第14話 悪夢の前夜
目が覚めると、最悪の一致団結を目にした。
「かっこいい! かっこよすぎだよ! 女の子なのに、僕なんてかっこよすぎだよ!」
「ふふっ。君はよくわかってるね」
アリサとルナが、目の前でいちゃついていた。
「ハ、ハヤト! 助けてくれ! 私の中で何かが壊れる……」
見ると、エリが真っ青な顔をして、助けを求めて来た。
誰だってこんなところにいたらおかしくなるだろう。
「可哀想に……。きょうはもう温かくして寝ろ。お前はよく頑張ったよ……」
「うん。……ありがと」
そういうと、エリはフラフラと自室に戻っていった。
「明日、ルナもいれてみんなでクエスト行かない?」
「却下」
アリサの問いに俺は即答した。
「「何で!?」」
アリサとルナが口をそろえて言う。
「……危ないからだ」
正直、エリと俺は魔法使える気がしないし、ルナは最早何をしでかすか検討すらつかない。
行ったところで碌なことにならないのは、目に見えている。
ここで俺は、二人を納得させる素材見つけた。
「ルナ。お前、そのデカい剣を使うんだろ……。残念だけど、アリサは血が苦手だからうちのパーティは剣は禁止なんだ。だからお前はうちのパーティじゃ無理だ」
アリサが残念そうな顔をする。
ふっ。勝った。誰も論破できまい。
俺が勝利を確信した瞬間、ルナがとんでもないことを言い出した。
「大丈夫だよ。この剣は僕が最強になるまで抜けない仕様になってるから!」
「は?」
その瞬間、アリサが満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、明日はクエストで早いだろうから、もう寝るね! 楽しみだなぁ!」
そう言ってアリサが自室に戻っていく。
俺は驚きで思考が止まっていた。
「じゃあ、僕も……」
「いや、お前は待て」
「どうしたんだい? ハヤト」
「いや、その剣について詳しく教えろ」
「詳しくも何も。天界で天使から授かったものだけど……」
やはり、そうか。
俺はさらにたずねる。
「抜けないっていうのは?」
「ふふっ。特別だ。ハヤトにだけは、教えてあげよう。僕はこの剣を天界で授かったとき、一つ注文をつけたんだ。ただ人からもらうだけっていうのじゃ面白くないからね。せっかくだから、高みを目指そうと思ってね。僕が最強になったとき、初めて抜ける剣にしてもらったんだ」
駄目だ、こいつ。救いようがねぇ……。
「どうしたんだい? ハヤト。僕の負っている闇に恐れおののいたのかい?ハヤトもまだま「あほか!! お前はぁ!!」
「ひぃっ」
思わず、叫んだ俺にルナが恐れおののいた……。
「どっちにしろ、クエストにお前は連れていけねえよ」
「えっ! そ、そんなぁ! ど、どうして?」
「だって、唯一の攻撃手段すらまともに、使えないんじゃなぁ」
「うぅ……」
どうやら、言い返せないらしい。泣きそうになっている。
少し可哀想になってきた。
希望だけでも見させてやるか。
なんてことを考えた俺は一冊の本を取り出した。勇気の書だ。
「ルナ。チャンスをやろう。ここに魔導書がある。このなかの魔法をどれか一つでもマスター出来たら、明日のクエストに連れていってやろう」
「ほ、ほんとぉ? や、約束だからね! ぜ、絶対だからね!」
ルナは俺から勇気の書をひったくり、読み始めた。
まあ、無理だろうな。
聞いた話によると、優秀なアルトですら勇気の書の一番簡単な魔法を習得するのに、一週間かかったらしい。
うちのパーティに犯罪者はいらない。
明日にでもこいつは、どっか別のパーティに押し付けよう。
大丈夫。
仮にも勇者だし、みんな快く引き取ってくれるだろう。
そんな事を俺が考えていると、ルナが叫んだ。
「出来たぁ! ハヤト出来たよぉ!」
「あ? 噓つくなよ。本当かどうか簡単に分かるんだからな」
この世界の魔導書は、取得したか簡単に分かるように、載っている魔法を習得した人物がその魔導書を持っているとその魔法のページが赤字になるようになっているのだ。
ルナはそれを知らないのだろう。
こいつ犯罪者の上に嘘つきとか……。
どうやら、嘘つきは泥棒の始まりというのは本当らしい。
俺はルナの持っている勇気の書を覗き込んだ。
真っ赤だった。全ページ。
は?
「簡単だったね。ハヤト。余裕もあったし全ページマスターしちゃったよ。もしかして僕とクエストに行きたいから手加減してくれたのかな?」
「有り得ねぇ。おかしいだろこんなの……。お前、何したんだ?!」
思わずどこかの三下のようなセリフを吐いてしまった。
「どうって、ただ読んで理解して呪文を覚えただけだけど……」
それが難しいのだ。内容も難しいし、呪文も簡単に覚えられるものではない。
俺は思い出した。ルナは基本何でも出来るのだ。
勉強は俺と遊んで全然していないくせに常にぶっちぎりのトップ。
スポーツは何をやらせても校内新記録の一位。
美術はコンクールに出せば入賞。
歌えば、その美声に誰もが涙する。
ただのチートである。
転生前も無双していた彼女がここでも無双している。
転生前も後も俺は引きこもりだというのに……。
「納得いかねえ……」
俺は思わずつぶやいた。
その晩の俺の枕はなぜかぐっしょり濡れていた。




