色摩美々(♀)
わたしの母はAV女優でした。
父は昔、家に借金を残して逃げ、母は女手ひとつでわたしを育ててくれました。そんな母を、わたしはすごく尊敬しています。
しかし、世間はAV女優である母を差別しました。近所の人たちは、わたし達母子に冷たく接しました。小学校に入ると、ひどいいじめを受けてきました。
納得がいきませんでした。
性は人の営みなのに、なぜ世間は性に関わる仕事を差別するのでしょうか?
臭いものにフタをするように扱われ、よくわからないからと過剰に恐れられている気がします。
絶対におかしい。間違っている。
そう思ったわたしは、ある夢を抱きました。
大人になったら、物凄く魅力的で色っぽい女性になり、総理大臣を奴隷にして、日本の政治を裏で操り、水商売への差別を無くそう。
笑うんじゃねえ。
わたしは、マジです。
これが、わたしの人生の目標なのです。
母の友人であるAV女優や風俗嬢から様々な技術を学び、経験を積み重ね、十七歳にして、わたしは立派な痴女になりました。また、総理大臣に近付ける程の地位を手に入れるために、学業にも真剣に取り組みました。高校を卒業したら、東京大学の法学部を受験するつもりです。
優等生で巨乳で痴女。
ボンクラ男子共にとっては、たまらない存在でしょう?
わたしに誘惑できない男子はいないはずでした。
・・・・・・しかし、そんな痴女としてのわたしのプライドを、あの男がへし折ったのです。
・・・・・・金屋武。
あの武骨な角刈りマッチョは、わたしのハイレベルな誘惑をことごとく無視してきました。
むかつきました。
許せませんでした。
総理大臣を奴隷にする夢を持つ、優秀な痴女であるこのわたしが、たかが同い年の高校生のガキひとりを虜にできないなんて、認めたくありませんでした。
わたしは何度も金屋武につきまといました。もう無理やりやってしまおうと思って、一度公園で襲ったのですが、残念ながら逃げられてしまいました。
金屋武はギャルゲー病という奇病を患っていて、他の女子にも言い寄られていました。しかし、彼はどの娘にも手を出しませんでした。
・・・・・・こいつ、おかしいんじゃないかと思いました。
健全な男子高校生が、こんなにも女の子にモテモテになって、冷静でいられるわけがありません。そんなのは異常です。
ひょっとして、ゲイなんじゃないかしら?
わたしは疑いました。
・・・・・・やはりゲイでした。
今朝、趣味で自分を縄で緊縛し、学校の教室のロッカーに閉じ込もっていたわたしは、中から教室にいる二人の様子を見て確信しました。
金屋武の、風宮旬を見る熱っぽい目つきは、恋する乙女のそれでした。
ゲイだったのです。だから、わたしがどれだけ高尚な誘惑をくりかえしても、まったく見向きもしなかったわけです。ようやく納得がいきました。
しかし、あきらめたくありませんでした。金屋武は、ゲイにしておくにはもったいない。すごくいい体をしているのです。食いたい!すっげえ食いたい!
極論ですが、もしかしたら、総理大臣がゲイだという可能性もあるのです。たかが同性愛者だからという理由で、まだ十七歳のガキである高校生を堕とせないようでは、痴女の頂点には立てません。
そこで、わたしはある作戦をたて、それを実行することを決意しました。
早朝に、ロッカーの中から、風宮旬の秘密を目撃したことで、思いついた作戦です。
ロッカーから出してもらって、縄を解いてもらい、金屋武を軽くからかったあと・・・・・・、
教室を出る直前、わたしは風宮旬に向かって、こんなことをささやきました。
「さっきね、ロッカーの中から見ちゃったんです。風宮君が着替えてたところを」
耳元に口を近づけます。
「女装のこと、ばらしてほしくなかったら、昼休み、生徒会室に来てください。お話があります」
「・・・・・・・・・・・・っ!」
風宮旬の顔が、ゆっくりと青くなっていきました。表情がこわばります。
金屋武が、こちらをにらんでいます。
「じゃあ、風宮君、よろしくね」
そう言うと、わたしは教室を出ていきました。