第19話 海を楽しむ100の方法
「とりあえず、場所の担当分担すっか」
そんな俺の提案にアリサが悲痛な声をあげる。
「えー! みんなで遊ぼうよ!」
こいつ、仕事だってこと忘れてんのか……。
俺が呆れていると、エリが言った。
「まあ、夕方になったら、ほとんど人いなくなるだろ。そしたら、みんなで遊んでもいいだろ……なあ、ハヤト?」
「お、おう」
突然のエリの大人な対応に俺は驚いた。
アリサも納得してくれたようだ。うんうんと頷いている。
エリにもまだ最年長としての威厳が残ってたんだな……。
俺が珍しく感心していると、エリがどこからかビーチパラソルとビーチチェアを持ってきた。
「じゃあ、私は砂浜担当でいいよな。日焼けしたくないし。怪我人とかいたら、ここに連れてきてくれ」
そう言うと、エリはパラソルを広げ、ビーチチェアに腰掛け、瓶ビールを開けた。
すげえくつろいでらっしゃる……。
動きたくなかっただけか……。
「……まあ、いいか。アリサは岩場でモンスターが来ないか見張っててくれ。ルナは海で溺れてる人とかいないか監視してくれ」
正直、肺活量が一番あるであろうアリサに海を担当してもらいたかったのだが……。
ルナの場合、俺に攻撃魔法を当てた前科があるので、うかつにモンスターと戦わせると一般人に当てる可能性がある。
なので、こうせざる得なかったのだ。
まあ、アリサが狂戦士モードに入る可能性もあるが、そこら辺は俺がカバーするつもりだ。
俺が自分の建てた完璧な布陣に感心していると、ルナが質問してきた。
「そういうハヤトは何をするんだい?」
「お前らの監視だ」
俺の発言にアリサが抗議の声をあげる。
「えー! ずるい! ハヤトだけ皆と遊べるじゃん!」
「馬鹿野郎! 俺が一番大変だわ!」
こいつらが何か問題を起こさないか、俺は今から不安だ……。
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最初にアリサの監視から始めることにした。
というか、俺はほとんどアリサの監視をするつもりだ。
アリサが狂戦士モードに入って、問題を起こすのが一番危険だからだ。
正直、後の二人も不安だが、これに比べると緊急性は少ない。
そんなことを考えていると、アリサの担当している岩場についた。
「アリサ~。調子はどうだ!」
俺の呼びかけにアリサが岩場から顔をピョコッと出した。
「ハヤト! こっち来て! すごいよ!」
アリサの返事をうけ、俺はそっちに向かった。
アリサの居る岩場を覗くと、七輪で貝を炙って……は?
「何やってんだ! お前!」
思わず叫んだ俺にアリサが笑顔で振り向く。
「ホタテだよ!」
「答えになってねえ!」
「モンスターも来ないし、暇だからホタテでも食べようかと思って……」
アリサが俺に怒鳴られてシュンとした。
こいつ、仕事だってことまじで忘れて……うおっ!
ジュウジュウと音をたてるホタテから旨味の凝縮した香りが漂っている。
更にそれが海の香りと絡まりあい、俺の食欲を刺激する。
俺は舌なめずりした。
「ア、アリサさん。一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
アリサが悲しそうな顔をして聞き返してきた。
「そのホタテ達に何か入れたりしました……?」
「バターと醤油だよ……。でも、ハヤトに怒られちゃったしもう捨てるね……」
アリサが七輪をひっくり返そうとする。
「やめろぉ!!」
俺は叫んだ。
アリサがキョトンとした顔でこちらを見る。
「そのなんだ……べ、別に俺は怒った訳ではないんだ。ただ、余りにも美味しそうだったんでつい叫んでしまっただけだ……あの……一つ、俺にも貰えませんか?」
アリサが笑顔を取り戻した。
「うん! もちろんだよ!」
そう言うと、アリサはホタテの一つを掴み俺に手渡した。
「って、熱っ!」
思わず俺の手から貝がすべり落ちたが、アリサが器用にキャッチした。
というか、熱くて当たり前だ。
今まで七輪で炙っていたのだから。
「お前、何でそんな熱いの持ててんの?」
アリサが手をこちらに見せて答える。
「鍛えてるからだよ!」
普通の可愛い女の子の手にしか見えなかったが、突っ込んだら負けな気がしたのであえて何も言わないでおこう。
こいつは修行して影分身を取得するような奴だ。
そんくらい成し遂げるだろう……。
「じゃあ、私が食べさせてあげるよ!」
「え?」
理解できていない俺を置き去りにして、アリサが手に持った貝を俺の顔に近づけてくる。
「はい、あーん」
本人は無邪気な顔をしているが、水着のせいで柔らかそうな胸が妙に強調され落ち着かない。
落ち着け! 俺!
