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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第二章 異郷の地に行く……!
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第2話 一匹狼は決してぼっちではない


「さあーて、お次にやりますのは、逆立ち空中大車輪!」


 アリサが高らかに宣言する。


「いいぞ! もっとやれ!」


 エリが一升瓶片手に言う。


 夜、俺達の乗っていた馬車は止まり、休憩していた。

 アリサがさっきから、サーカスで身につけた芸を披露している。


 アリサがメイスを縦向きに立て、その上で逆立ちしている。

 異常なバランス感覚である。


 その状態から、アリサは片手を使って飛び上がり、空中でぐるぐるとバク転し始めた。


 なんだ。……こいつ。

 人間じゃないだろ。

 人間がこんなこと出来たら、ダメだろ。

 もう、サーカス団に入った方が彼女の将来的には安泰なのではないだろうか……。


 7回半のバク転を終えた後、アリサは着地してポーズを決めた。


「さすが! 僕のアリサだよ!」


 ルナがアリサに近づき、頭を撫でる。

 いつから、アリサはルナのものになったのだろう。


「へへっ」


 アリサは褒められたのが、嬉しかったのか頭の悪そうなほわほわした顔でニヤついている。


「おい! ふざけんな! アリサは私のものだ! アリサにサーカスを紹介したのも私なんだぞ! これからも私のために稼い……いや、私が甘やかしてもらうんだ!」


 言い直した意味がねえ。

 結局、ヒモ宣言じゃねえか。


「何を言っているんだい? アリサと僕は毎朝修行している仲なんだよ。冷静に考えてもアリサにふさわしいのは、僕だよね? アリサ!」

「何言ってんだ! お前より、私の方がアリサとの付き合い長いのだよ! 他の点においても、私の方が色々と仲良いし、アリサにふさわしいのは私に決まってんだろ! なあ、アリサ!」

「え〜。選べないよ〜」


 アリサは二人に言い寄られてヘラヘラしている。


 なんか、違う……。

 本来、俺を取り合うべきではないだろうか?

 普通はパーティに男一人だったら、それを美少女達が取り合う展開がお約束のはずだ。


 まあ、こいつらにそれを期待するのは酷だし、言い寄られてもそれはそれで違う気がするが……。

 こいつらは外見は確かに良い。

 それは認める。

 しかし、それ以外がロクな奴がいない。

 一人は空気読めない修行バカ、一人は賭け事はするわ、嘘はつくわのクズ、一人は無意識に犯罪者予備軍みたいなことをするやばい奴。

 こんな奴らをどうやってヒロインとして見ればいいのだろう?

 誰か教えてほしい。

 俺はハーレムパーティみたいな愚かな夢は完全に諦めることにした。


 俺が色々諦め、なんか大人の階段を登った気がしていると、エリとルナが俺に向かって言ってきた。


「なあ!「ねえ! どっちの方がアリサにふさわしいと思う?」」


 うわあ、面倒くせえ……。


「……どっちでも、いいよ。つーか、アリサはお前らのものではないだろ「えっ! ハヤトのものってこと!?」


 この後、アリサはアリサのものだと言おうとしたのだが、ルナが話の途中で割り込んできた。


「妬いてんのか! お前、妬いてんのか!?」

「最初から妬いてるなら、妬いてるって言えば良いのに……ふふっ。ハヤトは素直じゃないなあ」


 エリとルナが煽ってくる。


「「や・い・て・る! や・い・て・る!」」


 対立していたエリとルナが俺に向かって、手拍子しながら声を揃えてコールしてくる。

 どうしよう。すごく殴りたい。


「はいはい。もう、そういうことでいいよ」


 俺は大人になることにした。


「……えっ!」

「ちょっ……ハヤト!」

「だ、だ、大胆すぎだろ!」


 急に3人ともテンパり始めた。

 アリサは顔を真っ赤にしている。

 そんな簡単にテンパるなら最初から変なコールすんじゃねえよ……。


「冗談に決まってんだろ」


 そう言って、俺は馬の世話をしている御者のおじさんの方へ歩いて行った。

 三人はまだぎゃあぎゃあ騒いでいた。


「騒がしくしてしまって、すみません」


 俺はおじさんに謝る。

「いえいえ。こちらも賑やかで楽しいよ!」


 優しいおじさんで本当に良かった。

「私も昔、冒険者をしていてね。昔の思い出が思い出されるよ」

「へえ。そうなんですか。でも、今は何で御者に?」

「家内に止められてしまってね……。子供ができたんだから、危険なことは辞めてくれって。まあ、冒険者のころのワイワイした楽しさが忘れられず、こうやって御者として冒険者の一行に加わらせてもらっているんだけどね! だから、ワイワイしてもらって全然良いんだよ! むしろしてくれ!」


