ふすまをへだてて生活中
短編小説、電波が来ました。
よろしくお願いいたします。
うーん、お城にいって皇帝陛下に謁見するの?
神宮 美都あるいはミト・オーリーシア・チリアエシは思った。
「姫様、おきれいでございますわ。」
いつもは単なる庶民な美都も
ふすまを越えれば、チリアエシ家の姫様である。
「本当に、いかなきゃダメなの?」
美都は言った。
「姫様、大変名誉な事でございますわ。」
メイド頭が言った。
さっきから皇宮に行くために
スタイリストとメイドに取りつかれて
着替え中なのである。
父親に留学先から呼び戻されたから何事かと思ったらこの始末である。
「ご挨拶もなにも…ほとんど、こっちで生活してないからな…。」
美都は呟いた。
美都の両親は実は異世界結婚だ。
本当なら、会うはずのない二人があったのは
運命と言えなくもないが、
結婚は母いわく、成り行きである。
「姫様、礼法は覚えてらっしゃいますわね。」
メイド頭が迫った。
実は美都はほとんど、異世界、つまり、明正和次元の日本にすんでいる。
明正和次元のほうが高度な教育?グローバリズムな感覚を身に付けられるからである。
両親は普段、グラソドール世界のオーレウス帝国チリアエシ領に住んでいるが
美都自身は母親の実家神宮家から、留学先の明正和学園に通っているのである。
「うーん、まあ、なんとかなるよ。」
着飾らされた美都は言った
オーレウス帝国の皇宮は
まあ、王宮の例にもれず豪華絢爛と
言っておこう。
そこかしこに勇者オダーウエ、現神聖皇帝陛下の象徴があるのはご愛敬?である。
「ミト・オーリーシア・チリアエシでございます。」
美都は教科書通りの礼をした。
なにせ、控え室で礼法の仕方の教科書を読みまくったのだ。
「チリアエシ公の娘か、健勝で何より。」
皇帝陛下は適当な事を言った。
なにせ、後に良家子女の列が控えているのだ。
適当でいいのである。
若い新皇帝は忙しいのである。
挨拶は適当に終わった。
「ミト姫、皇帝陛下が個別にお会いしたいそうです。」
侍従が控え室に伝言を持ってきた。
皇帝陛下が会うのだから光栄に思えとばかりの言いぐさである。
「そうですか?お忙しいのですから、私に時間を割いていただかなくても結構ですわ。」
ミトは言った。
もうかえるつもりだったミトには迷惑の話である。
はっきりってめんどくさいのである。
「…ミト姫、陛下が望まれているのですよ。」
侍従が脅し?をかけた。
「めんどくさい、うちの父親は不忠者じゃないので大丈夫ですよ。」
ミトはズバリと言った。
「そう言う問題ではないのです。」
侍従は言った。
「どういう問題なんですか?」
ミトは言った。
「来ていただかなければ、仕事が片付きません。」
侍従がついに本音をもらした。
「わかりましたよ。」
ミトはため息をついた。
ローギヌ・ジアウス・ハウレーウエ・オーレウスはこの国の新皇帝である。
まだ、独身の彼にご令嬢がとりつくのは仕方ない話である。
「めんどくさそうだな。」
ローギヌが言った。
「お忙しいのに、わざわざ光栄に存じます。」
美都は適当な礼をした。
さっきの一瞬で礼の仕方は使い果たしたので
本当に適当である。
「…まあ、座るがよい。」
自分にそっけないなんて新鮮なんだとローギヌは思った。
特に皇后ねらいの若い娘は媚を売るのが普通でだったからである。
「あの、結構です。」
美都は言った。
ドレスでソファーはなれてない美都にはきつい。
「なぜだ?よいではないか?」
ローギヌは言った。
「私も忙しいので、手短にお願いします。」
美都は言った。
座ってお茶を飲んでる間があれば、小売業経営者実習に出たい美都であった。
なぜなら、オーレウス帝国のチリアエシに母親が経営する、万屋青天屋があるのである。
いずれ、それを継ごうと考えてる
美都は只今小売業経営者資格取得を目指す
高校生なのだ。
「そうか、ではまた、来るがよい。」
ローギヌは言った。
なんて面白いと思ったのだ。
忙しい、それで、皇帝の自分との個別に会う機会を面倒がる女、面白いと思ったのだ。
そもそも、謁見時もそっけなさが
気になって呼んだのだが。
かくして、二人は出会った。
「いい加減にしてください。」
美都は言った。
あの日、謁見に出なければ、こいつとで会わなかったのにと美都は思った。
みんなこいつと会うために苦労をしているのである。
「その商品はなんだ?」
ローギヌが言った。
美都の手伝う万屋青天屋にローギヌがお忍びで押し掛けたのだ。
年中来ているのである。
ちなみに今日は母親が商品の見本市に明正和次元に行ったので店番中なのだ。
