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全員集えば天下無敵の最強パーティ!!  作者: 引きこもりんりん
第一章 ポンコツパーティはじめました!
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プロローグ

黒山(くろやま)ハヤトさん、あなたはついさっきトラックに轢かれて亡くなりました」


 目が覚めると、頭に金色の輪に背中に巨大な翼に白装束の女性がいた。

 セリフと姿から俺はその人が天使様であることをすぐに理解した。


「やっぱり、そうですか……」


 不思議と自分の死は簡単に納得できた。

 確かにトラックに吹っ飛ばされた記憶はある。

 が、自身の体に傷はない。五体満足にピンピンしている。

 そして―――


「不思議と悔いはありません」


 俺は自分の死に様を思い出した。


_______________________________



 俺の命日。すなわち、ついさっきのことだが。

 俺は自宅の警備にとどまらず、街をパトロールしていた。

 決して、「高校やめて、FXで食っていくから、融資して!」なんてバカなことを言って、家族全員から人格全否定されて、死にたくなったから、街を徘徊していたわけではない。

 

 しかし、日頃、自宅の警備に励んでいるためか、日光が非常に眩しい。

 日陰に避難することにしよう。

 

 周囲を見渡す。

 おっ! あそこなんていいんじゃないか?

 俺が目をつけたのはビルの間にできた小さな路地だった。

 ビルのおかげで休むには、丁度良さそうな日陰が生成されている。

 

 俺は日陰に向かって一歩を踏み出した。

 

 

 ―――その時だった。


「おい! おい! 良いだろ! ちょっとくらい付き合えよぉ!」

「やめてください! 離してください!」


 俺の向かう裏路地から若い男女の声が聞こえる。

 俺は咄嗟にビルの陰に隠れ、様子を見た。

 ガラの悪い金髪の男が、制服を着た女子の手を引いている。

 んっ。というか、あれは俺と同じ高校の制服か……。


 どうやら、女子高生が暴漢にナンパされているようだ。

 俺は今日、街の警備員でもあるのだ。この状況は見逃せない。

 どうするか?


 もちろん、助けよう!

 女子高生を不良から、助けて彼女ゲットはラブコメじゃテンプレだ。

 ここで我が実力を発揮すべし。


 だが、相手は見るからにヤバい奴。こんな装備で大丈夫か?

 俺の装備はジャージのみ、明らかに防御不足。

 攻撃に利用できるもの、何かないか?


 ポケットをまさぐった。何やら、布の様なものがあった。

 俺は引っ張りだした

 こ、これは―――


 



 パンツだ!

 綺麗なパンツがそこにはあった。

 

 って、なんの役にも立たねーよ!

 何でこんなところにパンツがあるのだろうか?

 そういや、洗濯したあと、ポッケに突っ込んだんだっけか。

 あと、持っているのは財布のみ。

 小銭でパンパンに膨れている。


 辺りを見渡すが、人はいない。

 携帯も家に置いてきてしまったので、助けを呼ぶことは不可能そうだ。


「おいおい! 良いから、やらせてくれよ!」


 見ると、男が更に女子高生に迫っている。


 ヤバいヤバい。

 考えろ! 考えるんだ!

 その時だった。

 俺の頭にかつてないくらいの名案が浮かんだ。


_______________________________



「おい! もういいじゃねえか! いい加減にしろよ!」


 暴漢が女子高生の腕を掴む。


「―――だ、誰か!」


 女子高生が叫ぼうとした瞬間―――





「大丈夫か? 俺が助けに来たよ!」


 俺は裏路地に堂々と入った。

 女子高生も男もポカンとした顔をしている。


 それもそのはずだ。

 俺の顔はパンツに覆われているのだから。

 すなわち、俺は頭にパンツを被ったのだ。

 

「お、おい! 何だ! お前は!?」

「俺か? 俺は通りがかりの正義の男! この街の守護神だ!」


 嘘は言ってない。普段は自宅の守護神だが、今日は街の守護神でもある。


 男は想定外の事態に困惑しているようだ。

 そりゃそうだ。パンツを被った人に町で会うことなんて、早々ないからな。

 とは言え、状況は俺の想定通りになっている。

 