 俺達が騒いでいて、楽しいと言ってくれたのは建前とかでは無かったようだ。

 あいつらの騒がしさが人の役に立つこともあるんだなあ……多分、今回だけだろうが。




「うわああああ! ハヤトーー!」


 突然、俺を呼ぶ声が聞こえた。

 三人の居た方を咄嗟に見る。


 三人がオオカミの群れに囲まれていた。


「何やってんだ! お前ら!」


 俺はいつものように叫ぶ。


「ち、違う! 今回は何もやってない! ほ、本当だ!」


 エリが叫んでいる。

 本当に何もやってないのだろうか?

 怪しい。


 が、今はそれどころではない。

 そんなことを話している間にも、ジリジリと三人にオオカミ達が近づいていく。


「大丈夫だよ!」


 突然、アリサが叫んだ。


「サーカスで犬の扱いも教えてもらったから!」


 そう言うと、アリサはオオカミの一匹に手を差し出した。 


「お手!」


 次の瞬間、アリサの手が噛まれたのは言うまでもない。

 

 それが引き金になったのか、オオカミが三人に一斉に襲いかかる。


「あほーーー!」


 エリが叫んだ。

 ははっ! エリ、知らなかったのか? そいつはバカの世界チャンピオンだぜ!


「あははっははははははーーーーーーー!!」


 嚙まれた手の血を見て、アリサが狂戦士モードに入る。


 周りのオオカミを凄い勢いでふっとばし始めた。

 だが、オオカミの勢いは一向に収まらない。


「汝の風、沈黙せよ!」


 俺もオオカミに向かって呪文を唱えて応戦する。


 エリとルナは恐怖で二人で抱き合ってあわあわ言っている。


「ルナ! お前も攻撃魔法を使え!」

「ひゃれにふどいしほんとんよ……ひいっ!」


 駄目だ。恐怖で魔法が唱えられていない。


「どうすれば……」


 俺は焦った。


 周りは草原だ。

 俺のデバフ魔法が利用できそうものが全然ない。


 アリサは無我夢中で戦っていて、周りが見えていない。

 エリとルナは相変わらずあわあわ言っているだけだ。


「危ねえ!」


 エリとルナの方にアリサの倒し損ねた一体が突撃した。




 ドンッ!!

 その時の光景が俺は理解できなかった。

 なぜか御者のおじさんが凄い速さでオオカミの一体をふっとばした。

 次々とオオカミを駆逐していく。


 アリサの邪魔をせず、尚且つそれを活かすようにバッタバッタと殴り飛ばしていく。

 その動きは力強さと繊細さを兼ね備えた、見ているものを魅了する動きだった.

 俺とエリとルナは、ぼーっと見ていた。

 

 おかしい。何かおかしい。

 御者のおじさん、強すぎだろ……。


 気づくと、オオカミはいなくなっていた。

 全て倒された訳ではないが、おじさんに恐れをなしたのか逃げていった。


「ふう……」


 そこには半端ない強さのおじさんが立っていた。


 闇金の人と言い、御者のおじさんと言い、この人達が魔王を倒すべきなのではないだろうか?

