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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第一章 ポンコツパーティはじめました!
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第15話 ロクでもない仲間達


「それで、これは何のクエストなんだ?」


 外出したくないと、また駄々をこねることが予測されたので、寝ている間に連れてきたエリがたずねた。

 正直、ここまで本当に大変だった。

 エリを背負って山を登ること30分。エリが起きて、状況を説明し、納得してもらうのに1時間。

 この時点で俺はへとへとだった。

 

 もう帰りたい……。


「クレイジーボアの討伐だよ!」


 アリサが答える。


 クレイジーボアとは簡単にいうと、巨大なイノシシである。

 獰猛で冒険者を見ると、真っ直ぐ突撃してくる。

 が、動きは単調なので、討伐はそこまで難しくないとされる比較的初心者向けの魔物だ。


「まあ、ボアならいいか……」


 エリも納得してくれたようだ。

 正直、これ以上駄々をこねられたら、本当に帰ろうかと思っていた。

 まあ、勝手に連れてきたのは俺達なのだが……。


「ふふっ。今夜の宴はイノシシ鍋としゃれこもうじゃないか!」


 ルナが言う。


「クレイジーボアって食えんのか……」

「噂によると、結構美味しいらしいよ! 珍味なんだって!」


 俺の疑問にアリサが元気良く答えてくれた。

 まじか……。うまいのか……。

 疲れ切った俺に再び頑張る理由ができた気がした。

 我ながら食べ物につられてというのは情けないと思うが……。


「ていうか、アリサ楽しそうだな」

「うん、みんなでクエストに行けるの久ぶりだしね!」

「まあ、俺とエリもクエスト行くのひさっ……うっ」


 あ、危ねー。思わず本当のことを言いそうになってしまった。

 エリがこちらを睨んでくる。


 アリサがキョトンとしていたが、少しして、


「あっ! そうだ! 修行しててね! 私、新しい技、身につけたの!」


 と言った。

 どうやら、気づかなかったらしい。

 エリがほっとした顔をしている。

 今のは色々危なかった……。


 すると、ルナが楽しそうに言った。


「ふふっ。技か……。わざわざ言うってことは相当、自信があるみたいだね。ぜひ、僕にその技を見せてくれないかな?」


 こういうやり取りに憧れてたんだろうな。

 こいつ、基本この性格のせいで友達いないし。

 まあ、俺も人のこと言えないが……。


「良いよ!」


 そういうと、アリサは急に体全身を高速で動かし始めた。

 

 ピュン。ピュン。


 そんな音とともにアリサの体は次第に輪郭を失っていった。





 アリサが二人になっていた。


「「「え?」」」


 俺達は全員、ほとんど同時に驚き声を上げた。


 すると、二人のアリサが口をそろえて言う。

「「すごいでしょ!! 影分身だよ!!」」


 いや、凄いとかそういう次元じゃないんだが……。

 どうやら、アリサは俺とエリの知らない間に人間をやめてしまったらしい。


 もしかして、この世界ではこれが普通なのか?

 そんな疑問を解消するために、エリにたずねる。


「なあ、お前、影分身のできる人間、今まで見たことあったか?」

「あるわけねーだろ。魔物ならまだしも……。人間がこんなことできるなんて、正直、まだ理解が追いつかない」


 アリサは冒険者を辞めて、サーカスに入ったらどうだろうか?


 というか、昨日のルナの魔法習得といい、今日のアリサはの大道芸といい、人間離れしすぎている。

 素直に羨ましい。俺も何か人間離れした技術を修得して異世界無双して、美少女にちやほやされたい……。


 なんて、俺がしょうもないことを考えていると、突然ゴンッという鈍い音がした。


 見ると、アリサが木に頭をぶつけたようだ。

 一人にもどっている。

 どうやら、覚えたての技で感覚がまだきちんと働いてなかったようだ。


「おい、大丈夫か?」

「うぅ……。多分大丈夫ぅ……って、血だぁ! うわぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!! あはっ、あはははははあっははははあはっははははーーーーーーーーーーーー」


 やばい。スイッチが入った。

 見ると、アリサが武器を構えてルナに向かって行く。


「えっ、えっ! ど、どうしたの!? アリサ! わ、私、な、何か気に障ることしちゃったかな!?  あ、謝るから!い、命だけは取らないでぇーーー!」


 ルナもパニックになる。

 やはり逆境に弱い。


「汝の風、沈黙せよ」


 俺がアリサに向けてデバフを発動する。

 さすがに慣れた状況なので、魔法は一発で当たり、アリサはバタッと電池が切れたように倒れた。


「ふぅ……。初めて見たけど迫力やべぇな」


 エリが呟く。そうか、エリはまだ見たことがなかったっけか。


「ルナ、大丈夫か?」


 俺がたずねると、ルナが抱きついてきた。


「は、はやどぉー。ごわがっだよぉーーー!」


 泣きじゃくっていらっしゃる。


 俺は気づいた。

 アリサとルナは確かに人間離れした才能を持っている。

 だが、同時に人間離れした残念さを持っている。

 はっきり言ってマイナスである。


 俺はそんな彼女達を少しでもうらやましいと思ったことを恥じたのだった。




 そのときだった、突然凄い速さでクレイジーボアが来たかと思うと、アリサを口で掴んで持って行ってしまっ……えっ??


