止まりだした世界03
……
目を瞑りながら過去を思い返していた俺の目から、一筋の涙が零れる。
「くそっ…嫌な事思い出しちまった…」
俺は手で目を拭きながら涙を堪えた。
あれから半年…俺はそれが原因で引きこもっている。
周りのみんなも俺の事を憐れみ、そんな俺を大目に見ているみたいだ。
……いや、きっとそれは違うのだろう…。
俺は親が亡くなった時に貰った遺産と、俺一人になった事に対する国からの援助で、バイトもせずに楽に生きていける今の状況に甘えているだけかもしれない…。
そう思うと情けなくなり、軽く下唇を噛んだ。
「考えても仕方ない…寝よ…」
俺は再度目を瞑り眠りに入ろうとする。
しかし、その時に俺はボイスレコーダーに入れた一単語を思い出す。
「そういえば腹が減ってるんだった…」
部屋の中に引きこもってから早20日…流石にもう買い溜めた食料や駄菓子も底を尽きている…。
だからと言って空腹のままでは眠るに眠れなかった。
「はぁ…面倒臭いけど支度して買い物に行くか…」
俺は空腹に耐えきれず、20日ぶりの外出を決意する。
しかし流石にこのだらしない姿のまま外に出ることは頂けない。
一応身だしなみに対しての常識のある俺は、風呂へと足を進めた。
そういえば風呂に入るのも3日ぶりか…。
頭を洗いながら俺はそんな事を思う。
カサカサになっていた俺の髪の毛は、3日ぶりの水分に潤いを取り戻す。
寝ぐせだらけだった髪は、水の重量と重力で目元に掛るくらいまで真っ直ぐに落ちる。
自分で言うのもアレだが、なかなかのストレートヘアだ。
風呂場で洗顔、洗頭、洗体を済ませた俺は、部屋に戻りクローゼットを開く。
そこには高校一年の時に買った昔の衣類がある。
その頃から今にかけて、さほど体格の変化の無い俺は、気にすること無くその衣類の中から適当な物を選び着こなす。
「まぁ、そろそろ冷えてくる季節だからこんなとこか…」
俺は自分の服のセンスに妥協点を打ち、玄関へと向かった。
「おっと…財布、財布…」
靴を履いて扉に手を掛けたところで、俺は財布を忘れていることに気づき、靴を脱ぎ部屋の中へと引き返した。
……今思えばこの行動が人生の分岐点であった。
財布を忘れることなく、そのまま家を出ていれば…。
財布を忘れたことに気づかず、そのまま家を出ていれば…。
今から始まる奇妙な体験をせずに済んだのかもしれない…。
「あったあった…よし、これで忘れ物は無いな」
机の上に置かれていた財布を手に取った俺は、再び玄関へ向かおうとする。
その時…窓の外からの強烈な閃光が、部屋の中を真っ白に染めた。
「うおっ!?」
俺は咄嗟に腕で目を覆う。
だが光は一瞬の事で、すぐに元の部屋に戻った。
…しかし外が騒がしい…。
窓ガラス越しに外を眺めると、隕石の落ちた公園の方で動きが見える。
「何かあったのかねぇ…」
公園の周りで騒いでいる大人達を見て、俺は他人事の様に独り言を呟く。
実際そんなものには興味は無かった。
さっきの強烈な閃光は多少気にはなるが…。
「おっと…そんな事より買い物買い物っと」
食料調達を思い出した俺は、今度こそ玄関へと向かう。
「ふぁぁ…早く腹膨らまして寝よ…」
俺は欠伸をしながら扉を開ける。
ただコンビニで食べ物を買うためだけに外に出るはずだった…。
欠伸を堪えるのに口には手を当てている…その指の隙間から俺は外の景色を見る。
その目の前の光景に俺は目を丸くする。
「え…? 何……これ……」
そこには見慣れているはずの景色が無かった。
その代わりに見えた景色に俺は言葉を失う。
昼間だと言うのに空は日が沈みかけ薄暗く。
明るい町作りの一環として育てられていた木々は全て朽ち果て。
周りに見える全ての建物が廃墟と化していた…。
これではまるで…そう、別の世界にワープしたかの様だった。