 明らかに、この世界は強さのバランスが壊れている。


「……あ、ありがとうございます」


 俺は恐る恐る礼を言う。


「いや、こっちこそ礼を言わせてもらうよ。久し振りにいい運動になった」


 おじさんが汗を拭きながら言う。


 優しさもあいまってか、ヒーローのようだった。


「あ、あの、遅いですけど、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」


 俺は思わず名前をたずねた。


「名前? 大した名前じゃないよ。ジョーン・クラッカーだよ」

「ジョーン・クラッカー!!」


 狂戦士モードが解けて倒れていたアリサを介抱していたエリが驚きの声をあげた。


「ほ、本当にジョーン・クラッカーさんなのですか!?」


 エリが食い気味でたずねる。


「ああ。そうだよ」


 おじさんが笑顔を崩さず答える。


「お前、知り合いなのか?」


 俺が何気なくたずねると、エリがぶち切れた。


「バカ! お前、ジョーン・クラッカー知らないとか……冒険者、引退しろ! そして、死ね!」


 俺はなぜここまで言われなければならないのだろう?

 

「ドラゴン殺しのジョーンだよ! 覚えとけ! このゴミ!」


 俺に暴言を吐き続けるエリの方を見る。

 なんだこいつ……。

 なんか、興奮してすごい形相だ。

 どうやら、有名な人らしい。


「こらこら。私のこと、覚えてくれているのは嬉しいけど、仲間にゴミとか言っちゃダメだよ」

「ご、ごめん! ハヤト!」


 普段、人の言うことをほとんど聞かないエリがジョーンさんの一言で土下座してきた。

 なんか怖いんだけど……。


「……い、いいよ。そんな土下座まですんな。あとなんか怖い……」


 俺はエリの気持ち悪さにドン引きしていた。

 エリは俺の許しを聞くと、再びジョーンさんの元へ跳ね返った。


「あ、あのサインくだひゃい!」


 エリが紙と筆とインクを取り出す。


「うん。いいよ」


 そう言うと、ジョーンさんはエリから受け取った紙にサインした。


「ひゃああああ! ハヤト! 私、これ家宝にする! ひゃああああ! 頭、おかしくなっちゃう~」


 ジョーンさんからサインをもらったエリがぴょんぴょん飛び跳ねている。 

 もう既に頭は壊れていると思う……。


「はっはっは! そんなに喜んでもらえると嬉しいよ」


 ジョーンさんが笑う。


「ジョーンさんって、そんなに凄いのか?」


 エリの喜びようがやばかったので、俺は気になり、たずねた。


「凄いもなにも! 神だよ! 神! かつて、勇者ルドルフの率いる最強パーティがあったんだよ! その、パーティの心優しく、頭も良くて、力も強い最強のパラディン! それがドラゴン殺しのジョーンだ! ある時はパーティのために体を張って、単騎でモンスターの群れに突っ込み、またある時はその知能で天才的戦略を立て、国を魔王の幹部から守ったというあのジョーン様だよ! ふわああああ! そして、高速移動魔法からの正拳突きは十八番なんだよ! 私はそれに憧れて、高速移動魔法を修得したんだ! はわわわわ! 冒険者、引退しちゃったから、もう活躍は聞けないと思っていたんだが……。まさか、本物に会えちゃうなんて! 心がブレイクしちゃうよーーーー!!」

「……へえ。そうなんだ」


 怖い。エリさん、まじ怖い。

 でも、凄い人なのだということは一応分かった。

 どおりで強かったはずだ。


「でも、どうして、そんな凄い人が冒険者をやめちゃったんだ?」


 俺がエリにたずねた。


「してない! 私の中では永遠に輝いてるから!」


 何を言っているのか、よく分からない。

 すると、興奮してまともに会話の出来ないエリの代わりにジョーンさんが答えてくれた。


「さっきも言った通りだよ。娘ができたからね。身を固めようと思ったんだ」


 本当だったのか。

 戦いよりも家庭を取るなんて、家族思いだな。


 俺が感心していると、エリが再び叫ぶ。


「ひゃあああああ! 格好良すぎる! やばいやばい! 格好良すぎだろおおおおお!」


 ジョーンさんもお気の毒に……。

 こんな頭のおかしいファンがいるなんて……。


「ふふっ。君は優しいんだね。他の人達からは臆病者とか言われたりもしたんだけどね……凄く嬉しいよ」

「どこのどいつだ! 私がぶっ殺してやる!」


 今のエリなら本当にやりかねない……。


 そこからの旅は本当に地獄だった。

 こんな調子のエリにエンジェルローザに着くまで、寝かしてもらえず、延々とドラゴン殺しのジョーンの武勇伝を聞かされたのだから……。


 

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