第11話 やはり再び引きこもりになった件
俺達3人はリビングの長テーブルに全員集合していた。
「えー、第6回、前回の緊急討伐クエストの特別報酬としてもらった勇気の書をどうするのかについて会議〜」
「よっしゃ! ビール開けていいか? ビール!」
エリが開幕と同時に叫んだ。
「絶対駄目だ。少なくとも、1回目と3回目と4回目はエリがビールを飲み始めてから、ぐだぐだになっただろ! アリサ取り上げろ!」
「了解!」
アリサが瓶ビールを取り上げる。
エリは抵抗したが、さすがにバーサーカーのアリサの力には敵わない。
ビールを取り上げられてしまった。
「うぅ……。私のビール……」
エリが残念そうな顔をしている。
「全部終わったら飲ましてやるから、我慢しろよ」
「やだ! やだ! 風呂上がりの今じゃなきゃ、やだ! び・い・る! び・い・る!」
姿もあってか、もはや本当に子供にしか見えない(子供はビール飲まないが……)。
パーティの最年長である威厳を少しは見せて欲しい。
俺達がここ最近こうして会議をしているのは会議の名前の通りだ。
前回の緊急討伐クエストで、俺とエリは2人でオークの王を倒したことになっており、特別報酬として勇気の書をもらったのだが……。
「ったく。なんでこの本、勇者しか使えないんだ……」
この本には上級クラスのパーティなら、必須の勇者専用の魔法がいくつか載っているので、是非とも有効利用したいと考えたのだが……。
「何か、名案あるやついるか?」
「やっぱり、勇者にこのパーティに入ってもらうのが、1番いいんじゃないかな?」
アリサがビールを取り返そうとするエリを軽く流しながら言う。
「……まあ、確かにそれが一番なんだが」
1週間前から募集をかけているのだが、一切志望者が来ないのだ。
まあ、仕方ないと言えば仕方ない。
勇者は基本パーティのリーダーとなる存在であるから、初期のメンツであることが多い。
すなわち、基本最初にパーティを作るのが勇者であり、勇者がパーティに途中参加ということはあまりないのだ。
そして、もう一つの理由が、やはりパーティのメンバーが1人もギルドでまともな評価を受けていないどころか、3人仲良くマイナスだからである。
「じゃあ、誰か勇者に転職する?」
「それは絶対無理だ。この前分かっただろ」
割とこれは一番最初に出た案で、全員ノリノリでギルドへ判定してもらいに行ったのだったが……。
結果は、全員G判定の可能性0だった。
全員、心の中で自分は勇者に向いていると勘違いしていたので、ショックで翌日は1日寝込んだ。
ちなみに、勇者としての評価の順は、アリサ、エリ、俺だった。
アリサはなんと身体能力は勇者合格圏内だったのだが、魔法が一切見込みなし。
エリは、性格、身体能力が不合格、俺は……まあ、察してくれ。
「やっぱし、行き詰まりかー」
「だったら、ビール飲んでいいだろ!どうせ考えても結論はでねーよ!」
ここまで、一切議論に参加してないエリが会議を終わらせようとする。
「出来れば、今日までには、方向性とか決めたかったんだけどなぁ」
「まあ、最後のパーティの1人の勇者くらい気ままに待とうぜ。焦って変な奴入れちまったら、元も子もないだろ」
エリが何とか会議を終わらせようとする。
まあ、確かに4人パーティの最後の1人を適当に決めてしまうのも良くない。
ちなみに、どうしてこの世界のパーティがどこぞのRPGよろしく最大4人まで、と決まっているのかは簡単に説明すると、環境の問題らしい。
緊急以外に常に大人数で行くと不要意にモンスターを刺激してしまい、近隣の住民が襲われたり、強いモンスターが集まって生態系が壊れてしまうらしい。
それで影響を与えない人数が最大何人までかの調査が行われた結果、4人に決まったらしい。
「アリサ、ビール返してやれ」
「えっ、でも……」
「会議は終わりだ。お前もトレーニングに行ってきていいぞ!」
