表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第一章 ポンコツパーティはじめました!
18/43

第17話 Re:シロクロ魔術士コンビの大冒険

「エリ。俺、トイレ行ってくるわ」


 俺のそんな言葉で、エリは絶望のどん底に叩き落とされた顔をした。

 エリの表情を見て、罪悪感も湧いたが、俺には成せばならない使命があった。


 もちろん、トイレではない。

 俺とエリよりも、ぶっちぎりで非常識なアリサとルナの2人が何か問題を起こしていないか不安だったのだ。


 エリの犠牲はやむを得ない……。


 自己紹介が終わった後、談笑が続いており、自己紹介が事故紹介になってしまった俺達は空気のように扱われていた。

 まあ、だからこそエリを置いて行っても多少は大丈夫かな、と思ったのだが……。


 エリの哀しい視線をなんとか無視して、俺は立ち上がった。

 あいつらが大惨事を引き起こす前に、なんとか阻止せねば……。





 最初に、俺は武闘系の職業のテーブルへ行った。

 アリサは既にギルドで、仲間殺しとしての異名をはせている。

 最悪いじめられて泣いているかもしれない。

 早く助けに行かないと……。

 俺が居ないと、駄目なんだ……。あいつは。



「いや〜。アリサちゃんは偉いよ! 毎日、山で修行だなんて……」

「俺も見た。あれは凄い蹴りだった」

「あの時は、役立たず呼ばわりしてごめんな! これはせめてもの償いだ。この宝石を受け取ってくれ」


 大人気だった。

 アリサはムキムキの男達に囲まれ、姫みたいに可愛がられていた。

 凄い楽しそうだった……。





 次に、俺は勇者達の集まるテーブルに行った。

 ルナは中二病で変な言動をする割に、メンタルが弱い。

 きっと、今頃いじめられているに違いない。

 俺が居ないくては駄目なんだ……。あいつは。



「ふふっ。混沌の世界に舞い降りた僕から、言わせて貰えば、この呪文はあまりに息が長過ぎる」

「確かに! この呪文は長過ぎるよね。なんか別の詠唱方法を考えてみようか!」

「君もそう思うかい。僕は自らの魂をこの書に記してみたのだが」

「おおっ! これは凄い! さすがの吾輩もここまでの詠唱省略は見たことがない!」


 大変、馴染んでらっしゃった。

 他の勇者はルナの意味不明な言動を、何故か理解出来ているようだった……。

 ルナは凄いノリノリで己をさらけ出していた。



 うん、帰ろう。

 本当に俺を必要としてくれるエリのもとへ。

 俺はなんて酷い奴だったんだ……。

 あんなに健気なエリを置き去りにするなんて……。

 幸せの青い鳥は身近なところに居るんだなぁ。


 そんなことを俺が考えていると、俺が守るべき天使は自らこちらへ向かってきた。


「は、はやど〜。うぅ、ごわがっだよぉー」


 ガチ泣きだった。


「よし! 逃げよう!」


 こうして、俺達は合同講習会をサボることにしたのだった。


_______________________________



 俺達はギルドから抜け出し街の外れに居た。

「で、何してたんだ?トイレじゃないんだろ」


 やっと泣き止んだエリが聞く。


「何って、アリサとルナの様子を見に行ってたんだよ」

「で、どうだった?」

「……楽しそうだったよ」

「……そうか、楽しそうだったか」

「ああ」



「―――ざけんなよ!!」


 エリが叫んだ。


「私達がこんなに苦しんでるのに!! 有り得ないだろ!! 何でだよ!! 何が違うんだよ!!」


 有り得ないのは、エリの心の狭さである……。


「まあ、確かに疑問ではある」


 なんで、比較的パーティでも常識のあるエリと俺が、こんなに馴染めないのだろう。


「そりゃ、魔法使いは他と目的が違うからな……」

「目的?」


 冒険者の目的なんて魔物討伐以外にあるのだろうか?


「魔法使いは出会いを求めて、冒険者やってんだよ」

「は?」


 この時、俺はエリが前に言っていたことを思い出した。


「女魔法使いは大抵ビッチ」


 思わず俺の口からこぼれたそんな言葉に、エリが頷く。


「そうだ。男も女も魔法使いになる奴で、真面目に冒険者として上位職を目指して頑張ってる奴なんて居ない」


 酷い言いがかりのような気もするが、さっきエリが職業を言って笑われているのを見ると、あながち間 違ってないような気もする。


「でも、何でそんな連中が魔法使いにだけ集中するんだよ?」


 俺の疑問にエリが答える。


「魔法使いが一番緩い職業だからだ」

「えっ、そうなの?」


 魔法使いは回復やら攻撃やら何でも出来る万能職のイメージがあって、一番大変な気がするのだが……。


 そんな、俺の疑問を汲み取ったのか、エリが言う。


「確かに、魔法使いは真面目にやったら他のどんな職よりも大変だ。やること多いしな。才能でもないと、上位職なんてそうそう成れない。だからだ。誰も頑張らなくて良いって空気が出来たんだよ!」