ただ代わりに貝を持ってもらっているだけではないか!
何、動揺してるんだ!
相手はアホのアリサだぞ!
そう自分自身に言い聞かせたところで、俺は言う。
「じゃ、じゃあ、いただきます」
「うん! めしあがれ!」
アリサがちょっと挙動を見せる度に、揺れる胸が気になってしょうがない。
埒があかないので、俺は目をつぶって貝をすすることにした。
口を開けると、アリサがホタテを口に流してくれた。
ごくり
口の中でホタテがとろける。
コクがあって、旨味が口の中で充満する。
バターと醬油がホタテと絡まりあい、まろやかな甘さが広がる。
何だ! これ! やべえ!
うますぎだろ!
俺が感動していると、
「ああ! ほっぺについてるよ!」
とアリサが言い、ペロッと俺の頬を舐め……え?
「へへっ」
戸惑う俺にアリサが笑いかける。
アリサの胸元がちらつく。
黒色のビキニの先に綺麗な谷間がみえる。
ぶっ
俺は思わず鼻血を出した。
そして、その血がアリサにかかった。
あ、やべ……。
そう思った時にはもう遅く、アリサは狂戦士モードに入っていた。
どうやら、童貞には刺激が強すぎたらしい。
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「お、どうした? いきなりやらかしたか?」
俺がアリサにデバフ魔法をかけ、何とかエリのいる方に連れてくると、エリがにやにやしながら言った。
「大方、アリサの水着に興奮して鼻血出したんだろ」
間違えではないので、反論出来ない。
俺が黙っていると、
「ぷっ。さすが、私の見込んだ童貞だ! それにしても、ただの水着で鼻血とか! まじ、ウケるわ! ははっ! あはっははは!」
さすがの俺も事実とはいえ、ここまでバカにされて黙ってはいられない。
「まあ、どこかの誰かと違って出るとこ出てるからなぁ!」
ぶちっ
何かが切れる音がした。
「……おい。お前」
エリが今まで見たことない顔している。
「……はい」
その迫力に負け、俺は思わずかしこまった返事をする。
「そこでうつ伏せになれ」
「はい」
俺は言われるがままに、うつ伏せになる。
「サキュバスの本気を見せてやる」
「え?」
その時だった。
「お客さん。調子はどうですか?」
はうっ!
やばいやばいやばい!
突然のエリの敬語によって、俺の理性がとろける。
「背中に日焼け止め塗ってあげましょうか?」
「お、お願いしまひゅっ」
俺の返事にふふっと笑ったかと思うと、何やら背中にぬるぬるしたものが垂れる。
「特別ですよ」
そんな声と共に、指で背中をなぞられる。
「あ、あ、あ」
俺の口から変な音が出る。
「だめでしょ。変な声出したら。日焼け止め塗ってるだけなんですから」
俺は口を抑える。
「よくできました」
そう言うと、体を擦りよせてきた。
水着の生地の感触が体に伝わってくる。
もうだめだ……。理性崩壊まで秒読み。
そう思った瞬間だった。
「はい! おしまい!」
「え?」
俺が理解できないでいると、突然首筋に何かが触れた。
「ぎああああぁああぁあああああぁ!!」
とんでもない激痛が俺を襲った。
どうやら、首筋にMP吸収のキスされたらしい……。




