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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第一章 ポンコツパーティはじめました!
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第16話 自己紹介に言葉はいらない!

「嫌だ! 絶対、私は行きたくないっ!」

「いや、行かないと1ヶ月クエスト行けない上に、お金とられちゃうんだって!」


 さっきから、俺とエリのそんな押し問答が続いていた。


 今、話しているのはギルド合同講習会のことである。

 ギルドに登録している冒険者は参加が義務付けられており、パーティの1人でも行かないとパーティ全員が罰金プラス1ヶ月のクエスト禁止である。


 金に余裕はあるが、さすがに罰金と1ヶ月クエスト禁止では、文無しになりかねない。


「エリー! 行こうよー!」

「そうだよ! 呪われた集いが僕らを呼んでいるのだから!」


 アリサとルナが言う。

 

 すると、エリが嘘泣きしだした。


「ひっぐ、ひっぐ、絶対行かないもん! 私、絶対行かないもん!」

「泣いても連れてくからな」

「なっ! 女の涙に弱いことに定評のあるエロ魔術士のセリフじゃねえ!」

「大体、お前嘘泣きじゃねえか」

「何でわかった?!」

「いや、何でって言われても……」 


 ひっぐ、ひっぐとか口で言ってる時点で、どう考えても嘘泣きだろ。


「魔王ですら、これで騙してきたのに!」

「どんだけ、ちょろいんだよ、魔王……。これ以上、俺の中の魔王像を壊さないで……。大体、本当に泣いてる女はそんなに可愛くない、むしろ汚い」


 さすがに、ここ何日かアリサといいルナといい、モノホンの泣き虫を見てきたから分かる。


「ちょっと! ハヤト! 今の私のことでしょ!」


 アリサが怒る。


「ふふっ。僕は泣いてるアリサも可愛いと思うけどね」

「……ルナ。自分のこと棚に上げてるみたいだけど、お前も汚いからな」

「はうっ」


 ルナが変な声を上げる。


「ハ、ハヤト。さすがの私でも傷つくよ……。よく考えたら、ハヤトってよく昔私のこと泣かしたよね……」

「確かにそんな気がするけど……。すまん。何で泣かしたのかあんまり覚えてない」

「ひ、ひどい。私は覚えてるよ。初めて、朝早く起きてハヤトのためにお弁当作って上げたら、なんて言ったか覚えてる?」


 えっ、何? 俺、そんなイベント起こしてたっけ……。

 過去の自分が羨ましい。女子にお弁当作ってもらうとかどんな勝ち組だよ。


 まあ、ルナからの弁当だが……。


「私は、ずーーっと覚えてるよ。……ハ、ハヤト、一口食べて、わ、私が勇気出しておいしいか聞いたら一言『微妙』って、言ったんだよ。私ショックで次の日学校休んで1日泣いてたんだよ! な、何で忘れてるの?!」

「ひ、ひどい」

「何てクズだ……」


 パーティの女子達からの視線が痛い。

 どうやら、全員を敵に回してしまったらしい。

 でも、何で俺はそんなことを忘れてしまっているのだろう……。

 いくら、何でもルナが学校休んだりしたら覚えてるばずだが……。



「て、ていうか、今その話は関係ねえだろ! エリ! 何でそんなに行きたくないんだよ」


 自分に向かっている矛先をエリにけしかけた。


「今はルナの弁当の話の方が大事だろ!」


 こいつ、ゴリ押し返ししてきやがった。

 さあ、どちらに傾く。


「もういいよ。ハヤトに期待しても無駄だし」

「今はエリだよ!何で行きたくないの?」


 よし、勝った!

 エリが、がっくりうなだれる。


「……わかったよ。行くよ。ハヤト、お前もそう言えば、お前も魔術士だったなあ……。くく、後で泣いて私に謝るなよ」

「何だ、急に……」


 俺が、その意味を理解した時には、色々手遅れだった。


_______________________________



 ギルドに着くと、既に多くの冒険者が集まっていた。


「えー、魔法使い系統の職業の皆さんはこちらにお集まりください」


 ギルドの職員の人達が、職業別に座るテーブルを案内している。どうやら、大まかな職業で分けられて、講習会は行われるらしい。


 あまり、自分のパーティ以外の人と関わったことがないので、新鮮な感じだ。


「じゃあ、私こっちだから」


 アリサが俺達から離れる。


「勇者は、こっちみたいだ。じゃあ、諸君また会う日まで」


 と、ルナが大げさな挨拶をして、離れて行った。


「じゃあ、俺達も行くぞ」


 エリは動かない。


「どうしたんだよ。まさか、ここまできて駄々をこねるんじゃ「ハヤト!!今日は協力プレーで行くぞ!」


 急にエリが大きな声を出した。

 周りの人がこっちを見てくるから、やめてほしい。

 恥ずかしいこときわまりない。


 エリも周りの人に見られて恥ずかしかったのだろう、顔を赤らめて小さな声で言う。


「す、すまん。だが、お前が居てくれて心強くてな。今日初めて私はこの講習会を乗り越えられるかもしれない! 頑張ろう! 2人で生きて帰ろう! そうだな、2人とも生きて帰れたら、私が手料理を振る舞ってやろう! 特別だぞ!」


 やめろ! 変なフラグを立てるな!

