スキンヘッドに毛皮のジャケットの大男は恐怖以外の何ものでもない。


「違う! あんたこそ! 何者だ!」


 俺はパニックになって言い返す。


「俺はここの教官だ! お前らみたいな泥棒を捕まえるために見張りをしてたんだ!」

「す、すみません! でも、俺達もここの生徒なんです! トイレに行こうとしていただけなんです!」


 俺はそう言って、ポケットに入っていた招待状を見せた。


 男はしばらく、凄い形相をして俺の見せた紙を見ていた。

 しばらくして、その表情を緩めた。

 どっちにしろ、怖い顔だったが……。


「どうやら、お互い誤解あったようだ。すまんな。早く寝ろよ」


 そう言うと、男は俺達を素通りして、上の階に向かって行った。


「ふぅ……。エリ、大丈夫か?」


 エリを見ると、何か真っ青な顔をして、震えていた。


「……もう……私……ダメかも……今のショックで……」


 尻込みしたまま、立ち上がれずにいる。


「頑張れ! あとちょっとだぞ!」


 何とか、エリを励まし、肩に手をかけてやり、何とか立たせる。

 正直、ここまで来たのだから、あとちょっと頑張って欲しい。

 もう3階の目の前だ。

 トイレまであと少し。

「あ、ありがと……」

「お前らあ! ちょっと待てえ!!」


 エリが立ち上がった瞬間だった。

 さっきの教官が急に怒鳴ったのだ。


「お前ら! よく見たら、さっき身分検査されてた奴らではないかああ! やっぱり、夜の間に爆弾を仕掛けようとしてたんだろおお!!」

「「はあ!?」」


 酷い言いがかりだ。

 本当にトイレなのに……。


「……ほんと……に……といれ……」


 エリがもう真っ赤になって、何とか言葉を紡いでいる。


「そうです! トイレなんです!」


 俺も一緒に反論する。


「噓をつくなああああ!! さっきあとちょっととか、言ってただろおお! あれは魔方陣がもう書き終わるってことなんじゃないのかああ!!」

「「ええっ!?」」


 それもトイレのことなんだが……。

 何か、何を言っても、もう信用してもらえない気がした。


 その時だった。

 エリが俺の耳に囁いてきた。


「ハヤト。私、ここでするよ……。恥かしいけど、そうすれば、あの頭でっかちもさすがに、理解するだろ……。ここで変に目を付けられたら、訓練にも支障がでる……。私が恥ずかしい思いをして自分のパーティが救われるなら、それでいいんだ。私は三日くらい引きこもるけど……」

「何言ってんだ!」


 エリの顔を見ると涙目でウインクしてきた。

 もう本当に限界なのだろう。

 足をクロスさせて、生まれたての小鹿のように震えている。

 

 ちくしょう。格好良いじゃねえか。

 こんな時だけ、仲間かばおうとしやがって……。


 しょうがねえな。

 ここまで、覚悟を決められたら、俺も覚悟を決めるしかねえじゃねえか……。

 シロクロ魔術士コンビの相棒としてっ!


 俺は高らかに宣言する。


「はっはっは! ばれちゃったら仕方がねえな! そうだよ! 今からこの宿泊所を爆発する。ふふっ。もう、下に行って呪文を唱えるだけだ!」

「なっ!」


 エリと教官が驚いた顔をしている。


「や、やはりそうだったのか! ちくしょう! てめえ! そこを動くんじゃねえぞ!」

「はっはっは! 止まれって言われて、止まる奴がどこにいるんだよ! ほら、追いつけるものなら追いついてみろ!」


 そう言って、俺はエリにウインクした。

 俺に構わず行けと。

 エリが戸惑った顔をする。

 頑張れよ! 俺なしでもトイレに行くんだ。

 今のお前なら出来る!


「ほら、来いやああああ!」


 俺は階段を駆け降りる。


「待てやあああああ!!」


 教官が凄い勢いで追いかけてくる。


 俺は走った。力の限り。

 が、一階に着くまえに捕まった。

 そりゃそうだ。

 大して鍛えてもない俺がムキムキの教官よりも速く走れるわけがない。


「はっ! 何だ口ほどにもねえじゃねえか!」


 取り押さえられた俺は思い浮かべる。

 エリ、一人でトイレ行けたかな……。


「ぎゃあああああああ!!」


 痛い痛い痛い痛い。

 体を締め付けられる。


「早く吐け! 誰に命じられてやった? 死にたくなかったら白状しろお!」


 あー。やばい。マジで死ぬわ。これ。

 後先考えなさすぎて、どう弁明するかまで考えていなかった。

 言葉が浮かんでこない。

 意識が遠のいて行くのを感じた。





 バンッ!!

 突然、体の締め付けられるのから、解放された。


「おいっ! ハヤト! 大丈夫か?」


 見ると、エリが俺の渡した空びんを持って立っていた。

 そうか! それで教官を殴ったのか!


「エリ! 助かった! お前、トイレは?」


 エリが満面の笑みでウインクする。


「お前のおかげで間に合った! 今の私なら、誰にも負けない気がする!」

「そうかそうか。だったら、二人まとめて相手にしてやる!」

「「へっ?」」


 どうやら、教官はエリに不意打ちを仕掛けられ、俺を離したものの、気絶するまでには至らなかったようだ。

 頭から血が流れている。

 うわあ。凄い形相をしてらっしゃる。


「「ごめっ……」」


 バスっ! バスっ!

 俺とエリが謝ろうとした瞬間、二人とも首にチョップされ気を失った。


_______________________________



 その後、俺とエリは教官として呼ばれていた賢者さん達のおかげで何とか、無実を証明してもらった。

 が、教官を殴ったり、噓をついたことに変わりはない。

 俺達、二人は朝まで教官に走らされた。

 死ぬかと思った。

 息が切れても、止まることを許されなかった。

 止まろうものなら、気絶しない程度に木の剣でケツをぶたれた。


 どうやら、あの教官は鬼教官として有名だったらしい。

 俺とエリは早々にその教官に訓練が始まる前から目をつけられてしまったようだ。

 だが、後悔はしていない。仲間のピンチを救えたのだから……。





 嘘。凄い後悔してる。

 どうして、あんなことを口走ったりしたのだろう。

 寝不足で変なテンションだったからだろうか?

 自分でも、爆発犯を自称するまでしてしまったことは後悔しかない。

 普通に弁明すれば良かった……。

 ノリと勢いだけで行動するのは、もうやめよう。

 ……マジで。 



おかげさまで10万字まで連載できました。


読んでくださっている方、ブックマーク登録してくださった方、評価してくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございます!


これからもよろしくお願いします!

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