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7話「いつも通りに」

「ねーねーみこりん、いいの?」


 ひょこひょこと命の後ろをついてくる四葉の足取りは重い。校長室を出た時の命の雰囲気を察してなのかあまり話しかけようとはしなかったが、射撃場についてやっとなにか思い立ったように彼女は口を開いた。


「何が?」

「何がって……さっきの人たちにあんなに冷たくしてさ」

「冷たくはしてないでしょう?」


 四葉は頬をふくらませる。納得していないようだ。


「むー、なんかみこりん……むー」

「みゅ……」


 いきなり四葉に両側から頬を掴まれ、引っ張られる。それほど痛くはないが、いきなりだったので命の口から変な声が漏れた。


「しーちゃんいなくなって悲しいのはわかるけどさー……なんてのかなぁ、もっと……そう、前みたいにぱぁーっとはしゃごうよぉ。なんか今のみこりんしーちゃんみたい」

「んむにゅ……ね、姉さんみたい?」


 僅かに目に涙を浮かべながら、四葉が頷く。あと少しでもつつけば泣き出してしまいそうだった。


「そう、そうね……ちょっと気を張り詰めすぎてたのかも。うん、そうよね。私たちはぱぁーっとしてないとね」

「うん……うん! そうだよそうだよ!」


 途端に態度を変えて、嬉しそうに笑いながら四葉はその場で跳びはねる。

 そんな四葉の頭をなでてやりながら、命は射撃場を見渡した。

 授業中のはずだが、生徒の姿はない。一年生は明日が学園戦争ということもありそれの説明だろうが、二年生や暇を持て余した三年生あたりが居てもいいはずだがどういうことだろうか。


「ん……人居ないねー」

「そうね。みんなどこかに……っと、ちょっとごめん」


 ポケットの携帯が震えるのを感じて、命はそれを取り出し画面を確認。どうやら校長からのようだった。本体下部のボタンを押し、命は携帯を耳に当てた。


「もしもし?」

『ああ、命君。ちょっと校門まで来てくれないかね?』

「どうかしましたか?」

『いやなんというか、蒼生の生徒がのう……』

「わかりました。今向かいます」


 それだけ言って、命は通話を切る。何やら問題が発生したようだ。しかも、その相手はどうやら明日の対戦を控える蒼生学院の生徒らしい。

 命は大きく息を吐いてから、四葉とともに校門へと向かうことにした。


「あ……四月一日さん、ちょうどよかった。今校門の方で」

「うん、知ってる。刻路さんも一緒に来てくれる?」

「え? ええ、私で良ければ」


 途中、皐月とも合流し三人で校門へと向かう。どうやら今は修嗣と一緒ではないようだ。

 一同は足早に昇降口を抜け、校門が見えてくるとそこに人垣が出来ているのを見つけた。おそらく射撃場に誰も居なかったのはこのせいだろう。

 命達は群衆をかき分け、その奥まで進む。と、


「あら、やっと本命のご到着かしら?」


 命の顔を見るやいなや嘲笑するように笑い、見下したような視線を向けてきたのは、蒼生学院の生徒。青い縁取りがされた紺のブレザーに、胸の赤いリボンは確か三年生のもののはずだ。


「あなたは……」

狡噛時雨(こうがみしぐれ)……蒼生学院戦闘科代表。そして……明日あなた達の相手をすることになっているわ」


 腕を組み、口を開いている間はずっと見下した口調と目で命を見ていた。


「おい、こんどは命ちゃんに手ぇだそうってのかよ」


 ふと、群衆の隅で聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、そこには一年生の少女を抱いた修嗣が片膝をついていた。少女の頬は赤く染まり、何かで思い切り叩かれたのだというのは想像に難くない。


「あら、正当防衛よ。突っかかってきたのはそっちじゃない」

「あれがそう見えるってのかよ!」


 殴りかかろうとした修嗣の手を、皐月が止める。なぜ止める、と言いたげな顔で修嗣は皐月を睨んだが、彼女は怯まずに首を横に振るとしぶしぶ修嗣は拳を下げた。


「これ以上問題は起こさないで。何の用?」


 命が聞くと、いやらしい笑みを浮かべて時雨は右目が隠れるほど伸びた前髪を弄りながら肩を震わせて笑った。


「あはっ、ズタボロにやられた白崎がどんな感じか見に来ただけよ。四月一日栞もいなくなって、そろそろ本当にやばいんじゃないあなた達」

「……姉さんがいなくたって私たちはやれるわ」

「ん? ……はぁん、なるほど。じゃあ、あなたが四月一日命? 確かあの事件のちょっと前にSランクになったばかりなんでしょう? 実質A+が調子に乗らないでよね」

「Sランクは厳密な審査でその力が認められて初めて決定されるものですよ。つまり彼女にはそれに足る実力があるということです」


 修嗣の前に出て皐月が時雨を睨みつけると、一目見て分かるほど機嫌が悪そうに顔をしかめた時雨が掴みかからん勢いで声を張り上げた。


「黙ってなさいよランク無し。平和な場所でのうのうと訓練ばかりしてるド素人連中が私らに口を出さないでくれるかしら?」


 これ以上時雨を刺激すれば、明日の学園戦争をするまえにここで戦争が起きかねない。それは非常にまずい。学園戦争前のトラブルは御免だ。


「待って、様子を見に来たのならあなたも満足でしょう。今日のところは帰ってくれないかしら。どうせ嫌でも明日は顔を合わせないといけないのだし」


 命が仲裁にはいるが、それが逆効果だったのか時雨は怒りを鎮めるとともに薄気味の悪い笑みを浮かべる。誰がどう見てもよくないことを考えているのは明白だった。むろん、誰もそれを口に出したりはしないが。


「そう、そうね……あはっ。それじゃあ、明日楽しみにしてるから」


 それだけ言い残し踵を返して去っていく時雨の背中を、命は視界から消えるまでずっと眺めていた。

 命が敵から視界を外したのは、それから数分後、四葉に肩を叩かれた時だ。


「みこりん……大丈夫?」

「ええ……」

「ごめんなさい、余計にこじらせちゃったみたいで」


 いつの間にか皐月も命の側に来くると、深々と頭を下げる。

 だが、きっと皐月がああ言わなくとも時雨はなんだかんだと言ってきたに違いない。きっとこの結果はさけられないものだったのだ。


「大丈夫よ。それよりも、明日のことを考えましょう。……それと、ありがとう刻路さん」

「え?」


 皐月が目を丸くして首を傾げる。白い髪が首の動きに合わせてふわりと舞った。

 その容貌が、周囲の生徒達の視線を一瞬奪う。美人だから、というのもあるだろう。だがそれ以上に、新品の陶器のように透き通った白い色をした皐月の髪は、皆が焦がれていたあの四月一日栞を彷彿させるのだろう。


「さっき私の事フォローしてくれたでしょう。でも、そうね……あいつの言う通りだわ。私はまだ姉さんのようにはなれないのかもしれない」

「そんなこと……ないと思いますよ」

「そーそー、みこりんはみこりんだもん。しーちゃんよりいいとこもたくさんあるって、私は知ってるよ」


 四葉もいつの間にか加わり、両サイドを美少女が占領する。命が男だったらどんなに理想的なシチュエーションだっただろうか。そう思ってなのか男性陣の羨望の眼差しを浴び、それを一瞥して命は空を見上げた。


「そうね……ありがとう、二人とも」

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