「モミモミわんこですよ。」
美都は小さい犬のぬいぐるみを持ちながら言った。
結構リアルなゴールデンレトリバーのぬいぐるみである。
大きさは手のひらサイズだが。
可愛くてよく、きくと評判の人気商品なのである。
「モミモミわんこ?」
ローギヌが言った。
「ハンディーマッサージャーですよ。」
美都はため息をついてローギヌの肩にぬいぐるみを置いた。
「いやだいやだいやだ。」
そう言いながらぬいぐるみが手足バタバタさせて肩を揉んでいく。
「おお、気持ちいいな。」
ローギヌが言った。
「限界なの。」
モミモミわんこが途中で止まった。
こりすぎでパワーが切れたらしい。
「うーん、こりすぎですよ、ここ固いし。」
美都がローギヌからモミモミわんこをとってローギヌの肩をもんだ。
「仕事が忙しくてな、ミト、そこがいい気持ちだ。」
ローギヌが言った。
「固すぎですよ、マッサージ師雇ったら?」
美都が揉みながら言った。
ハイパワーモミモミわんこDX でも注文しようかなとおもいながら。
「ミトがいればいい、いつでも一緒にいてほしい。」
ローギヌが笑った。
普通のご令嬢ならしてやったりというところであるが
美都には面倒な話である。
「ええ?嫌ですよ。」
美都は言った。
回復符のサンプルがあったっけとおもいながら
棚をあさっているようだ。
「ミト。」
ローギヌが呼んだ。
「なんで…。」
振り向いた、ミトはローギヌに顎を持たれて長々とキスされた。
「…陛下、ミト姫がお好きだったのですね。」
用を済ませて入ってきた侍従が言った。
「ミト・オーリーシア・チリアエシは今日から、皇宮にすむ。」
ローギヌが宣言した。
「ええ?困るよ。」
ミトは言った。
「余の皇后になりたいものは沢山いるぞ。」
ローギヌがミトの手を持って言った。
「じゃ、そう言う人に任せます。」
ミトは言った。
「余はオーダウエ神聖皇帝の血をよく引いてるようだ、はっきり言おう、ミトをもう人前さらしたくない。」
ローギヌが言った。
あまり、知られてない話だが。
勇者オダーウエが邪神を倒したのは
執着する聖剣の化身が体調不良で壊れる前に環境改善をしたかったからだとされる。
その聖剣と壊れる瞬間まで一緒にいたかったらしい。
つまり、ヤンデレといえよう。
それでも、オーレウス帝国を建国したのだからよくわからない勇者である。
「…皇帝陛下…私は客商売なんだってば。」
美都は頭を抱えた。
「だから、ミトは余の腕の中で今後暮らせばよい。」
皇帝陛下が妖しく微笑んだ。
まるで、拘束するように美都の腕をつかんだ。
「…あのさ、しらゆきふんわりエビ一千チーズ味のサンプルあげるから穏便にプロポーズしてください。」
美都はあきらめモードである。
「穏便とは…どういう風にだ?」
ローギヌが聞いた。
分からないようである。
「うん、家の父親は三食昼寝パーティー付きっていったらしい。」
美都は言った。
父親はその前にきちんとプロポーズしているのであるが
とかく、人は印象深い方を覚えているものである。
「そういえば、余の腕の中にずっといてくれるのか?」
ローギヌが妙に可愛く小首を傾げた。
美形皇帝陛下に似合わないしぐさである。
「いやいや、ちがいますよ、それにドレス着放題、食べ放題をつけなきゃだめですよ。」
侍従が言った。
至高の存在に言いたい放題である。
「…皇宮内に万屋の売店作りたいな…あと、きちんと人前出させてくれればなんとか…ってながされてるよ、私。」
美都は愕然とした。
「…しかたあるまい、ミトが他の連中にみられるのは嫌だが…余のものとなるならがまんしよう。」
ローギヌは苦渋の決断をした。
かくして、神宮美都ことミト・オーリシア・チリアエシは
オーレウス帝国皇帝、ローギヌ・ジアウス・ハウレーウエ・オーレウスと
婚約した。
当然、結婚は美都が卒業してからの話である。
はたして、ヤンデレ皇帝が美都を囲い込まずに我慢できるのであろうか?
あたたかく、見守って行きたい。
「…言ってるそばから部屋に格子つける算段しない!」
美都がローギヌの膝の上に抱き込まれてたまま万屋、設備品カタログを見ながら言った。
皇宮内売店は万屋青天屋の支店としてとりあえずやってみる予定だからである。
「ミトを奪われたくない。」
ローギヌは格子のカタログをみながら言った。
ある意味究極の防犯マニアと言えよう。
中に入ってる宝物も閉じ込めたいのであるが…。
「ミト…。」
ローギヌは幸せそうに美都にキスした。
高校生にエロエロ過ぎである。
まったく、こまった男である。
幸せを祈るばかりである。。
読んでいただきありがとうございます。