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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第一章 ポンコツパーティはじめました!
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第21話 冒険者くん

「汝の風、沈黙せよ」


 俺は家畜である羊のようなモンスターのシッパーに呪文を唱えた。

 柵を越えて外に出ようとしたシッパーは途端に倒れた。


「よし!」


 俺は思わずガッツポーズをする。


「いや~、助かるよ~」

「いえいえ、大したことないです」


 そんな会話を俺の雇い主であり、家畜の持ち主であるおじさんとする。


 ふう、仕事があるって素晴らしいなあ。


 青い空がどこまでも広がり、地面には生き生きとした緑色の草原が生い茂る。

 自然と共に働けるなんて最高の職場だ。

 転生前は働いたら負けとかバカなことを考えていた俺だが、異世界に来て仕事があることの喜びを学んだ。

 

「ハヤト君。今日はもう上がっていいよ」

「はい! ありがとうございました!」

「いやいや、こちらこそ。これ今日の分の給料と少しだけどうちで採れた野菜だ。ぜひ、食べてくれ」

「じゃあ、お言葉に甘えて! 本当に何から何までありがとうございます!」

「ハヤト君は真面目だねえ。じゃあ、明日も頼むよ」

「はい! 明日も頑張ります! 失礼します!」


 そう言って俺は農家のおじさんの家を後にした。


 思えばここまで本当に大変だった。

 

 海での騒動があった後、俺達は重い罰を受けることになった。

 ギルドでのクエスト請負、一か月停止。

 賠償金の請求により、全財産の没収。


 余裕のあった金は全て0になった。

 俺の貯金、エリの家を売った金、オークの王を倒したこと、講習会のときゴブリンから街を防衛したことになっていることによる多額の報酬金により、俺達は結構な財産をもっていたのだが、全て無くなった。

 まごうことなき0だった。

 