 どうやら、ゲームのようには上手くいかないらしい。


「じゃあ、魔法使い系統のテーブルって……」

「ああ。上位職なんてほとんど居ない地雷テーブルだ。上位職の奴はよっぽどコミュニーケーション能力が高くないと、クソ面白くもない真面目な奴として、処理される。だから本当に魔法の適正があって真面目な奴は大抵僧侶系統の職につく」

「じゃあ、僧侶系統の職につけば良かった……」


 そしたら、賢者さんと同じテーブルで楽しかったろうに……。


「いや、それは無理だ」


 俺の妄想はそうそうに破壊された。

「何でだよ?」


 俺は若干食い気味で聞いた。


「僧侶はクソ真面目に10年近く修行して、やっと上位職になれる職業だ。才能があろうとなかろうと地道な努力が必要なんだ……。私とハヤトみたいに楽して上位職に就きたい、と思うような奴には無理だ」

「……そうなのか」


 俺は否定出来なかった。

 今もこうして、辛い現実から逃げているし……。


 俺は疑問が浮かんだ。


「でも、何でアリサとルナはあんな溶け込んでんだよ? あいつらは俺達より頭おかしいだろ……」

「アリサは当たり前だろ……。私達が遊んでる間も頑張ってたんだから……」


 何も反論できねえ。

 エリが続ける。


「まあ、武闘系は素直な奴が多いしな。人が頑張ってたら普通に褒めるんだよ。まあ、その分性欲にも正直だが……」

「アリサが危ねえ! おい! 助けに行くぞ!」


 立ち上がった俺の腕の裾をエリが掴む。


「大丈夫だよ。性欲に正直って言っても、相手から擦り寄られない限り大胆なことはしない。……というか、女を守りたいからか、ロリコンが多いから……」

「やめろ! そんな生々しい話聞きたくない」


 嫌がる俺にエリが続ける。


「変態率が高いのは勇者だ。勇者はまともな奴は聖人だが……変な奴はぶっちぎりでやべえ。まあ、だからルナは受け入れられたんだろうな。変な趣味に走らないといいが……」

「……変な趣味って?」


 俺が恐る恐る聞く。


「パーティで彼女作っておいて、それが他の奴にとられると興奮するって言う奴とか、パーティ全員に猫耳つけること強要する奴とか、クエスト中にモンスターとして扱われると興奮する奴「もう、いい」


