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1話「戦場へ」

 四月。少しだが気温も上がってきて、先月よりは大分過ごしやすくなったようにも思える。

 春休みも終わり、ここ白崎町の学校もほとんどが今日始業式を迎えることとなるだろう。


 それは、四月一日命(わたぬきみこと)が通う白崎学園も例外ではない。

 といっても、白崎学園は先の『戦闘』で半壊したため、他校と違い修繕が済むまでの約三ヶ月という、冬休みまで巻き込んだ長い春休みになってしまったのだが。


「如月乳業のヨーグルト……これもありかな」


 体格に見合わぬ縦長の大きなバッグを背負い、カップのヨーグルトを食べながら命は空を見上げた。後ろで結った銀色の髪が風で揺れる。

 空は晴天、見る限り雲は一つもない。これなら干した洗濯物も午前中には乾くことだろう。学生にとっても絶好の登校日和だ。

 こと春休み明けともなれば、進学進級で新しい学校やクラスと今までとは違う世界でやっていくのだから、いろんな期待や不安があるだろう。そんな大事な日だというにも関わらず、命は意思の宿っていない虚ろな瞳で青空を見つめていた。


 しかしその足取りに迷いはなく、心ここにあらずでありながらも器用に通行人を避け逸れることなく通学路を進み続ける。

 途中、命の着ている制服の襟に描かれたある紋章と背負うバッグを見て、すれ違った他校の生徒達から尊敬と畏怖の混じった視線を向けられるが、それを気にせず命は歩き続けた。


 命からすれば、むしろ教科書や筆記用具といった学生らしい物が入った鞄のほうが珍しい。 

 命は薄く笑うと、背負ったバッグに触れる。

 指先に感じる鉄の硬い感触とその重さが、命を普通ではない学生たらしめるものの存在を主張していた。


「おっはよーみこりん!」


 背後から、駆け足で近づいてくる少女が一人。

 白崎学園に通い、今日から命と同じく三年生になる椎名四葉しいなよつはだ。

 みこりんというのは彼女が考えた命の愛称らしく、四葉が命を本名で呼ぶことは滅多にない。


「おはよう、四葉」

「うんうん、久しぶりに見るみこりんはなんかちょっと美人になったかにゃー?」

「あまり変わらないと思うけれど」

「そーお? んー……そうかも!」


 ぱっと笑顔で笑う四葉に釣られるように、命も僅かに笑みを浮かべる。

 それから二人は、どちらかが誘うわけでもなく自然と一緒に登校する流れになった。

 四葉がとりとめのない話を振り、それに命が返す。いつも見ていた、日常。


「ねーねーみこりん、そっち(戦闘科)は今日は何するの?」


 僅かに四葉の視線が命の背負うバッグに向けられた。


「そうね……前ので大分やられたから、メンバーの再編成とか……あと色々。姉さんもいないしね」

「ええ!? しーちゃんどうかしたの!?」


 四葉が言うしーちゃんとは、命の姉であり同じ白崎の双刃と呼ばれる――白崎学園で最強を謳われる二人の内の一人、四月一日栞(わたぬきしおり)のことだ。

 栞は命よりも数日早く生まれただけなので、同じ学年同じ戦闘科ということもあり、命は家と学校とでいつも彼女と一緒にいた。

 そんな栞は――あの戦い以降この町から消えた。


「あの戦いのあと、すぐにどこかへ行っちゃったのよ。それから戻ってきてないわ」

「やっぱ……あんなことあったからかな? 学戦で死人が出るなんて」

「学戦でも稀に死人は出るわ。それに、相手が相手だったし、こうしてまだ私達の町があるだけ幸運よ。……でも、あれは異常だった。あの学校も、いえ……あの戦い自体が」


 声色を低めに変えて命が言う。

 四葉は気まずくなった空気を紛らわすためか、突然両手を打ち鳴らした。


「ま、まあ考えてもしゃーないよね。せっかく学校も始まるんだしぱぁーとやっちゃいましょー!」


 そう、学校が始まる。

 それはつまり、この町の管理を任された白崎学園が再び戦場へと舞い戻ることを意味する。

 学校としての機能を取り戻した以上、ここはまた学園戦争の中に身を投じる事となるのだ。

 本日、四月一日。序列578位、白崎学園は学園戦争へと復帰した。

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