「えっ! 本当に? 分かった! 行ってくるね! 」
そういうと、アリサを手に持っていた瓶ビールをエリに渡し、外へ出た。
「あいつ、本当に修行好きだな」
「まあ、元々真面目な奴だからな。というか、あいつが修行始めたの、俺達のせいだしな……。ははっ!」
と俺が自嘲的に言うと
「うぅ……。酒が不味くなる。やめろ……」
とエリが瓶ビールを開けながら言った。
アリサは前回の緊急討伐作戦から、毎日修行し続けけている。
彼女は自分がこのパーティで一番強いにも関わらず、一番弱いと勘違いしており、あれ以来クエストにも参加せず、1人で一日中修行している。
何でも、俺とエリに1日でも、早く追いつきたいらしい。
抜かすも何も最初から俺達の方が弱いし、既に遥か後ろに置き去りにされている。
それで、俺達はアリサに2人でクエストに行っていて欲しいと頼まれたのだが……。
無理だった。
俺は使い勝手の悪いデバフ魔法だけ、エリも回復魔法しか使えない。つまり、2人共攻撃できないのである。
最初の内は、それでも採取クエストとかをやっていたのだが、次第に単純作業に飽きてしまい……。
ある日、エリが買ってきた魔法のボードゲーム、すなわち自分達のMPを注入することでプレイできるボードゲームなのだが、これにハマってしまった。
正直、異世界のゲームなんて中世レベルで目の肥えた俺にはつまらないだろ。
と思っていたのだが、この世界のゲームは魔法のおかげで異常な進歩を遂げていた。
ボードゲームとは形だけで、実際はMMORPGのVRゲームといったところである。
はっきり言って、こんなに面白いゲームは初めてだった。
プレイ方法は簡単である。
ボードゲームから伸びるコード的な物の先にあるアイマスクをつければ、自身のMPが現実の世界での電力のような働きをして、ゲームが開始するのだが、その先にはリアルなゲーム世界が広がっているのだ。
アイマスクから、脳とボードゲームがリンクすることで、体を動かさずとも、ゲーム世界で体を動かし、五感を働かせることが出来るのである。
すなわち、現代の日本にはない超リアル体験型ゲームなのだ。
ゲーム内容はよくあるRPGゲームなのだが、容姿、性別を自由に決められ、まるでそれが最初から自分の身体であったようにプレイ出来る。
そして、俺とエリがこのゲームにどハマりした理由はRPGゲームとしては当たり前のことなのだが、自分の好きな職になれることである。
ゲーム世界での、俺は身長185cmの細マッチョなイケメン金髪勇者、エリは身長195cmでムキムキの黒髪イケメンの男パラディン。現実とは遠くかけ離れた憧れの存在へと、俺達は変身することができるのだ。
普段、まともにモンスターを倒したことのない俺達がまるで本当に倒したかのように、錯覚できるのである。
更に、魔法により、遠くにいる他のプレイヤーとも通信プレー出来るため、まるでリアル体験ネトゲといった感じなのだ。
そもそも、異世界に来た俺は既にこんな感じで、リアルネトゲ体験中なのだが、いかんせんまともな活躍が出来ていなかった。
ゲームの方に楽しさを覚えてしまった。
エリはエリで、そもそもゲーム自体やったことがなかったらしく、仲間と協力するターン制のこのゲームにゾッコン状態である。
こういうわけで、俺達は次第に外に出なくなり、今ではすっかり引きこもりゲーム廃人なのである。
アリサがいないのを見計らってエリに言う。
「エリ。最近1週間、魔法使ってないんだけど……」
「ゲームの中で、いっぱい使ってるだろ……」
「分かってるだろ。現実の話だよ……。俺、またアリサとクエスト行くことになった時、魔法使えるかな……」
「大丈夫だ……。私も使える気がしないから……」
「……やばくないか?」
「……やばいな」
「外に出よう」
「……うん」
こうして、俺達は1週間ぶりに外に出ることになったのだった……。