 作戦を次のフェーズに移そう。





「おりゃっ!」


 俺は口を全開にして、右手に隠し持っていた財布を男にぶつけた。

 財布に詰まっていた小銭が宙を舞う。


「うおっ!」


 男は不意を突かれたのか、よろめいた。

 これでチェックメイトだ。

 俺は足を後ろに思いっきり引いて、蹴り上げた。

 突然の不意打ちコンボからか、男は尻餅をついた。


 パンツによるミスディレクション。

 財布という目くらましを有効に利用するために、俺はパンツを被って登場し、相手の目線を釘付けにしたのだ。


「君、大丈夫かい?」


 俺は女子高生に声をかけ……いなかった。

 女子高生の「じょ」の字も残っていなかった。


「まあ、いいか……」


 正義の男はこんなことでくじけなのだ……いや、結構ショックだ。

 メルアドくらい教えてもらいたかった―――





「ぐはっ!」


 俺は突然、後頭部を殴られた。


「おいおい! 兄ちゃんよお! 覚悟はできてんの?」


 どうやら、男は回復し、立ち直ったようだ。

 俺は衝撃で膝をつき、地面に手をついた。


「……すみましぇん。できてましぇん」

「うるせぇ! ぶっ殺してやるから、覚悟しろ!!」


 男は倒れた俺の背中を蹴った。

 痛い痛い。めっちゃ痛い。


 追い打ちをかけるように、男は蹴りを連発してくる。

 俺は膝を手で抑え、丸まってしまった。

 こうなったら、もう反撃は不可能だな。

 防御に徹しよう。

 俗に言うあれだ―――フルボッコだどん☆





「変質者がいるって言うのはここかい?」

「そ、そうです!」


 あ、あれはポリスマン!

 と、さっき助けた女子高生だ!

 どうやら、警察を呼んできてくれたようだ。


「やべっ! ポリ公か!」


 男は逃げ出した。

 助けに入ったはずが、助けてもらっては情けないの極みだが、一先ず助かった。


 俺は立ち上がり、警察の人にお礼を―――



「君、署まで一緒に来てもらおうか?」

「へ?」


 咄嗟に俺は自分自身を指さした


「そうだよ。君だよ。君以外に誰がいるんだ?」


 何を言ってるのか、理解できない。

 困った俺は頬をいつもの癖で頬をかこうとして、気づいた。





 そういや、頭にパンツ被ってんだった……。


「当たり前だろ。君、昼間から、頭にパンツなんて被って、おかしいんじゃないか?」


 ぐうの音もでない。

 女子高生の方を見ると、こちらをゴミを見るような目で見ている。


 うん。逃げよう。

 俺は裏路地の警察が入ってきたのとは、逆方向の男が逃げたほうに逃げ出した。


「待て!」


 警察が当然、追いかけてくる。

 だが、甘いな。

 待てと言われて、待つような奴は、最初から頭にパンツを被ったりはしないのだ!

 そこらへんが分かってないあたり、新人なのだろう。


 俺は走った。速く、速く、そして速く!

 走れ、俺!

 捕まったら、最後、社会的なデッドエンドは免れない。


 裏路地を抜け、飛び出した瞬間だった。

 大きなクラクションが俺の耳に飛び込んだ。

 どうやら、裏路地を抜けた先は車道だったようだ。

 パンツのせいで視界が狭くなっていた。


 そこからのことはあまり覚えていない。

 体が宙を浮いたことだけを覚えている。



_______________________________



「それで、ここに至るというわけですよね! 私、感動しました! 自信を持って、天国にお送りできます! ああ、自らを犠牲にして人を助けるなんて……」


 天使様は感動してくれているらしい。

 まあ、そりゃそうだ。

 死んでまで、女子高生を助けたのだから。

 パンツさえ、被っていなければ、今頃は……いや、ちょっと待て。


「……あの」


 恐る恐る、天使様に俺は話しかける。


「はい? どうしました?」


 俺の行いに感動してくれた天使様に悪いが、恐ろしい事実に気づいた。


「―――俺って、パンツ被って死んだんですか……?」


 次の瞬間、天使様が「あっ」という様な顔をした。

 俺は絶叫した。


「ああああああああああああ!!」


 その日、静かで神聖な場所である天界に俺の叫びがこだました。



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