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魔法学院物語  作者: 彪紗
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『転生者』


輪廻転生。

死んであの世に還った魂が生まれ変わること。


基本的に死ぬ前の記憶を持つことはない。


しかし、まれに前世の記憶を持っていたり、思い出したりする人間がいることも確認されている。


人間が人間に生まれ変わることは転生、動物への生まれ変わりなども含むのは輪廻と使い分けられることもあり、前世と同じ記憶、同じ人格を保ったままでいることは、転生の中でも復活と呼ばれることもある。


それならば、と魔法学院に通う一人の少年は思った。

異世界に、人格を保ったまま生まれ変わることは、何と言うのだろう、と。


「ルーちゃん!」

少年―ノエルをそんな名称で呼ぶ人間は、この魔法学院には一人しかいない。


「うわっ!」

「俺を置いてくなんてヒドいよルーちゃん」

「…レイン。何度も言ってるがいきなり抱きついてくるなよ」

「でもちゃーんと受け止めてくれるじゃん」

「お前もろとも倒れるの嫌だからな」


ノエルに抱きついてきたのは、彼よりも若干背が高く、右側の目をファッション用の眼帯で隠している少年、レイン。


「で、何で置いてったんだよ。気がついたらいないからビックリした」

「そりゃお前が眼を使ったからだろ」


レインの持つ臓器型魔力体【魅眼】は精神系魔法【チャーム】と同じように、見た者を魅了する。

それも、レインの【魅眼】は強すぎて自分の意志でコントロールすることがとてつもなく難しい。

だから目線を向けた相手が寄ってくるのだ。


いつも一緒に行動しているが、ノエルはそうなるとそそくさと逃げる。

魅了にかかった者たちの視線も痛いからだ。


「せっかく半減してるのに…」

「まぁ強力だからな、お前の眼。夢魔の奴らといい勝負なんじゃねぇの?」

「俺はこんなのいらないよ」

「はいはい、悪かったって」

自分に抱きついたままふてくされるレインをノエルは撫でてやる。



ノエルは男だが、その前世は女だった。

地球という世界の日本という国の人間で、死んだのはよくあるパターンの交通事故、ではなく、嫉妬や私怨によって突き落とされたことだった。

何故嫉妬、私怨か分かったかと言えば、「あんたさえいなければ!」という声を聞いたからだ。


家族には迷惑をかけてしまうだろうな、と思い、視界が赤に染まったところで、今度は真っ黒な水の中にいた。


意識を保ったまま、男の子―ノエルとして生を受けたのだ。


レインとの出会いは生まれてすぐだった。

母親同士が仲がよかったのだ。


その頃はレインの魔力も弱く、ノエルの母親が「レイン君の方が可愛い」などと言う程度のものだった。

事実レインは顔も良く、ノエルから見てもやっぱり可愛いと思った。

ノエルの中身が女性であり、母性本能があったこともあるのだろうが。


周囲がレインの【魅眼】に気付いたのは、異常な程の誘拐回数からだった。

彼の家柄はノエル同様平凡な一般家庭であるのにも関わらず、気付けば誘拐されている、ということが何度も起きていた。


毎回、とばっちりで一緒に遊ぶノエルも誘拐されては、親馬鹿なノエルの父親が助けにくる。


ノエルの父は、魔力が少ないために魔法はあまり使えないが、身体一つで軍隊一つ潰せるんじゃないかというくらいの強さを誇る。


そうして縛り上げられた誘拐犯は、口を揃えて言うのだ。

「どうしようもなく欲しかった」とレインのみを見て。


毎回そんな調子が続いたため、ノエルの父はこれはおかしい、と思いレインの両親に問いかけた。


「レイン君に【チャーム】をかけたか?」

そんなわけはない、とレインの両親は憤慨したが、構わずノエルの父は続けた。


「なら、彼は臓器型の魔力体を持っているかもしれない。一度調べてもらったらどうだろうか」

至極真っ当な意見だった。

ただひたすら自分の子を可愛がっているだけだと思っていたレインの両親は、他人にも不自然なくらい可愛がられることを思いだし、レインに検査を受けさせることを決めた。


魔法探知機という機械を使えば、魔力体を持つかどうかが簡単に分かるのだ。


本来は魔法学院に入る前に適正を少し調べる程度だが、不自然な点がある子供には幼い頃からそれを受けさせることができる。


レインの検査結果は、そのものずばり臓器型魔力体【魅眼】の陽性。

検査を怖がっていたレインを少しでも安心させるため、一緒に検査を受けさせられたノエルもまた、魔力体の持ち主であった。


彼は様々な性質を持つ魔力を身体に纏う体質型魔力体の中でもレアな【無効】を持っていた。


だからこそ、レインの魅了がまったく効かなかったのだ。


成長するにつれ、レインの魔力は増加していき、誘拐どころか、強姦未遂の目に遭うことが少なくなかった。

それも、男女問わずだ。

【無効】を心配した父に武術を仕込まれているノエルがいつも助けに入るため、大事に至ったことは一度も無いが。


―「っく…っう…っ」


―「もう大丈夫だから、な?」


―「俺…もう、こんな目嫌だ…ねぇルーちゃん…俺の目、潰してよ…」


―「何言って…」


―「だってもう嫌だよ!」


―「目を潰すのはやめろ…一生後悔する」


―「でも…」


―「なぁ、片目塞いだらどうなるんだ?」


―「…分からないけど…」


―「じゃ、試してみよう」


その後、ノエルはレインにファッション用眼帯をプレゼントした。

ノエルの纏う【無効】がかかるのか、ノエルが触れるものにはその効果が付与されていることがまれにあった。


レインは【魅眼】がその眼帯を着けている間は半減することに気づき、魔法学院に入ってからもいつも着けるようになった。


時折コントロールし切れなくて眼帯を着けていない目で魅了してしまうことはあるが、以前のような目に遭うことはなくなった。


それでもレインはノエルと一緒にいたがる。

二人でいる時は、眼帯も外して。


魅了の瞳と無効の身体の持ち主は相性がいいのかもしれない。




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