 これ以上、聞いたら色々とやばい気がした。



 どうやら、ゲームとはこの世界は大分ズレてしまっているらしい。


_______________________________



「つーか、これからどうする?」


 寝転がって、俺は言う。


「私に良い考えがある!」


 エリが急に立ち上がって、答えた。


「何だ? 言ってみろ!」


 どうせ、ロクな考えじゃないんだろうが、聞くだけ聞いてみよう。





「今から、魔法使い達に復讐しよう!そうだな、モンスターのフンを集めてあいつらの家のポストに入れてやろう!」


 予想以上に酷かった。

 小学生かよ……。


「いや、さすがにまずいだろ……。講習会ぶっちした上、犯罪は……」


 止めようとする俺にエリが言う。 


「そういや、さっきハヤトが居なくなった後、あいつら急に空気が美味しくなったとか言ってたな」

「よし! やろう!」



 こうして、俺達、シロクロ魔術士コンビは復讐のため、自らの手を汚すことを決意したのだった。


_______________________________



 俺達は、100体近くのゴブリン達から逃げていた。


「おい! お前のせいだぞ! お前がゴブリンのフンにしようとか言うから!」

「いや、そんなこと言ったら、最初にこの計画思いついたエリのせいだろ!」


 俺達は森に行って、ゴブリンの巣でフンを集めていたのだが、どうやらゴブリンに見つかったらしく、追いかけられていた。


「どうすんだよ! ハヤト!」

「俺のデバフ魔法は2、3体にしか使えねえ。この数じゃ、無理だ」

「はあ! もうおしまいだ!」


 俺達が街の近くの草原で走っていた。

 壁の向こうにギルドが見える。

 ああ、あそこに居れば良かった……。

 そんなことを考えていた時だった。





「2人とも、遅くなってごめんね」


 何と、目の前にアリサが現れたのだ。


「お前、何で……?」

「私、モンスターが半径1キロ以内にいると、臭いで分かるんだ!窓を見たら、2人がゴブリンと戦ってるから手伝いに来たの!」


 お前がモンスターだよ……。


 アリサがばった、ばったとゴブリンを吹っ飛ばしていく。

 アリサのメイスは特注で、先端がゴムのようになっており、殴られると吹っ飛んでいくようになっている。

 勿論、攻撃が当たったモンスターはゴムといえど、凄い勢いなので、大抵一発で戦闘不能になる。


 アリサがやって来た方から、他の武闘系の職業の奴らもやって来た。


「アリサちゃん、急にどうし……おい! 凄い量のゴブリン達じゃねえか! みんな、やるぞ! 誰か、ギルドに戻って、他の職業の奴らを呼んできてくれ!」





 その後、ただ巣を荒らされて怒っただけの憐れなゴブリンが倒されていくのを、俺とエリはひたすら見ているだけだった。


_______________________________



「おい! 英雄の帰還だあ!」


 ギルドに戻ると、多くの冒険者達から歓声を浴びた。


「本当に危なかった。ちょっと遅かったら、街の人達に被害があったからね〜」


 すみません。俺達があんなことしなかったら、そもそもゴブリンは出てきてません。


「しかし、あの量のゴブリンに2人で立ち向かうとは凄い勇気だ! 勇者の我輩も感服したよ」


 すみません。2人で逃げてただけです。


「しかし、よく気づいたね。確かに今日みたいに、冒険者が一箇所に固まっていたら、街を守れない可能性もある。ゴブリン達も攻めてくるはずだ。君達は天才か!」


 すみません。天才って言うか、人災です。


「しかも、街の人達が怯えないように、2人でこっそり行ったんだろ! って、お前ら2人はあのオークの王を倒したやつらじゃねえか! 助けは必要なかったみたいだな!」


 いえ、助けていただいて本当にありがとうございますした。多分、2人だったら死んでました。


 隣のエリを見ると、真っ青な顔をして、下を向いている。


 目の前に、俺達が復讐しようとした魔法使い達が現れた。

 もしかして、ただ復讐しようとしただけってばれたか……。

 いや、もうこの際その方がマシだ。





「「「「さっきは、ごめんなさい!」」」」


 何と魔法使い達が全員頭を下げたのだった。


「いや、マジ凄いわ! 俺達がバカにしていいような奴らじゃなかったわ」

「私、あんなに格好いい2人。初めてみたよ! 正直、憧れるわ!」

「私さあ、親に言われていやいや冒険者やってたんだけど、真面目に魔術士目指してみようかなって思っちゃったよ!」

「なあ、俺に魔法を教えてくれねえか!」

「ずりいぞ! 俺にも、教えてくれよ! 先生!」

「そうだ! あんた達は俺達の先生だ!」

「「「「せ・ん・せ・い! せ・ん・せ・い! 」」」」


 先生コールが始まった。

 ははっ。お前達ー。俺達は生徒のポストにゴブリンのフン詰めようとしたクソ教師だぞー。



 俺達は地獄のような褒め殺しを受けたのだった。

 正直、罪悪感でおかしくなりそうだった……。

 どうやら、このギルドにはドクズが2人いるようです。


_______________________________



「今日は2人共、凄い活躍みたいだったね! 僕がせめてもの労いにご馳走を用意したから、是非食べてくれよ!」

「ふふっ。ルナが1人で作ったんだよ!」


 俺達がヘトヘトになって帰ってくると、アリサとルナが迎えた。


「……ああ……うん。ありがとう」


 俺達は席に元気なくついた。


「今、アリサと持ってくるね! 行こう、アリサ!」

「うん!」


 そう言って、アリサとルナが持ってきた巨大な鍋には、この前倒したクレイジーボアの頭が浮かんでいた。


「ふふっ。珍味のボアを料理してみたんだ!」

「2人で食べてね! 私達は何か違うもの食べるから!」

「……そうか……うん……ありがとう」


 もう偽りの活躍を否定する気にもならない。


 俺とエリは置いてあったスプーンで一口食べ……うっ、何だこの味?!


 まずいとか、そういう次元じゃねえ!

 思い出した!

 ルナの弁当、マジでまずかったんだ!

 本当は「うまい」って多少酷くても言うつもりだったんだ……。

 だけど、不味すぎて、「微妙」って言うのが精一杯だったんだ!

 ルナが休んだ記憶がないのも、無理して全部食べて腹壊して、俺自身も休んだからだ!


 全ての記憶が繋がったところで、俺がスプーンを置こうとした瞬間だった。

 エリが、鍋をかきこみ始めたのだった。


 はあ! こいつ舌がいかれてんのか!

 そう思ったが、エリは辛そうな顔をして食べている。

 そうか! こいつ! これで自分の罪を償おうとしているのか!

 自分に苦しみを与えて、綺麗になろうとしているのか!


 エリが急に止まる。

 泣きそうな顔をしている。


 俺は小さな声でささやく。


「エリ。2人で綺麗になろう。もう俺達のしたことは誰も分からない。でも、俺達の心には罪悪感は残り続ける。だったら、ここで償おう! 正直、この量を食べたら、どうなるか分からないが……なあに、俺達は最強のシロクロ魔術士コンビだ! これを乗り越えて2人でスッキリしようぜ!」


 俺達は凄い勢いで喰らいはじめた。


「嬉しいよ! 2人がこんなに喜んでくれるなんて! 作ったかいがあったよ!」

「ルナ、凄いね! シェフになれるんじゃない!」

「ははっ。それも良いかもね!」


 それだけはやめろ、と突っ込む余裕もなく、俺達は喰らい続けた。

 自らの罪を浄化するために……。





 こうして、俺とエリは自業自得か、嘘から出たまことか、1週間食中毒になったのだった……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