 最初は本当にやばかった。

 仕事も金もない。

 すなわち、食べていくものがなかった。


 俺は仕事を探し回った。

 他の三人も仕事を探しているようだが、正直あてにならなかった。

 人間どんなダメ人間でも、周りがもっとダメだと頑張るようになるらしい。

 俺は何とか今の仕事にこぎつけたのだった。


_______________________________



「ただいま」


 俺が帰ると、エリが近づいてきた。


「ハヤト~。よく帰った! 今日の給料を見せてくれ!」

「ああ」


 俺は返事と同時にポケットから今日貰った給料を出す。


「よし! これだけあれば、十分だ!」


 そう言うと、エリは俺の手から給料を取った。


「おい! 何に使うんだ!」


 俺の質問にエリは笑顔で答える。


「仕事だよ」

「お前、仕事見つけてきたのか……」


 俺は感動した。

 まさかエリが働く日が来るなんて……いや、ちょっと待て。


「お前、何で働くのに金が必要なんだ?」

「いや、元の金が必要なんだ。でも、大丈夫! 何十倍もしくは何百倍になる予定だから! じゃあ、行ってきま「待て!」


 家を出ていこうとしたエリの肩を掴み、俺は言う。


「お前、まさか人が汗水流して働いてきた金でギャンブルするつもりじゃないだろうな」

「うっ!」


 エリが目を逸らす。


 こいつ、救いようがねえ……。

 クズだ……。

 とんでもねえクズだ……。


「あほか! お前はあ!」


 俺の叫び声にエリが頭をかかえて、しゃがみ込む。


「だって! だって! まともな飯すら食えてねえんだぞ! このままじゃあ、私、死んじゃうよおおお!」


 エリが大声で嘆く。


「お前なあ……。皆腹ペコなんだよ! 我慢しろ! そして金を返せ!」

「嫌だ! これだけは絶対にやだ!」


 俺とエリがわずかな金をめぐって争っていると、扉が開いた。


「ただいまー!」


 アリサが帰ってきた。


「おかえり。どこ行ってたんだ?」


 俺の質問にアリサがキョトンとした顔をする。


「エリから聞いてない? サーカスのバイトだけど……」

「いつからそんなバイト始めたんだ?」

「え? 1週間前からだけど……」


 俺は今初めてそのことを知った。

 まさか……。


「アリサ、報酬はどうした?」


 アリサは首をかしげて答える。


「エリが皆に渡しとくって言ってくれたから全部エリに預けたけど……」


 やっぱりか……。


「おい。エリ。詳しく話が聞きたいんだが……」


 その場からそろりそろりと立ち去ろうとしたエリの肩を掴む。


「私は何にも知らない」


 こいつ、しらを切るきか……。

 だったら、こちらにも考えがある。


「汝の壁、崩壊せよ」


 エリに向かってデバフ魔法の呪文を唱える。

 近距離なので普通に当たった。


「おい! お前、何をした!」


 エリが俺に掴みかかる。

 が、しかし。


「ぎゃあああああああぁぁあああ!! 痛い! 痛い! ひいいっ!」


 エリが叫ぶ。


「俺が今、何をしたのか教えてやろう。お前の防御を0にしたんだ。激しい動きなんてしたら、痛いぞ。ここから逃げてもいいけど、間違ってこけたりしたら、大変だろうなあ」


「てめえ、何しやがる! 私にこんなことして、後でどうなるか「どうなるんだ?」


 エリの肩を軽くたたく。


「ああああああああ!! 分かった! 全部話す! 話します! なので勘弁してください!」


 涙目でエリが言った。


 そんな俺を見て、アリサが言った。


「……鬼だ」






「じゃあ、エリ。聞くぞ。まずアリサ預かった金はどうしたんだ?」


 俺の質問にエリが目をそらしながら答える。


「えーっと、えーーっと。あ! そうだ! 募金し「おい。噓だったらどうなるか分かってんだろうな」


 俺の一言でエリが青ざめる。


「わ、分かりました! 全部話します!」 

「よし。話せ」

「ごめん。全部ギャンブルで溶かした」

「よし! 簀巻きにして海に流そう!」


 俺の言葉にエリが真っ青になる。


「だ、大丈夫だ! もう一回だけチャンスをくれ! 私もコツを掴んだし! 後一回やれば多分勝てる! これまでの負けも全部チャラになる」


 こいつ、この期に及んでまだギャンブルするつもりか。

 本当に救いようがねえ……。


 俺がそんなことを思っているとさっきから黙っているアリサが口を開いた。


「ねえ、ハヤト。エリも反省してるみたいだし、許してあげようよ。それに私、ぎゃんぶるって言うのよく知らないけど、エリは頑張って、失敗しちゃっただけなんでしょ。だったら、私、全然怒ってないから……ね?」


 いや。全然頑張ってないし、全然反省してない。


 俺がそう言おうとした瞬間、再び扉が開いた。


「エル・マーリンさんのご自宅はこちらでよろしいでしょうか?」


 ガラの悪そうな男の二人組が入ってきた。


「どなた様でしょうか?」


 嫌な予感がしながら俺はたずねた。


「私達は金貸しを生業としている者です」

「お前ら! 家には来るなって言っただろお!」


 エリが叫んだ。


「はい。あなたがお客様のうちはそうするつもりでしたが、ですがもう客ではないので、こうしてご自宅に参らせてもらいました」

「というと?」


 俺が真っ青になってたずねた。


「こちらをご覧ください」


 男の一人が紙を見せてきた。




 そこにはエリの名前と借金の額が書いてあった。

 その額は家を一個買えるだけの額だった。


「返済期限を過ぎても一向に返す気概が感じられないので、こうして家まで訪問させてもらいました」

「さしあたっては返済が現在不可能なら、この家を差押えさしてもらいたいと思います」

「は?」


 もう色々とおしまいな気がする。


「ちょっと、待ってよ!」


 俺とエリが絶望的な顔をしていると、アリサが口を開いた。


「こんなのおかしいよ! エリは確かにちょっと失敗したかもしれないけど、それで私達の家を奪うなんて間違ってる! そっちがその気なら私だって、容赦しないよ!」


 そう言うと、アリサは戦闘態勢に入った。

 多分、ちょっとどころの失敗ではないのだろうが、この際アリサに頑張ってもらうことにした。

 相手はおそらく違法の高利貸し、すなわち、闇金だ。

 ここでアリサが二人を追い出してくれれば借金はチャラになる可能性が高い。


 俺はそこまで考え、アリサに声をかける。


「いいぞ! アリサ! やっちまえ! 闇金なんか怖くねえ!」


 俺の声を聞き、エリが笑顔になり言う。


「そうだ! そいつらに私達の家を奪う権利はねえ!」


 アリサは俺達の応援で攻撃を決意したようだ。

 アリサが男の一人に蹴りをかまそうとした。





 一瞬だった。

 蹴りを仕掛けられた男はすごい速さでアリサの背後に回りこみ、首にチョップをかました。

 アリサは凄い勢いで地面に叩きつけられ、ガクッと倒れ白目を向いた。


「それでは、お引き取り願いたいと思います」

「「……はい」」


 異世界でも闇金には関わってはいけないということを俺は学んだのだった。


_______________________________



 家を出ると、既に外は真っ暗だった。


 俺は気絶したアリサをおぶり、エリと二人でトボトボと歩いていた。


「……ハヤト。色々すまない。私のせいで家が……うぅ」


 エリが反省した声で言う。


「……いや、俺の方こそ、エリにデバフ魔法かけたりしてすまなかった」


 俺がそう返すとエリが泣き出した。


「超怖かったよおおおおおおおお!!」

「あああああああああ! 俺も怖えよおおおおおおお!! 震えが止まんねえよおおおお!!」


 俺も泣き出した。


 俺達は震える体を二人で支え合い、慰めあった。

 涙と震えは中々収まらなかった。


 しばらくして、俺達の前にルナが現れた。


「みんなこんなところで何してるの?」


 ルナの質問に対してエリが泣き叫ぶ。


「ずまん! ルナァ! わだじのせいで家があああ!」

「もういいんだ! エリ! 今日のことは忘れよう!」


 俺とエリが騒いでいるのを見てルナが言った。


「二人共、何があったのかは分からないけどしっかりして! そうだ! このラルルルール様の像を見て!」


 そう言うと、ルナは鞄から木彫りの小さなトロフィーくらいの大きさの像を取り出した。


「何それ?」


 若干冷静さを取り戻した俺はたずねた。


「知らないの!? 今、巷で熱狂的に信仰されてるドリドドドドン教のラルルルール様だよ! 素晴らしい教えで僕を導てくれるんだ!」


 意気揚々と語るルナを見て、俺は思った。


 頼むからこれ以上、聞くからにヤバい奴らと関わらないでくれ……。





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