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2話「楽できたのは昨日まで」

「あら? 私はあなたのそれ、いいとおもうけれど」


 一切不純を含まない純白の白髪を風になびかせながら、少女が一見わからないほど薄く笑みを浮かべた。

 ほとんど無表情のそれだが、少女が意思のこもった微笑みを向けるのはただ一人、今少女の目の前にいる妹だけだ。


「そんなことないよ、私のは灰色がかってて……まるで曇り空みたい」

「その表現が良くないわ。あなたのは銀色であって灰色じゃない。無色()の私と違って色がある。綺麗よ、とても」


 遠慮がちに目を伏せる妹の頬を、少女はそっと指先で撫でた。

 少しだけ潤んだ瞳が、少女の眼を見つめる。


「お姉……ちゃん」





 一般科、戦闘科共に全生徒が校庭に並び、壇上に上がる白崎学園校長――志津摩弦徳(しずまげんとく)に注目する。

 壇の横にはそれぞれ左右で一般科と戦闘科に別れた教員達が並び、校長の斜め後方には命がまるで彼を守るかのように一人立っていた。

 校長は壇上から生徒達に向かって微笑むと、周囲に目を凝らし静まり返っているのを確認すると咳払い。


「皆さん、お久しぶりです。先の学園戦争による悲しい事件。それを乗り越え、白崎学園は今日から再び皆さんと一緒に歩き出します。この学園再興に至るまでに、多大な尽力を尽くしてくださった多くの方々に感謝の言葉を。ありがとう。そしてなにより、あの戦いに勝利を導き学園を救ってくれた、この学園を守る白崎の双刃に感謝を」


 校長が振り向き、命に目を合わせると深く頭を下げる。

 全校生徒の視線を浴びた命は、目を逸らしながら軽く頭を垂れた。

 皆が一様に命を称えるような目を向け、気まずくなると命は校長に目で先に進めてくれと合図する。

 にっこりと校長が笑い、命の意思を察したのか正面に向き直った。それから先は、よくあるありふれた学期最初の校長の挨拶というやつだ。

 ただただ、退屈な時間。






 時折生徒と顔を合わせると、向こうから会釈をしてくれる。

 そんな光景を眺めながら、命は校長の背を眺めつつ彼の居城へと向かっていた。


 白崎学園は一般科と戦闘科に別れ、戦闘科の授業内容はもっぱら戦闘訓練で、さっそく校庭の横に設けられた射撃場から銃声が聞こえてくる。命もこの戦闘科に所属してはいるが、この学園に在籍している戦闘科の四月一日『姉妹』は特例として普段の授業をある程度無視して行動してもいい権利が与えられている。無視といっても、自由がそれほど効くわけではなく多くが校長の付き添いで他の学園にいったりと半ば金の掛からない護衛のような扱いだ。


「さて、では中で。少し相談したいこともあるしの」

「はい」


 命は短く答えると、自分の部屋だというのに先に校長室に入れと言わんばかりにドアを開け、閉じないように押さえる校長の横を通り過ぎ入室する。


「コーヒーはいるかね?」

「いえ……あ、お茶で」

「ほっほっほ、そうじゃったそうじゃった」


 歳を感じさせる掠れた声で笑い声を立てると、校長は手際よく湯のみにお湯を入れ急須に高級そうなパッケージの茶葉を入れる。

 そして命が応接用のソファーに座る頃には、程よい暖かさの緑茶が注がれた湯のみが目の前のテーブルに二つ。

 校長も命と対面の席に座ると、一度湯飲みに入った茶をすすり一息ついてからテーブルに数枚の資料を広げる。

 命がそれに視線を下ろすと同時に、校長が口を開いた。


「復帰早々問題発生じゃよ」

「学園戦争……」


 命が呟いた言葉に、校長が頷く。

 資料には蒼生学院と書いてあるのが見える。確か白崎町の管理区画のすぐ隣の学校だったはずだ。


「噂は広がるものじゃな。早過ぎる気もするが……」

「今、白崎学園には『四月一日栞』がいない。それだけで攻め入る理由に足るのでしょうね。白崎は順位もそれほど高いわけでもないというのに」


 白崎学園のように戦闘科を保有する学校が全国で1200校。白崎学園は序列578位と半分を少し超えた程度でしかない。それも、白崎の双刃がいてこその順位でしかないのだ。


「しかし向こうは序列769位。こちらを落とせば少なくとも100位以上繰り上がる可能性はあるからじゃろうな」

「まあ……全体の技量が低いのにここまで勝ち上がったことを評価されてる白崎を潰せば、そうなるでしょうね。私たちは降りかかった火の粉を払っただけだというのに。迷惑極まりない」


 白崎は一度足りとも学園戦争をこちら側から申し入れたことはない。だが、あれは仕掛けることはできても断ることができない。だから、今までは出された挑戦を受け正当に戦い勝ち続けてきただけだ。


「あっちは白崎の倍は広いからのう。今の序列の配給じゃあ市民を賄えないのかもしれない」

「市民のため……か」


 命は眉をひそめると、そっとお茶を口に含んだ。

 戦闘科を保有する学校はそれぞれ一定量の領地を持ち、同じ戦闘科を保有する学校と学園戦争という学生同士の戦いを仕掛けることができる。

 その勝敗によって、勝者は敗者の領地の何割かを奪い、両校はその成績によって序列の変動が起き、国から序列に見合っただけの配給がもらえるのだ。


 しかも、この配給は学校が管理する土地の市民たちに行き渡る物資も含まれ、序列が低い学校の領地に住まう人々の生活はかなり苦しいものとなっている。

 そうして、自分の領地を取られ取ってしながら領地を広げていく国盗り合戦のようなものが常識となったのが今の世界。

 自分が住まう土地の学校の力で、生活が決定してしまう世の中なわけだ。


「知っての通り、白崎はもうこの白崎町しか領地がない。負ければ即終わりなわけじゃ、だから……」

「ええ……お任せを。とはいえ、もっと使える仲間はほしいですね。さすがの私もジョン・ランボーやメイトリクス大佐ではないので」


 白崎は勝っても相手を恨まず奪わず。だからいつも領地は広がらない。そのせいで、負ければ即領地の全損。つまり学校自体がなくなり市民と生徒は相手の学校に奪われるか中立地区行きだ。


 学園戦争の戦火から隔離された地域。それが中立地区。そこでは学園戦争で一時だけの、つまりはレンタルできる生徒を養成する学校があり、序列100位以上並みの市民への待遇が待っている。とはいえ条件が色々あるらしく、わざと負けてさっさとそこに入ることはできならしい。

 白崎は負けるわけにはいかない。だから中立地区に入ることは選択肢にないが、今回は学園戦争――学戦方面でお世話になるかもしれない。


「中立地区から呼びますか?」

「うむ、君もそう言うと思って既に手配してある。白崎の双刃の名を出したら一発だったよ。さすが、Sランクなだけはあるの」

「買いかぶり過ぎですよ。他の化物と一緒にしないでください」


 命は言いながら、テーブルに置かれた資料に目を通す。

 戦闘地域は城崎町東部一帯。参加人数は選抜メンバー十名以内とある。予定日は明後日だ。


「明後日……早いですね」

「うむ、それまでになんとか……頼んだよ。命君」

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