「ア、アリサーーーーーーーーーーー!!」

「ちょっ、待て! はぁーーーー!!」


 俺達は突然の出来事にパニックになる。


「と、とりあえず追うぞ!!」


 


 少し追って、気づいたのだが、アリサをくわえているせいかボアの動きが大分遅い。

 絶好の攻撃チャンスだ。

 デバフを放とうとしたのだが、森の中で木が多く、当たりそうにない。

 それにさっき1発使ってしまっているので、あと2、3発撃てるかどうかといったところか……。


「ここは私に任せてくれ!」


 俺が悩んでいると、エリが言った。

 何か策があるらしい。


「ハイスピードムーブメント」


 エリが高速移動魔法を唱える。

 そんなこともできたのか。そういや、ゲームの中でも使ってたな……ん、おい、まさか……?!



 そのまさかだった。こともあろうにエリはゲームの技をボアにむかって放ったのだ。


「正拳突きっ!」


 高速移動魔法からの正拳突きは彼女の十八番だった。ゲームの中での。

 偶然にも、現実でも高速移動魔法は使えたようだが、やはり正拳突きは無理だったようだ。


 エリのへなちょこパンチは、ボアに見事に直撃!

 が、効果はいまひとつのようだ。


 彼女は怒ったボアに見事に反撃されふっとばされ、木の上に乗ってしまった。


「あほーーーーーーーーーーーー!!」


 俺は思わず叫んだ。


 その声に気づいたのか、ボアがこちらに向かってきた。

 もう、泣きたい……。


 だが、チャンスだ。真っ直ぐボアがこちらに向かってくるのなら、デバフをあてるのも比較的容易だ。

こちらは、走らなくていいので狙いが定めやすい。


「汝の風、沈黙せよ」


 当たったか……!?


 ボアは止まらない。

 なんと、口にくわえていたアリサを盾にしたのだ。


「はあ!こんなのムリゲーだろっ!」


 思わず口から出た。


 俺、ここで死ぬのかな?

 その時、向かってくるボアが転生前最後に見たトラックと重なった。

 

 転生前のことが走馬灯のように思い出される。二回目だ。

 ちっ。転生前も後もロクなもんじゃなかったぜ。




 ロクなもんじゃない。

 

 その時、俺の中でその言葉が妙にしっくりきた。


「ははっ。そうだよこの感覚だよ」


 俺は思い出した。


 俺はいつだって、転生前も後も理不尽で不平等でゲームバランスぶっ壊れのこの最低な現実と戦ってきた。

 他の奴なら簡単に逃げるような理不尽に耐えてきた。



 誰かに馬鹿にされようと、ないがしろにされようと、迫害されようと、無視されようと、それでも一人の引きこもりとして前向きに生きてきた。


 人はみっともないと罵るかもしれないが。


 だがそれでいい。

 ダサくて上等。


 笑って生きてやる。 

 例え、配られた手札がブタでも俺は勝利を信じて戦ってやる。


 見てろよ! 現実!

 引きこもりのプライド見せてやる。

 みっともなくあがいてやる。


 ムリゲーなんて、俺にとっては日常茶飯事。

 ここで終わるつもりはねえ!





 前を向く。

 


 状況を把握する。

 目の前に標的が一体。

 使える手札はデバフ魔法1発。ただし、敵には恐らく当たらない。


 何か使えるものはないか?


 周囲を見渡す。


 その時、気づいた。

 俺の手が握られていることに……。


 ルナだった。

 必死に泣きそうな顔で、俺の震える手を握ってくれている。


 怖くて逃げ出したいはずなのに、俺の手を離さない。


「……待ってろ。今、お前の出番作ってやる」


 ルナの覚えた魔法は攻撃系が多い。

 だが、このままじゃ使えない。

 アリサに当たりかねないからだ。


 ったく。アリサといい、エリといい、世話が焼ける。

 この世界で出会ったろくでもない仲間たち。

 ずっと一人で戦ってきた。そんな俺に仲間がいるのだ。

 これがチートでなくて何なのか。


 なんだ、俺、最強じゃん。


 やるしかねえ。

 策は練った。


 後10m。


「汝の心臓、沈黙せよ」


 俺は少し前に行き、デバフを木に放った。

 一時的に木のHP、すなわち生命力を0にしたのだ。


 どうやら、成功したらしい。


 目の前で木が倒れる。


 ボアは急に止まれず思いっきり木に躓く。

 転んだ衝撃でアリサが放り投げられた。

 アリサはエリと同じ木の上にに乗った。

 

 よし、しめた!!


「ルナ! 今だ! 何でもいいから、強力なのを一発頼む!」

「う、うん!」



 ルナが唱える。


「我に集いし、混沌よ! 破壊に赴け!!」


 その瞬間ルナから複数の黒い光が発せられ、倒れているボアに向かっていく。

 見事、命中しボアが丸こげになった。


「でかしたぞ、ルナ!」


 なんだやれば、できるじゃないか。

 なんて考えていた俺に何故か、ルナの放った光線の一つが直撃したのだった。


_______________________________



 目が覚めると既に夜だった。


 アリサとルナが泣きながら俺に抱きついてきた。

 どうやら、アリサは自分が気絶したこと、ルナは俺を気絶させたことを泣いて謝っているようだ。

 あの後、エリが俺を回復してくれたらしい。

 どっちも、嗚咽がひどすぎて、何を言っているのかよく分らない。

 つーか、鼻水とか、涙とか、色々出てて汚ねえ。


「もう、いいって。わざとじゃねんだから」


 そう言っても、二人は離れない


「エリ! 二人を離してくれっ!」


 エリはエリでゲームと現実をごちゃにしたことが恥ずかしかったのか、真っ赤な顔して無言で下を向いている。



 こいつら、やっぱめんどくせえ。



 こうして、俺のパーティは一応完成したのだった。




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