第3話 残酷な運命
「……こうして、ジョーン様は見事一人でダークドラゴンを倒し、ドラゴン殺しのジョーンの異名を得たんだ」
「「「……へ、へえ」」」
俺とアリサとルナはエリからジョーンさんの武勇伝を延々と聞かされていた。
……正直、死にそうだ。
あの夜から、俺達三人は一切寝さしてもらえなかったのだ。
少しでもウトウトしようものなら、本来モンスターに強制睡眠状態にされたとき対策の目覚まし魔法をエリに撃ち込まれた挙句、ジョーンさんに気づかれないようにビンタされた。
頭がおかしいんじゃないだろうか。
しかも、同じ話を事あるごとに何度もするし……。
本人は凄い楽しそうだが、こちらはたまったものではない。
「おっ! エンジェルローザが見えてきた!」
ジョーンさんが声を上げた。
……ははっ。どうやら、丸二日寝てないらしい。
もう今が昼なのか夜なのかも分らなかった。
_______________________________
「ここがエンジェルローザか……」
巨大なトンネルを抜けるとそこには巨大な都市が待っていた。
山に囲まれた巨大軍事都市、それがエンジェルローザだ。
元々は小さな村落だったらしい。
魔王城に近く、住む人も少なく、また、山に囲まれていたため貿易はあまり発達していなかったらしい。
が、ある時から、魔王城までの冒険者達の中継地点として利用されるようになったそうだ。
まあ、冒険者達の中継地点としては絶好の場所だろう。
魔王城には頑張れば、三日で着くほどの距離。
険しい山に囲まれているおかげで、モンスターはほとんど寄りつけない。
そのため、魔王城を調査する冒険者の多くがここに立ち寄り、中継地点とするらしい。
また、国直属の凄腕冒険者達も在住しているらしい。
今では凄腕の冒険者が集う比較的安全な都市と言われているらしい。
魔王城に近いと言っても、国のトップレベルの冒険者が多いと襲撃されることもないだろう。
そのおかげで冒険者向けの商売をする商人が多く暮らしており、冒険に必要なものでここで揃わないものはないと言われるほどだ。
冒険者を育成するにはうってつけの場所だろう。
馬車の停留所に着くと、ジョーンさんが別れの挨拶をした。
「じゃあ、私とはここでお別れだね。短い間だけど、楽しかったよ」
「そ、そんなあ……」
エリが残念そうな顔をする。
俺は疑問を覚えた。
「ジョーンさんは育成会の教官じゃないんですか?」
エリの言った通りの最強パーティの一員だったら、教官として徴集されても、おかしくないはずだ。
「私も出来れば参加したかったんだが、お呼びがかからなかったんだ」
ジョーンさんが苦い顔する。
「す、すみません! うちのバカが変なこと聞いちゃって……。ほらお前も頭さげろ!」
そう言うと、エリは俺の頭を無理矢理、手で押して下げさせた。
普段、礼儀とは無縁の奴がこんなときだけ、人を説教しやがって……。
とは言え、俺も無神経だったとは思うので、素直に謝った。
「無神経なこと聞いてしまって、すみません」
「いやいや、そんな謝らないくて大丈夫だよ! 頭をあげてくれ」
やはり、器の大きな人だ。
しかし、こんなに人格的にも立派で、強く、功績も多く残した人がどうして教官として徴集されなかったのか、より疑問が深まった。
すると、エリが悔しそうに叫んだ。
「……クソ! 絶対、あいつのせいだ!」
拳を握りしめ、歯を食いしばっている。
しかし、何でこいつがそんなこと知っているのだろう?
ジョーンさんと初対面なのにそんなこと分かるのだろうか。
疑問に思った俺は恐る恐るたずねてみた。
「あいつって?」
すると、エリが大きな声で叫んだ。
「決まってんだろ!! あのクソカスゴミの現国王だよおおおおおお!!」
「黙れええええええ!」
俺は急いでエリの口をふさぐ。
バカか! こいつは!
国直属の冒険者の多いこの地でそんなこと叫んだら、王の耳に入る可能性は非常に高い。
そんなことになったら、最悪打ち首だ。
「え、エリちゃん! 私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、ここでそんなこと言ったらダメだよ!」
ジョーンさんも焦っている。
さっきから、兵士みたいな人達がチラチラこちらを見ている。
エリもそのことに気づいたようだ。
「ご、ごめんなさい。でも、私、納得行かなくて……」
「うん! 分かった! その話は後でゆっくり聞かせてくれ! おい、行くぞ!」
とにかく、今はこの場から離れるのが先決だ。
「じゃあ、ジョーンさん! お世話になりました! 本当に最後まで迷惑かけっぱなしですみません!」
「うん! そ、そうだね! 一刻も早くここから離れたほうが良い! 機会があったら、また利用してくれ! じゃあまた!」
そう言うと、ジョーンさんも再び馬車に乗り込んだ。
「おい! 俺達も行くぞ!」
そう言えば、アリサとルナがさっきから静かだ。
居なかった。
二人ともどっかに行ってしまっていた。
おそらく、新しい街に気を惹かれてどこか行ってしまったのだろう。
何やってんだ!
だが、逃げるのには好都合だ。二人の方が逃げやすいだろう。
「エリ! 行くぞ!」
出ていく準備をしているジョーンさんを名残惜しそうに見ている、エリの手を取る。
「ああ……。ジョーン様ぁ」
すると、ジョーンさんが振り向いて、言った。
「私のファンに会えて、嬉しかったよ! 機会があれば、また会える。だから、今すぐ逃げるんだ!」
「分かりました! 私も本っっっっっ当に嬉しかったです! じゃあ、また会う日まで!」
そう言うと、エリは俺と一緒に走り出した。
俺達が逃げたのを確認すると、馬車も出発した。
最後の最後まで、ジョーンさんには世話になりっぱなしだったなあ……。
ジョーンさんが言ってくれなかったら、エリは逃げてくれなかっただろうし。
走ってる途中でエリが悟ったように言った。
「なあ、ハヤト。運命って、残酷だな……。せっかく、憧れの人に会えても、こんな別れしかできないなんて……」
お前のせいじゃ! ボケ!
運命のせいにすんな!
俺達は人だかりの多い広場の方に走った。