 というか、たかが講習会で大げさ過ぎだろ。


 しかし、嬉しいことを言ってくれる。

 俺が居て心強いなんて……。

 正直、そんなことを言われたのは、小学生の時、同級生から当番の仕事を押しつけられて以来だ……。


「わかった! なんか、よく分からんが2人で頑張ろう!」

「おう! 私達シロクロ魔術士コンビなら、どんな困難だって乗り越えられるさ」


 こうして、俺達は魔法使い系統のテーブルの方へ向かったのだった。


 このとき、俺は何か肉体的にきついトレーニングでもあるのだろうなんて甘い考えをしていた。

 今となっては、後悔しかない。


_______________________________



 テーブルに着くと既に多くの魔法使い系統の仕事の人達が集まっていた。


 テーブルに着くと隣の人に話しかけられた


「おっ!新しい人達だ! って、エリじゃん」

「エリ、知り合いか?」


 エリは、何も答えず下を黙って向いている。


「おい。どうしたんだよ。挨拶くらいしろよ」


 俺が言うとエリが小さな声で呟いた。


「……あっ……その……こんにちは……」


 何か、普段とキャラ違くないか……。


「ははっ! 相変わらずだな、お前!」


 違う人が会話に入ってきた。


「こいつ、誰だっけ?」

「ちょっ、あんた、忘れたの? 一緒にクエスト行ったでしよ!」


 どんどん、人が会話に入ってくる。


「えー、マジで思い出せない」

「お前、冒険者失格だろ〜。仲間の名前くらい覚えといてやれよ! エリンギだよ。エリンギ」

「あー! 思い出した。あの終始無言で突っ立てたやつな」

「やめろよ〜。本人目の前にいるんだからさー」

「なんだよ。お前もエリンギって……ぷっ。マジで傑作だわ。エリンギって、考えたの誰だよ」


 やめたげて!

 いたいけなうちの子をいじめないで!

 もう泣きそうだから……。


 よし! ここは俺がガツンと言ってやろう。


「……あ、あの……ちょっと……エリがかわ「あっ!こいつ、例のあいつじゃね!」

「あー、あの金魚の糞さんでしょ〜。私、知ってる。あのアルトさんのパーティで、足を引っ張ってただけっていう」

「何それ最低じゃん」


 はい。無理でした。

 帰りたい。


 エリを見ると、自分から話題が逸れたのが嬉しかったのか、若干笑顔だ。

 こいつ、人が助けてやろうと思ったのに……。


 こうして、俺達の地獄の講習会が始まった。


_______________________________



 リーダー格っぽい人が口火を切った。


「じゃあ、ここらへんで自己紹介でもしようか」


 きた!

 ここで上位職である黒魔術士アピールすれば、少しはこいつらも俺を見直すだろ!

 頑張ろう!ここで全てを挽回してやる!


「ねえ、ただ名前とか所属いうだけじゃつまんなくない? 趣味とかも言わない?」


 バカ! 世の中には人に言えない趣味の人だっているんだぞ!

 皆が皆、出会いを求めて趣味してる訳じゃないんだぞ! このクソビッチ!


 という、俺の必死の心の中の叫びが届くはずもなく、名前、職業、趣味を言うことが決定した。


 趣味か。正直、この状況で言えるものはない。


 異世界に来てまでこんなことで悩みたくなかった……。


 次々と自己紹介が進んでいく。

 分かったことは二つ。


 趣味はアウトドア系もしくは、音楽ばっかりだ。

 もう一つは下位職である魔法使いが多いこと。

 もしかして、趣味が多少変でも黒魔術士ってだけで尊敬されんじゃねーか。


 という、俺の希望をエリが自らの身をもって打ち砕いてくれた。


「……な、名前はエル・マートンで……。職業は……白魔術士……」


 その瞬間、誰かがぷっと吹きだした。

 周りを見ると、ニヤニヤささやきあってる奴らもいる。



 何だと……。


 ど、どうしてだ。

 俺の常識が通用していない。


 そんな戸惑う俺を置き去りにしてエリが趣味を言った。


「趣味は……ゲーム……です」


 ついに爆笑に包まれた。


 バカ!

 確かに、お前とやったゲームは楽しかったよ。

 でもな、こんなところでそんなこと言ったら、バカにされるに決まってるだろ!


 エリが泣きそうな顔をして席に座った。

 もうエリに手料理をふるまってもらえることは、なさそうだ……。


 俺がお前のパーティの仲間として汚名返上してやる……!

 本当は無難に読書とかで流すつもりだった。

 でも、仲間のピンチを見逃すわけにはいかない。


 俺は席を立つ。


「え、えっと、名前は……黒山ハヤト……。職業は……く、黒魔術士だ。趣味は……」

 ここでためる。行くぞ、俺は!



「ナンパです!!」

 急激にテーブルが静かになった。


 そして、誰かが呟いた。

「……きもっ」





 ……死にたい。



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